第10話010「一致団結したようです」



「リオ⋯⋯」

「ん?」


 すると、院長先生が少し申し訳なさそうな顔で声を掛けてきた。


「リオの考えた仕事は素晴らしいと思うわ。でもね、その⋯⋯何て言うか⋯⋯」

「月大金貨1枚には届かない⋯⋯でしょ?」

「! リ、リオ、あなた⋯⋯」


 どうやら、ビンゴのようである。


「うん。それは俺も考えたよ、院長先生」


 そう言って、俺は院長先生に1回の依頼料の金額や、それで月に稼げる金額などを伝える。


「す、すごい。リオ⋯⋯あなた、そこまで計算ができて⋯⋯」

「ま、まーね。いっぱい考えたから⋯⋯ははは」


 危ない、危ない。この世界じゃ8歳の孤児がお金の計算なんてできないからね。ていうか、お金の計算どころか、文字の読み書きもできないのが普通だし。


 もっと言えば、俺と同じ歳の平民の子供でもお金の計算はほとんどできないし、何だったら文字の読み書きさえできない子も多い。まーまともな教育を受けられるのは貴族の子供くらいだからな、この世界は。


 一応、自分が四則演算ができることや、文字の読み書きができることは院長先生にも隠してある。⋯⋯が、気づいているようではあるがな。


「そう。すごいわ、リオ。でもね、それなら、なおさら別の仕事を考えないと⋯⋯」

「院長先生! 実はもう1つ考えているものがあるんだ!」

「もう1つ?」

「うん。あの、これ⋯⋯何だけど⋯⋯」


 そう言って、俺はスキルで作った『ヘチマたわし』のオリジナルを院長先生に渡した。


「こ、これはっ!?⋯⋯⋯⋯何かしら?」

「これはね⋯⋯」


 俺は院長先生にヘチマたわしの説明をした。


「こ、これが、ヘチウマ⋯⋯なのっ?!」

「うん。名前はヘチマたわ⋯⋯あ、いや、ヘチウマで作ったものだから『ヘチウマたわし』っていうんだ」

「ヘチウマたわし⋯⋯『たわし』っていうのは何?」

「え? あー⋯⋯」


 そうか。この世界には『たわし』自体がないのか。


「え、えっと、何となくだよ?! この手に収まる大きさで、丸っこいガサガサしたものを見て⋯⋯何となく『たわし』って⋯⋯」


 俺はまさか『たわし』のことを聞かれると思わなかったので慌ててしまい、とりあえず「何となく、そういう名前を付けた」と説明。すると、院長は少し怪訝な顔をするも、


「へ〜⋯⋯『ヘチウマたわし』か。うん、わかりやすくていいネーミングね」

「あ、ありがとう!」


 特に怪しむこともなく、俺のネーミングを褒めてくれた。


「どうやって作るの?」

「あ、あのね⋯⋯! ヘチウマを乾燥させて、周囲の皮を剥くだけだよ! しかも、ヘチウマ1本で『ヘチウマたわし』が5〜6個できるんだよ!!」


 そう。ヘチマたわしは『金太郎飴』のようにヘチウマ一本を輪切りにして切り分けて使う。森にも自然に生えているし、孤児院でも簡単に植えられるので材料費はほぼ無料。その上、ヘチウマ1本から5〜6個作れるので、経済的にもとてもお得な商品なのである。


「こ、これ⋯⋯本当に、すごい⋯⋯わね⋯⋯!?」


 おっと⋯⋯シスター・マリー院長先生がヘチウマたわしの潜在能力ポテンシャルに気づいて、ガチで驚いている。ふふ、そうでしょう、そうでしょう。


「ヘチウマは3週間で完全に乾燥するので、これからみんなで森に行ってヘチウマを採りに行って、それを孤児院の日当たりの良い場所で干すぞ! あと、種を取って孤児院に植えれば次回からは森に行かなくてもすぐに作れるぞ! ということで、みんな森に行ってヘチウマ採りだぁー!」

「「「「「おおおおおおお〜っ!!!!」」」」」


 俺の呼び声を皮切りに子供達が一斉に外に飛び出して、森に向かって走って行った。


「ふふふ⋯⋯」

「シスター・マリー?」

「ううん⋯⋯何でもないわ。それにしても、すごいわ、リオ。これなら、もしかしたら本当に私達だけで孤児院を運営できるかもしれないわね」

「大丈夫だよ、院長! 俺が絶対にこの事業を成功させて、自分たちだけで孤児院を運営できるようにするからっ!!」

「ありがとう、リオ。頼りにしてるわ」

「へへっ! まかせてよっ!!」



********************



——『院長室』



「リオ⋯⋯あの子。本当にすごいわ」


 子供達が全員森に行き、孤児院に一人残ったシスター・マリーはリオからもらった『ヘチウマたわし』を持って院長室にいた。


「⋯⋯それにしても、やっぱりあの子はタダものじゃない。あの日、孤児院に捨てられていたリオ。まだ生まれたばかりの赤ん坊のはずなのに、すぐに孤児院にある大人でも難しい本をちゃんと理解して読んでいた・・・・・・・・・・・・・し、言葉が喋れるようになるや否や、すぐに敬語を使いこなしていた。⋯⋯私の『スキル:天啓(光)』の言った通りだったわね。それにしても⋯⋯ふふふ、懐かしいわ」


 シスター・マリーが当時のことを思い出しながら感慨深げに笑みを浮かべる。


「一体、あの子が何者なのかはわからない。でも、すごく優しくて思いやりもあって、そして⋯⋯賢い。たぶん、私が思っている以上に。それこそ、語り継がれている『天孫てんそん神話』を彷彿とさせるような⋯⋯⋯⋯!」


 シスター・マリーは「ふぅ」と自身の興奮を落ち着かせようとホットミルクを一口含む。


「⋯⋯もしも、もしも、本当にリオが天孫神話にある『天孫』に当たる者、もしくは関係者であるなら、事業はうまくいくでしょうし、予想以上の結果が訪れるでしょう。その時は絶対に神殿関係者・・・・・に見つからないように注意しなければ⋯⋯。私がリオを守らなければ⋯⋯!」




 プロローグ 完





********************


【毎日12時更新】

 明日もまたお楽しみください。

 あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


「生活魔法で異世界無双〜クズ魔法と言われる生活魔法しか使えない私が、世界をひっくり返すまでのエトセトラ〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330655156379837

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