第36話036「商業ギルド長の右腕になるようです」



「とにかく、リオ君のこのマヨネーズが一度販売されれば人気商品となり、それはこのセイントファインを席巻するだろう。これだけは自信を持って言える。だから、リオ君にはできるだけ早いうちに商業ギルドこちらに住まいを移してほしい。どうだろうか?」


 そう言って、オスカーがシスター・マリーを見る。


「⋯⋯リオはどうしたいですか?」

「シスター・マリー⋯⋯」

「私もオスカーの案に賛成です。そのほうが現状の中で最善と言えるでしょう。ただ、そうなると⋯⋯リオは孤児院を出なければなりません」

「⋯⋯はい」

「少し、早い卒業ですが、私としてはリオ⋯⋯あなたの命が一番心配です。なので、このまま孤児院で暮らすのではなく商業ギルドでオスカーの従者として雇われ、護ってもらってほしいと思っています。どうですか、リオ?」

「お、俺は⋯⋯俺は⋯⋯」


 確かにこの状況でオスカーの提案は⋯⋯『最善手』だ。


 でも、首を縦に振れば俺は孤児院から出て、商業ギルドで暮らすことになる。それはペトラやミトリたちとも離れ離れになるということ。


 正直、すごく嫌だ。あいつらと離れたくない⋯⋯。あいつらだけじゃない。孤児院の子供達もだ。そして⋯⋯シスター・マリーとも。


 俺は最善手だとわかってても首を縦に振ることができない。その時だった。


「リオ、何を迷ってんだよ!」

「ペ、ペトラ⋯⋯」

「そうだよ、リオ! 絶対にオスカーさんの従者さんになるべきだよ!」

「ミトリ⋯⋯」

「はぁ〜⋯⋯まったく、あれだけ大人顔負けの知識や立ち回りができるのに、こんな簡単なことにはどうして答えられないだよ。バカか、リオは?」

「ケビン⋯⋯」

「リオ! 絶対にお前はオスカーさんのところに行くべきだ! それにオスカーさんも言ってたろ? 俺たちにはいつだって会えるって。ただ寝泊まりする場所が変わるだけの違いじゃねーか? そんなもん永遠の別れじゃないんだから、考えるまでもねーだろ!」

「ケビン⋯⋯お前⋯⋯」

「そうだよ、リオ! ケビンの言うとおりだよ!」

「ミトリ⋯⋯」

「まったくだ! ケビンにしては珍しく100点の回答だな!」

「ペトラ⋯⋯」

「いや、ペトラ! 普段から天然のお前だけにはそんなこと言われたかねーよ!」

「な、ななな、何をぉぉー!!!!」


 気づくと、ペトラとケビンの言い合いが始まっていた。俺はそれを見て、


「はは⋯⋯あははは⋯⋯まったく相変わらずだな、お前らは」

「「「リオ⋯⋯」」」

「ありがとな、ペトラ、ミトリ、ケビン。お前らのおかげで吹っ切れたよ」

「リオ⋯⋯」

「それじゃあ⋯⋯」

「はい。オスカーさんの申し出⋯⋯快く受けさせていただきます! どうか、よろしくお願いいたします!!」

「リオ君、いいんだね?」

「はい。むしろ、ここまでしてくれて本当にありがとうございます!」

「いいんだ。これは個人的に私が君にしてあげたいだけだから」

「! あ、ありがとう、ございます⋯⋯」


 オスカーさんのまたもや手放しの褒め言葉に照れてしまった俺は、少しはにかみながらお礼をした。は、恥ずい⋯⋯!


「シスター・マリー⋯⋯俺、オスカーさんのところでお世話になります」

「ええ、頑張りなさい」

「はい!」

「リオ⋯⋯」

「! ウラノス⋯⋯」

「野暮かもしれんが、一応、お前の今回の状況は他人から見たら『出世』になるわけなんだが、そこんところわかっているのか?」

「え? そうなの?」

「はぁ〜⋯⋯⋯⋯やっぱりこいつ理解してなかったか。あのなぁ〜⋯⋯」


 ということで、ウラノスに一通り教えてもらった。


 どうやら、平民よりも身分が低い『孤児』が貴族の従者になるのはかなり『異例』なことらしい。しかも、


「わかっているとは思うが、オスカーは『底位貴族ボトムノーブル』などではなく、ちゃんとした血統がある『中位貴族ミドルノーブル』だからな? そんな中位貴族ミドルノーブルに孤児が従者になるって話なんだ。これでも十分神殿に怪しまれてもおかしくないくらいには大出世だからな?」

「そ、そんなに⋯⋯!? じゃ、じゃあ、やめたほうがいいんじゃ⋯⋯」

「バカ。それができたら苦労しないんだよ! お前の事情を考えたらこれが精一杯の最善手なんだよ。これ以上でもこれ以下でもやりすぎになっちまって、そうなると、余計に神殿関係者の目に止まるリスクがバカ上がるんだよ!」

「ええええええ⋯⋯」

「ただ、それだけの出世ではあるという現実だけはちゃんと自覚しとけよ? そうしないとお前はまた勝手な判断でおかしなことをしでかしそうだからな」

「な⋯⋯っ!? し、失礼な! ウラノスの分際で!」

「何だと、てめぇ!? お前は俺に対する失礼な態度をもう少し改めろ!」

「やだね」

「くっ! クソガキが⋯⋯!」


 そう言うと、ウラノスが俺に向かって歩いてきた。俺はその姿を見てすぐに身構える。すると、


「はいはい⋯⋯おしまい! ウラノスもリオも今はそういうのは無しよ、無し!」

「シスター・マリー」

「何を誤解してんだ、マリー? 俺が子供相手に手ぇ出すわけねぇじゃねーか」


 ほんとか〜? かなり、嘘くさいぞウラノス君〜?


「ま、とにかく、これで何とか問題なくマヨネーズの販売ができるでしょう」

「ええ、そうね。ありがとう、オスカー」

「いえいえ、こちらこそ。リオ君という『掘り出し物』を手に入れたわけですから。私のほうがむしろお礼したいくらいです」

「じゃあ、美味しい飯でも奢ってくれよ」

「いいですよ。じゃあ、話も済みましたし食事にしましょう。少し早めのランチとなりますが、すでに席は予約してあるので今からまいりましょう!」

「お、おいっ! テンション高すぎだろ、オスカー!?」

「そりゃそうですよ! これからリオ君が私の右腕となって一緒に新商品を生み出していくんですから! これ以上に嬉しいことはありません。ということで、さっさと移動しますよ、皆さん!」


 そう言って、颯爽と歩き出す、オスカー。


 そんなテンション爆上がりのオスカーに度肝を抜かされたオスカー以外の面々。


「はは⋯⋯まーでも、ああいうオスカーさんを見れてよかったです。何だか俺も楽しみになってきました」

「そうね。オスカーがあんなテンション高いのは本当に珍しいことなんだけどね。まーでも、リオが楽しくやれそうって思ってくれるのなら、賛同した私も嬉しいわ。ありがとう、リオ」

「そんな⋯⋯シスター・マリーがお礼することなんて、俺は何も⋯⋯」


 シスター・マリーがそう言って、俺に頭を下げたので必死になってやめるよう説得していると、


「おーい、リオ。いくぞー!」

「行こう、リオ!」

「ふん! さっさと美味しい飯とやらにありつくぞ、いそげ、リオ!」

「わわっ!? お、お前ら⋯⋯! そ、そんなに腕を引っ張んなって⋯⋯⋯⋯おわっ!!!!」


 ペトラ、ミトリ、ケビンに腕を捕まれ、ドナ○ナのごとくズルズル引っ張られる俺。


「は〜⋯⋯こうやって見るとただの子供にしか見えないんだけどなぁ〜⋯⋯リオの奴あいつ


 と、ウラノスが引っ張られていくリオを見てボソッと呟く。


「そうね。でも、実際はそうじゃない。彼は『スキル持ち』どころか『天孫てんそん』として神殿に疑われるかもしれないわ」

「⋯⋯だな。それに、もしも、まかり間違って、リオが本当に『天孫』だった日にゃ、もはや神殿だけに収まる話・・・・・・・・・じゃなくなるからな」

「ええ。そして、私はその可能性がそこまで低くないと思っているわ。だから⋯⋯怖いの」

「⋯⋯まー、お前がそんなこと言うってことは何かしらリオがその『天孫』である可能性があると感じているということか」

「⋯⋯」

「⋯⋯無言か。まー今はいい。ただ、もしも、もしも、そんな未来が来たら、その時はこの話の『続き』をしてくれよな?」

「ええ、必ず⋯⋯」




 こうして、孤児だったリオは商業ギルド長の従者として雇われるという『異例の大出世』を果たすのであった。




 第一章 完





********************


 第一章完結です。


 第二章は少し間を置きます。

 少し時間を置きますがよろしくお願いいたします。



【毎日12時更新】

 明日もまたお楽しみください。

 あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

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この美しくもクソったれな異世界にそろそろわからせる時が来たようです〜異世界孤児スタートとかいうデバフスタートですが何か?〜 mitsuzo @mitsuzo_44

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