第19話019「幕間:前代未聞の少年のようです」
「ご厚意ありがとうございます。でも、私は必ず
「ふふ⋯⋯そうかい? それじゃあ
「はい。では、失礼します」
そう言って、商業ギルドを颯爽と出ていく少年⋯⋯リオを私はその後ろ姿を見つめながら彼の『異常性』に少なからず体を震わせていた。
「彼⋯⋯『リオ』と名乗った少年。彼は一体⋯⋯」
あの8歳とは思えない落ち着きぶり、言葉遣い、それに所作も含めて明らかに質の高い教育を受けていただろうと思わせられる。
「⋯⋯にも関わらず、彼は孤児だと言う。とても信じられない話だが、しかし、私にそんな嘘をつくなど考えられない。そもそも私に嘘をつくのはデメリットでしかなくメリットなどないことは彼も理解しているだろう。しかし⋯⋯だとしたら、彼は孤児ということになるのだが、それはそれで今度は孤児があそこまでの知識・知性を身につけられるものなのかという疑問が残る。う〜む⋯⋯」
オスカーはぶつぶつ言いながら自室に戻っていく。そんなオスカーを見た周囲は、
「おい、ギルド長がひとり言呟いてるぞ⋯⋯?」
「あれだろ? ギルド長がひとり言呟く時って、何か画期的な商品を思いついたとか、良い人材を見つけたときにやるっていう⋯⋯」
「そうそう。ん? でもそれって、まさかさっきの子供達のこと?」
「ま、まさかぁ〜!? だって、さっきの子供達って成人どころかまだ10歳にも満たない感じだったぞ?」
「そ、そうよね〜。まさか⋯⋯ねぇ?」
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——商業ギルド長専用室
自室に戻ったオスカーは、紅茶を入れて一息つく。
「ふぅ〜。さすがに疲れたな。あまりにショッキングな少年だっただけに⋯⋯」
そう言って、彼は改めてリオ少年の言葉を振り返る。
「あのタスク中央街からこの領都にまで出回り始めた『ヘチウマたわし』。それがまさか彼の⋯⋯あの8歳の少年が生み出した商品だったとは⋯⋯。見た感じ、ヘチウマを乾燥させ、それを輪切りにし、持ち手に馴染むよう紐で何重も結んで⋯⋯と、使いやすさまで意識して設計したように思える。これをあの8歳のリオが考え出したというのか」
彼の子供らしい見た目だけだとまるで信じられないが⋯⋯しかし、彼と実際話した今では彼が作ったと言われても納得できる自分がいる。
「この『ヘチウマたわし』⋯⋯。身近にありつつも、これまで価値のなかったヘチウマが、まさか乾燥させただけでこんなにも汚れを落とやすい掃除用具になるなど⋯⋯彼はどうやって気づいたんだろうか?」
あり得るとすれば両親や兄弟がいて、その家族内でたまたま発見して内輪だけで利用していた⋯⋯とかになるのだろうが、
「⋯⋯しかし、彼は孤児だ。家族はいない」
となると、あと考えられるのはその孤児院の院長や子供達が見つけた⋯⋯といったところか。だが、そうならばもっと前から商品が売り出されていたはず。しかし、この『ヘチウマたわし』は半年前くらいから出てきたものだ。
「であれば、ここ最近の発見ということになるが⋯⋯あ、いや、でも、孤児院内でずっと使っていたということも考えられるのか。だがそうなら、孤児院がこれまで行っていた奉仕活動のときに使用していたはず。しかし、その奉仕活動で『ヘチウマたわし』の話なんて聞いたことなどない。だとしたら、やはり最近開発したということになる。そうなると⋯⋯」
やはり、『ヘチウマたわし』はリオが作ったもので間違いないだろう。
「ヘチウマなんてほとんど原価は
しかし、現状リオはそんな利益率の高い『ヘチウマたわし』が今後作れなくなった。正直とてもショックを受けただろう⋯⋯。
なのに⋯⋯だ。リオは今回の『仕打ち』を『貴重な経験』だと言い切った。さらには、ヘチウマたわしを売ることができなくなったことを『勉強代として考えれば安いくらいだ』とまで言い切った。
彼はまだ『8歳の子供』だぞっ?!
それどころか、今度は「『ヘチウマたわし』を超える、それ以上の新しい商品を作って、
本当なら相当ショックを受けているはずなのに⋯⋯しかし、自らを鼓舞し奮起させ、私にそんなことを言ってのけたのだ。もの凄い胆力の持ち主だと言わざるを得ない。
あんなリオ君のような子供⋯⋯これまで生きてきた中でまるで見たことも聞いたこともない。
「信じられるか? これって8歳の子供の話だぞ?⋯⋯ははは」
私は誰ともなく話しかけるようなひとり言を呟きながら乾いた笑いを吐く。
「今回の件、おそらくリオ君は商業登録・技術登録が必要なことを誰にも教えられていなかったのだろう。たしかにこれはリオ君の落ち度であると言えるが、とはいえ、初めて商売を始めたんだ。無理もない」
8歳の子供が初めての商売⋯⋯しかも商品登録が必要となる商売だ。正直⋯⋯アドバイスできる者が近くにいなければ商品登録なんて思いもよらなかっただろう。当然だ。これを『落ち度』というにはあまりにも酷だろう。
「まーそれでもリオ君は受け入れたんだけどな⋯⋯ふふふ」
何だったら『勉強代』と言ってのけたわけだし。
「しかし、そんなことはどうでもいい⋯⋯。どうでもいいと思えるほど、リオ君には大きな可能性と才能を感じる。しかも、まだその可能性と才能の『底』はまるで見えていない」
そうなのだ。リオ君のすごいところ、異常性は
「私の手元において彼の成長の後押しをしたい⋯⋯が、しかし」
そう、ここで焦ってリオ君に私が手を貸したりするのは違うと思う。
「まーそれを求めたがる奴は多いだろうがな⋯⋯」
しかし、リオ君はそういうことはしないだろう。それが私の信用を落とすということも恐らく理解しているから。
「まーとりあえずは、リオ君が新たな商品を発明して商業ギルドに戻ってきてから⋯⋯だな」
そう言って、オスカーはほくそ笑みを浮かべながらグビッと残りの紅茶を一気に喉に流し込んだ。
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【毎日12時更新】
明日もまたお楽しみください。
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