第18話018「一発かますようです」
「ん? 今、何か言ったか?」
「⋯⋯いえ、何も」
バグズ卿がリオの顔を見下ろしながらそう呟く。そして、その眼下からバグズ卿を見上げるリオはこう思っていた。
(うわぁぁ、でっぷりと太ってまぁ〜⋯⋯オットセイやん。オットセイ卿やん。いや〜、それにしても
心の中の言葉とはいえ、なかなかの非道いディスリである。
しかし、表面上ではバグズ卿に許しを乞うような、まるで涙が今にも溢れそうな⋯⋯そんな表情を貼り付けていた。
そして、そんなリオの顔を見たオットセイ卿⋯⋯あ、違った、バグズ卿は、
「ふむ、そうか。私の聞き間違いであったかな? まーいいだろう。一度ならば許してやろう。私は心が広いからな」
「⋯⋯ありがとうございます」
「まー子供が背伸びしたいのもわからんでもないが、しかし、さすがに身の程を知ることは大事だぞ、
「⋯⋯はい」
「まー、これに懲りて大人の世界に首を突っ込まないことだ。よかったな、
「⋯⋯はい。ありがとうございました」
「そうだろう、そうだろう。がっはっはっは⋯⋯! さて、そろそろ行くとするか。今は
「⋯⋯またのお越しをお待ちしております」
そう言うと、『オットセイ卿』ことバグズ卿は大きな体を揺らしながらのっしのっしと去って行った。
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「い、今のが⋯⋯俺たちの商品を⋯⋯『ヘチウマたわし』を横から掻っ攫っていった奴だってのか⋯⋯?」
「そうみたいだな」
バグズ卿が去って行ったのでペトラを解放するや否や、ペトラは俺に唇を震わせながらそんなことを聞いてきた。俺はそんなペトラに感情を込めずただ淡々と肯定の返事を返す。
「ちくしょう⋯⋯! よりにもよってお貴族様かよ! 平民だったら少しは交渉できるかと思っていたのに⋯⋯!」
そう悔しそうな表情を浮かべながら言葉を発したのはケビン。どうやらケビンは偽造品を作り商品登録した相手が平民だったのであれば交渉するつもりでいたらしい。
たしかに、相手が平民だったなら、少しは可能性があったかも知れない。しかし、貴族ではどうしようもない。
「みんな⋯⋯」
すると、ここで商業ギルド長のオスカーがリオを含めた子供達に声をかける。
「君たちは今、とても悔しい思いをしているだろう。しかし、これが現実であり商売だ。彼⋯⋯バグズ卿はきちんとルールに則って商品登録・技術登録をしたのだ。今回はバグズ卿が君たちの商品をマネして、さらには自分らが生み出した商品であるかのようなことをしたが、しかしルール上、バグズ卿が商品・技術登録を行った以上、彼に非はない。わかるね?」
「で、でも⋯⋯! 本当にあれは⋯⋯俺たちが⋯⋯リオが考えた商品⋯⋯」
ここで、ペトラがオスカーさんに食い下がる。しかし、
「ああ、そうかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。でもね、今回の件は君たちの『落ち度』だ。例え、商品登録や技術登録が必要だったことを知らなかったとしても⋯⋯、例え、それを知らなかった君たちのことを知ってその商品の権利を横から掻っ攫うようなことをされたとしても⋯⋯、それは今回商品登録・技術登録を知らなかった⋯⋯もっといえば商売をする上で必要な情報を先に取らなかった君たちの落ち度、ミスということなんだ。わかるかい?」
「「⋯⋯は、はい」」
「納得はいかない⋯⋯けど⋯⋯」
オスカーさんはペトラや子供達に向けて、ゆっくりと丁寧に説明していくとペトラもミトリも素直に理解の意を示す。ケビンはまだちょっと納得はいかないようだが、しかしオスカーさんの言っていることはちゃんと理解しているようだった。
「君たちは今回の経験で多くを学んだね?」
「うん! 商売するにはちゃんと商売のルールを勉強すること!」
「うん! 次は失敗しないように頑張ること!」
「うん、うん。そうだね」
「今後は今日と同じミスを二度と起こさない! 隙あらばこっちも相手の利益を掻っ攫う強い気持ち!」
「うん、う⋯⋯んんんん? えっと、ケビン君?」
ペトラとミトリはオスカーさんの期待通りの答えが返ってきたようだが、ケビンについては斜め上の答えが返ってきたため、若干ケビンを心配する素振りを見せる。
「最後に⋯⋯リオ君」
「はい」
「話では君があの『ヘチウマたわし』を開発したそうだね。正直、あれだけ流行になるくらいのヒット商品を生み出すのは至難の業だ。実際私も触ってみたがあれは素晴らしいものだと思う。自分を誇りなさい」
「⋯⋯ありがとうございます」
「うむ。では、これにめげることなく、またいつでも商業ギルドに来てくれたまえ。またここに来ることがあったら、その時もまた私が君たちの専属として担当させてもらうよ」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
「うんうん」
ペトラたちがオスカーさんの言葉にお礼を言う。どうやら、オスカーさんが俺たちを特別に扱ってくれることを理解できたようだ。
しかし、しかしだ。
このまま帰るのは、はっきり言って⋯⋯面白くない。ていうか、ムカつく。
ということで、俺はここで一発
「あの⋯⋯オスカーさん」
「何だい、リオ君?」
「また
「え? すぐに? それは、どういう⋯⋯」
「次の新商品の商品登録と技術登録のために伺います、ということです」
「何っ?!」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべるオスカーさん。俺は気にせず話を続ける。
「⋯⋯正直、今回の『ヘチウマたわし』の件は残念ではありますが、ですが、とても貴重な経験をさせていただきました。バグズ卿の言う通り『良い勉強代』になりました。むしろ安いくらいです」
「⋯⋯リ、リオ君?」
「今度は『ヘチウマたわし』よりも大きく利益が生まれるような商品をまた近いうちに持っていきますので、その際はまた改めて、
俺の言葉を聞いて、さっきまで優しい眼差しだったオスカーさんの目がギラリと見定めるような眼差しに変わる。
「⋯⋯ふふふ、いいでしょう。面白い⋯⋯やっぱり君、面白いよ、リオ君」
「ありがとうございます」
「もし、リオ君が本当に『ヘチウマたわし』以上の新商品を持ってくることができたのなら、その時は君のことを真正面に受け止め、そして認めよう。⋯⋯しかし、あの『ヘチウマたわし』を上回る新商品を作るなんて正直かなり厳しいだろう。だから、3ヶ月後でも、半年後でも、何なら1年過ぎてでも、私はリオ君のことを待っているよ」
「⋯⋯オスカーさん」
「だって、それだけ君のやろうとしていることは難しいことだからね? だからリオ君は特に期間など気にせず新商品の開発に邁進してくれたまえ」
「ご厚意ありがとうございます。でも、私は必ず
「ふふ⋯⋯そうかい? それじゃあ
「はい。では、失礼します」
そう言うと、リオはクルッと勢いよく身を翻し、そのまま商業ギルドを去って行った。
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【毎日12時更新】
明日もまたお楽しみください。
あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404
「生活魔法で異世界無双〜クズ魔法と言われる生活魔法しか使えない私が、世界をひっくり返すまでのエトセトラ〜」
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