第14話014「パクリ商品が出たようです」
ヘチウマたわしは、タスク中央街でその後も売れ続け、気づけば半年が経っていた。
月の売上は最初の勢いは落ち着きを取り戻し、だいたい『大金貨3枚半(日本円で35万円程度)』となっていた。この世界の物価は『日本の10分の1』なので、月の収益が『日本円で35万円』というのは、この世界でいうところの『日本円で350万円』の売上となる。
人件費以外お金がかかっていない『何でも屋』、原価がほとんどかからない『ヘチウマたわし』を見てもわかるとおり、リオたち孤児院の事業は大成功を収めていたのだった。
ちなみに、このセイントファイン小領の平民の月収はおよそ『金貨2枚前後(日本円で2万円前後)』なので、俺たちはその10倍以上を稼いだこととなる。
たしかに、働いている孤児院の子供の数は全部で10人。なので、この売上を10人で割れば1人あたり『金貨2.5枚』の収入となり、そう見ると、そこまで大儲けしたようには見えない。
だが、そもそも事業が始まって半年しか経っていないのに、すでにここまでの平均売上を叩き出したのは正直、驚異的だと思う。
「しかも、これ全部、子供たちだけで稼いだお金だからね。すごいっしょ、普通に⋯⋯」
そう言って、リオは手元に置いてあったクッキーを一つ口にし、ホットミルクを流し込む。
「いやぁ、孤児院の子供達が想像以上に優秀だったのは本当⋯⋯運が良かったよなぁ」
そんな、すべてが順調に進んでいたある日のこと——、
「てえへんだ、てえへんだ! リオ兄っ!!」
「おう、どうした、八○衛!」
隙あらば『時代劇テイスト』を盛り込んでくるリオと子供達。
「これを⋯⋯」
そう言って、『八兵○』役の子供がリオに
「こ、これは⋯⋯偽造品っ!?」
渡された物は『ヘチウマたわし』のパクリ商品だった。とはいえ、使っているのは、もちろんウチらと同じ『ヘチウマ』を使っているのでほぼ一緒だ。ただ、ウチの商品と違ってだいぶ作りが雑で貧相だが。
「今、タスク中央街ではウチの商品よりも、この安いパクリ商品が出回っているみたいなんだ!」
「ええええ! こんな出来の悪いものがっ!?」
「うん。たぶん、俺たちの『ヘチウマたわし』を知らない人が噂だけを聞いて間違えて買ってるんじゃないかと思う!」
「マ、マジか⋯⋯。それはまずいな」
「うん。これがウチの商品だなんて言われたら俺、嫌だよ!」
正直、こんな作りが雑なものがウチの商品と思われるのは心外だ。しかし、
「まーでも実際効果はちゃんとあるんだろうなぁ。だって、使っている素材は同じ『ヘチウマ』だからね」
「そ、そんな⋯⋯!」
「まーいつかはパクリ商品は出てくるとは思ってたけど⋯⋯しかし、これはどうにかしないと」
「リオ兄⋯⋯」
ヘチウマたわしのパクリ商品⋯⋯いずれ出てくるだろうとは思っていたので特に驚いてはいない。ただ、こんな低品質の商品がウチの商品と思われるのは非常にマズイ。風評被害どころの騒ぎではない。
「一刻も早く手を打つ必要があるな。しかし、どうすれば⋯⋯」
俺が子供からの報告を受け、その対処に悶々と考えていた時だった。
「リオ」
「シスター・マリー院長先生!」
シスター・マリー院長先生が奥から出てきて声をかけてきた。
「どうしました?」
「あ、えーと、実はですね⋯⋯」
俺はシスター・マリー院長先生にヘチウマたわしのパクリ商品が出たことを報告する。
「あら? そういえば、リオ⋯⋯あなた、領都にある『商業ギルド』に商品登録はしましたか?」
「え? 商品登録?」
「ああ⋯⋯なるほど、やっていなかったんですね。すみません、リオにその話をもっと早く伝えておくべきでした。私のミスです」
「え? どういう⋯⋯ことでしょう?」
「おそらく、リオが商業ギルドに商品登録していなかったので偽造品が自由に出回っているのでしょう。本来、販売する商品ができたら領都にある『商業ギルド』に行って商品登録をするのです。そうすれば偽造品が出た場合、これは偽造品であると訴えることができるので、簡単に偽造品が作られることはないのです」
「な、なるほど⋯⋯」
「あと、商品登録の際に一緒に『技術登録』もするの。これは商品の作り方を登録するものよ。そして、その技術登録をすれば、もし偽造品が出た場合、商品偽造と技術偽造の2つの罪がかかるのでそう簡単に偽造する者は現れないの。逆に、その技術料を他の業者が買えば他業者でも同じ商品を販売することは可能になるわ」
要するに『商標登録』と『特許申請』みたいなものかな。
「ごめんなさい、リオ。まさかこんなに早く商品が売れるなんて思わなかくて⋯⋯」
「い、いえ、そんな⋯⋯。シスター・マリーのせいではないですよ」
とはいえ、この『特許申請』である『商品登録』と『技術登録』のことは早めに教えて欲しかったです⋯⋯シスター・マリー。そんなこと絶対に言えないけど(トホホ)。
「あれ? も、もしかして、このパクリ商品⋯⋯すでに出回っているということは、すでに、このパクリ商品が『ヘチウマたわし』として商品登録されていないか?」
「ど、どうでしょう⋯⋯そこまで私にもわからないわ。ごめんなさい」
「ねえねえ、院長先生」
「ケビン?」
パクリ商品の報告にきた子供⋯⋯『ケビン』が院長先生に声をかける。
「商品登録って、申請したらどれくらいで登録されるの?」
「う〜ん、そうねぇ⋯⋯だいたい1週間くらいかしらね」
「本当! それなら、もしかしたら商品登録されていないかも!!」
「え? どうしてだい?」
「だって、このパクリ商品が出回り始めたのって3日前くらいからなんだ。だから、もしかしたら商品登録はまだちゃんとは終わっていないじゃないかなぁ」
「!」
なるほど。たしかにケビンの言う通りかもしれない。まだ商品登録をされていない可能性はあるかも!
「シスター・マリー!」
「ええ、そうね。その可能性はあるかも⋯⋯。ただ、商業ギルドがその商品登録したものがウチの商品の偽造品だと証明できないと商品登録の取り消しは難しいわよ」
「でも⋯⋯! ダメ元でもいいので、俺ちょっと領都の商業ギルドまで行ってきます!」
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【毎日12時更新】
明日もまたお楽しみください。
あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。
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