第16話016「商業ギルド長が出てきたようです」



「どうも、お待たせいたしました。商業ギルド長のオスカー・マクスウェルです」


 受付嬢が担当者を呼びにいくと行ってしばらくすると、そこにやってきたのは担当者ではなく、商業ギルド長だった。なぜに?


「え? 商業ギルド長? それって、ここで一番偉い人ってこと?」

「すごーい。お偉いさんが来たー!」

「な、なな、なんで、商業ギルドのトップが⋯⋯!?」

「⋯⋯」


 商業ギルド長の登場に、ペトラが「何で?」となり、ミトリは「お偉いさんだー」と、なぜかテンションが上がり、ケビンに至っては青い顔をしてブルブル震えていた。


 俺もまさかの商業ギルド長の登場には驚いたが、その焦った素振りは見せないようにした。


 というのも、本来担当者が来るはずのここにギルド長がわざわざ足を運んだ意味があるはずだと俺は考え、それで浮かんだのは「冷やかしに来た子供達に注意をしに来た」と判断したからだ。


 俺は、ここからさらに『8歳のリオ』ではなく『25歳の山田三郎』という感覚で接することを心がけた。


「本日は、我が商業ギルドに商品登録と技術登録について話に来たと聞いているのですが⋯⋯それは相違ないですか?」


 そう言って、この商業ギルド長⋯⋯オスカー・マクスウェルはかすかではあるが、口角が上がった。⋯⋯いかにも「今の質問に対しての理解と返答はできるか?」とでも言っているかのように。


「⋯⋯初めまして、タスク地区からやってまいりましたリオと申します。おっしゃる通り、本日はこちらに商品登録と技術登録についてのお話を伺いに参った次第であります」

「っ!?」


 ということで、俺はさらなる『子供らしくないムーブ』をかましていく。すると、商業ギルド長の余裕の笑みが消え、一瞬驚きの表情を浮かべる。俺はその表情を確認しつつ、さらなるムーブをかましていく。


「それにしても、たかが商品登録と技術登録程度の雑事を商業ギルドの長、自らが出向いて対応していただけるとは⋯⋯身に余る光栄でございます」


 そう言って、俺は右手を左肩にスッと当ててお辞儀をした。


 ちなみに、この『礼の作法』はこの国の共通の作法で、身分が上の者に対して感謝の意を伝えるときに使われる。ただし、王族に対しての場合はさらに膝もつくらしい。まー使うことはないだろうが。


 それよりも、俺はどこまで正しいかはわからんが、とりあえず、それなりの言葉と作法を見て、ギルド長がどういう反応を示すか楽しみだった。すると、


「ふ⋯⋯」

「ふ?」

「ふはははははははははははっ!!!!」

「「「「「っ!?」」」」」


 突然、ギルド長が顔を上げて大笑いし出した。


 そんな突然のギルド長の大笑いに俺たちはもちろん、それ以外の周囲にいた人たちも「何事だ」と驚き、その場の視線が一斉に俺たちに向けられた。


 いやいやいやいや! そんな反応、想定外っちゅーの!



********************



「なるほど、そうか、そうか。いや、失礼した。ここからは気軽に話していいよ。リオ君⋯⋯でいいかな?」


 どうやら、ギルド長のオスカーさんは俺に対して試すようなことをして、それを俺が理解した上で想定以上の返しをされたことで認めてくれたようだ。⋯⋯たぶん。


「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます⋯⋯ありがとうございます」


 そう言って、俺はペコっと今度は軽い会釈だけをした。


「いえいえ。いや〜それにしても初めてだよ、こんな子供は⋯⋯。あ、悪口じゃないからね?」

「あ、はい。大丈夫です。でも、そんなに⋯⋯ですか?」


 俺の感覚では賢い子供ならこれくらいは喋るだろうと思っていたので、オスカーさんの言葉にあまりピンとこなかった。しかし、


「いやいやいや。これだけの言葉や話す間、あと所作を使いこなす子供なんて貴族の子でも見たことないよ。たしかに15歳の成人に近い子供ならいるかもだけど、それでもそうはいないものだよ。ましてや、リオ君は8歳でしょ? しかも、平民でしょ? だとしたら、前代未聞だよ!」


 と、オスカーさんが捲し立てるようにお褒めの言葉入りで説明をしてくれた。ちょっとこそばゆい。


「オスカーさん。ミトリたち平民じゃないよ。孤児だよー! まちがい、まちがーい。きゃははは!!」


 すると、ミトリがオスカーの言葉に訂正を入れた。変なテンションで。


「なっ!? こ、孤児だって! ま、まさか⋯⋯本当かい、リオ君?」

「ええ、本当です。私たちはタスク地区の孤児院にいる孤児です」

「し、信じられない⋯⋯。こんな大人顔負けの弁が立つリオ君が孤児⋯⋯だなんて。ど、どうやって、ここまでの高レベルで質の高い言葉遣いや所作を身につけたんだいっ?!」


 オスカーさんは俺が孤児だと知ると、今日一番の驚きの表情を見せ、ガバッと俺に掴み掛かり質問を捲し立てた。


「え、えっと⋯⋯そ、それは、とりあえず『企業秘密』ということで」

「キ、キギョウヒミツ⋯⋯?」


 とりあえず、俺はこの世界に存在しない言葉で、オスカーさんの質問を何とかはぐらかした。





********************


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 明日もまたお楽しみください。

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