第30話030「幕間:ウラノスは面白くて仕方ないようです」



 それは突然だった。


「おーい、ウラノスー!」


 その声の主は、ここ最近来ていなかったあの『わがまま腐れ縁』のマリーだった。


「何だ、マリーじゃねーか。何しにここにきた?」

「久しぶり。⋯⋯相変わらずね。ちょっとは部屋片付けなさいよ」


 マリーがいつもの聞き慣れたセリフを吐く。そして、俺もまたそのセリフに対するいつもの返しをする。


「うっせえ! これがベストポジションなんだよ!!」


 そんな、いつものやり取りを済ませるや否や、突然マリーが俺に紹介したい『子供』がいると言ってきた。マリーは神殿の人間でこのタスク村の孤児院で孤児たちの面倒を見ているのは知っているが、彼女が俺に子供を紹介するなんてことは今までなかった。


 何だ? 何の意図がある?


「おいおい、ここは孤児院じゃねーんだぞ? 俺に子供を紹介って⋯⋯どういうことだよ?」

「ふふふ⋯⋯、この子はただの子供じゃないわよ?」

「何?」


 マリーがニヤニヤしながらそう言うと、そのマリーの後ろから小さな人影がひょっこり顔を出した。


「は、初めまして⋯⋯リオです」



 これが、その後長い付き合いとなるリオとの出会いだった。



********************



 その後、マリーがこのリオが最近噂になっていた『ヘチウマたわし』を作った本人だと説明をした。ぶっちゃけ、正直な感想は「そんなわけあるか」だ。


 ただまあ、せっかくマリーが久しぶりに来たからということで、俺はとりあえずマリーの言葉に乗っかった。


「それで? そんな子供を俺のところに連れてきたってことは⋯⋯俺に何か作らせようってことなのか?」

「そう! さすが、察しがいいわね、ウラノス! そうなの。今すでにその商品開発の目処は立ったんだけど、それには魔道具を作ってもらう必要があってね⋯⋯!」


 俺が少しマリーの言葉に乗ってやるかと思い声を掛けるや否や、怒涛のようにマリーが魔道具を作って欲しいと言ってきた。さすがにそこまでする義理はないので俺はマリーが苦手とする「『古参客』の注文が溜まっている」といって断りを入れた。


 その子供がすごいとマリーは信じているようだが俺はそう思えない。まー確かにこの辺のガキの中では賢そうな顔立ちではあるがな。しかし、それだけだ。


 そんなことを一人考えていると、


「シスター・マリー院長先生。俺は別に構わないよ。別にこの人に作ってもらおうなんて思ってないから」


 そのガキがそんな生意気なことを言ってきた。さらに、


「だって、何を作るかの話も聞かずに『子供だから』とか『ガキの遊び』とか言って一方的に決めつけるような⋯⋯そんな視野の狭い職人なんてこっちから願い下げだもの」

「何だと?」

「リオ?!」


 リオが畳みかけるように俺の態度の不備を指摘する。俺はリオの言葉にイラっとしたものの、しかし、少しだけ、他の子供とは明らかに違う『何か』を感じた。


 そんなリオがトドメを刺しに来る。


「それに、俺が今回作った魔道具はこの世界でまだ見たことがないってシスター・マリーも言ったでしょ? だったら、商業ギルドのギルド長であるオスカーさんに話をして、この人よりも優秀な魔道具職人を紹介してもらえればいいじゃん」


 そんなリオのトドメの言葉に俺は思いっきり刺された。


「だから⋯⋯お前ほどの知識人・・・・・・・・でも見たことがない魔道具だってのは本当かって聞いたんだ!」

「! え、ええ⋯⋯そのとおりよ。私のこれまでの知識を総動員してもリオが作った魔道具は見たことがないわ」


 マリーの言葉に衝撃が走る。


 マリーは元々神殿総本部にいた。そんな『目の肥えた』マリーでさえ見たことのない魔道具がもし本当なら実に興味深い!


「⋯⋯なるほど。おい、ガキ!」

「リオだ!」

「ふん! おい、リオとやら! そこまで言うならその魔道具見せてもらおうじゃねーか。まーぶっちゃけ、マリーが知らないだけで俺が知っているってこともあるしな。それに、子供が考えて作ったものなんて⋯⋯まー子供が魔道具を作っただけでもすごい話ではあるが⋯⋯それよりも、その魔道具を見て俺が作りたいと思えるかってのは正直⋯⋯俺様を舐めすぎだ」


 そう言って、ウラノスがニヤリと口角を上げる。


「⋯⋯上等だよ、おっさん」




 その後、森に行ってリオの作った魔道具を実際に見ると、もはやガキだろうが何だろうが関係なかった。それほど、このリオの作った『卵殺菌用魔道具』はすごいものだった。


 卵を生で食べると腹を壊すことは誰だって知っているし、下手したら死ぬことだってある。


 そんなもんを生で食べるために捻り出した発想が魔道具による殺菌だとは⋯⋯。


 しかも、卵を高速に振動させることで卵の中の有害な菌が死滅するなんて⋯⋯。


 どうして、そんな発送に至ったのか、どうして、そんな魔道具を作り出すことができるのか⋯⋯まるでわからない。


 だがしかし、少なくとも一つ言えることはここにいるガキは⋯⋯⋯⋯世界でも類を見ないほどの『天才魔道具師』だってことだ。


 まったく⋯⋯マリーもとんでもないガキを連れてきたもんだぜ。




 最高だぜ、まったく!





********************


【毎日12時更新】

 明日もまたお楽しみください。

 あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


「生活魔法で異世界無双〜クズ魔法と言われる生活魔法しか使えない私が、世界をひっくり返すまでのエトセトラ〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330655156379837

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