第24話024「魔道具職人と会うようです」



「ここよ」


 次の日——俺はシスター・マリーに連れられ、例の魔道具職人の家へとやってきた。⋯⋯のだが、


「ここ?」


 目の前にあるのは、人が住んでいるのかさえ怪しい⋯⋯1メートルほどの雑草が家の周囲を固めていて、まるで「何人なんぴとたりともこの家の敷居はくぐらせねぇ!」という、この家の主の想いが聞こえてくるような⋯⋯そんな、ひどい古屋敷だった。もはや、お化け屋敷である。


「えっと⋯⋯ここ、人住んでんの?」

「ええ、住んでいるわよ。だって、私がリオに紹介しようとしている腕の良い魔道具職人がここの家の主だもの」


 おうふ⋯⋯。


 シスター・マリーの目を見ると、どうやらガチらしい。


「とにかく、ここにいてもしょうがないわ。中に入るわよ」

「あ、ちょっ! シスター・マリー!!」


 1メートルの雑草など物ともせず、ズンズンと扉に向かい、中に入っていくシスター・マリー。俺はおっかなびっくりな感じで、とにかくシスター・マリーにはぐれないよう、急いで中に入って行った。



********************



「おーい、ウラノスー!」


 扉から中に入ると、奥に一人の男⋯⋯いや、


「ドワーフっ!?」


 そう、映画で観たことあるようなイメージ通りの毛むくじゃらで背が低いずんぐりむっくりのドワーフがいた。見た目、40代のおっさんといった感じだ。


「何だ、マリーじゃねーか。何しにここにきた?」


 そのドワーフは、カンカン叩いていた手を止め、シスター・マリーに声をかける。⋯⋯ていうか、「マリー」だと?!


「久しぶり。⋯⋯相変わらずね。ちょっとは部屋片付けなさいよ」


 シスター・マリーは呆れた表情で「ウラノス」というそのドワーフに苦言を呈する。


 ちなみに、入った部屋はベッドとテーブル、2つの椅子、1つの戸棚以外は何もなく、あとは工房に必要な道具や仕事途中のものなのか、鍋や包丁、お玉などの金物と、あといくつかの剣や盾、鎧などが無造作に置かれている。


「うっせえ! これがベストポジションなんだよ!!」

「はいはい、わかりました。あ、それよりも今日はあんたに紹介したい子がいるの」

「子?」


 そう言うと、ドワーフの男が俺のほうに目を向ける。


「おいおい、ここは孤児院じゃねーんだぞ? 俺に子供を紹介って⋯⋯どういうことだよ?」

「ふふふ⋯⋯、この子はただの子供じゃないわよ?」

「何?」

「は、初めまして⋯⋯リオです」



********************



「ほう? この小僧があの『ヘチウマたわし』を作ったってぇのか?」

「ええ、そうよ」

「⋯⋯」


 自己紹介の後、シスター・マリーがドワーフのウラノスさんに『ヘチウマたわし』を俺が作ったことや、その後、商業ギルドで商品登録していなかったこと、そして、それを偽造され、さらにはその偽造品が『ヘチウマたわし』として正式に商品登録されてしまった顛末を大まかに説明してくれた。


「て言うかよー⋯⋯それって、マリーの説明不足が招いた『お粗末顛末劇』って話だよな?」

「返す言葉もないっ!」


 ウラノスのぐうの音も出ないほどの正論にシスター・マリーが秒で謝る。


「まったく⋯⋯マリーのポンコツ具合は相変わらず顕在だな」

「うう⋯⋯これまた返す言葉がない」


 シスター・マリーは子供想いで優しく、しかも、いろいろと知っている知的で頭が良いのではあるが、しかし、同時にポンコツ要素も大いに含んでいる『残念シスター』でもあった。


 そして、そんなシスター・マリーのことは俺たち子供達もすでに把握済みなので特段驚くような話ではない。いや、別にディスっているわけじゃないよ。事実なんだよな〜、これが。


「それで? そんな子供を俺のところに連れてきたってことは⋯⋯俺に何か作らせようってことなのか?」

「そう! さすが、察しがいいわね、ウラノス! そうなの。今すでにその商品開発の目処は立ったんだけど、それには魔道具を作ってもらう必要があってね⋯⋯!」

「⋯⋯ちょっと待て。その前に一つ言っとくが俺は暇じゃねー」

「ええ。もちろん、タダで作ってもらおうなんて考えていないわ。ちゃんと依頼料も払うつもりで⋯⋯」

「そういうことじゃねー。はっきり言わせてもらうが俺はガキの遊びに付き合うほど暇じゃねー。今でさえ、『古参客』からの注文が溜まっている状態なんだ。ガキの遊びそんなことに時間を充てられねーって言ってんだよ!」

「古参⋯⋯客」

「⋯⋯お前だってわかってるだろ、マリー。古参客に迷惑をかけるのはお互い・・・よくねーだろ?」

「そ、それは⋯⋯そうだけど⋯⋯」


 ウラノスはシスター・マリーの話を一刀両断⋯⋯話を終わらせようとしていた。二人が言う『古参客』ってのが何かは少し気になったが、それよりも俺はこのドワーフの態度に少しカチンと来ていた。


「シスター・マリー院長先生。俺は別に構わないよ。別にこの人に作ってもらおうなんて思ってないから」

「リオ?」

「だって、何を作るかの話も聞かずに『子供だから』とか『ガキの遊び』とか言って一方的に決めつけるような⋯⋯そんな視野の狭い職人なんてこっちから願い下げだもの」

「何だと?」

「リオ?!」


 俺の言葉に場の空気が一気に冷え込み緊張が走った。しかし、俺はそんなことなど気にせず煽り続ける。


「それに、俺が今回作った魔道具はこの世界でまだ見たことがないってシスター・マリーも言ったでしょ? だったら、商業ギルドのギルド長であるオスカーさんに話をして、この人よりも優秀な魔道具職人を紹介してもらえればいいじゃん」

「ちょ、ちょっと、リオ! ウラノスはね、元宮廷・・・⋯⋯」

「マリー!」


 すると、ウラノスがシスター・マリーの言葉を制するかのように一際大きな声を上げた。


「その話は⋯⋯やめろ」

「!⋯⋯ご、ごめん、ウラノス」

「それよりもマリー⋯⋯こいつの言ったことは本当なのか?」

「え?」

「だから⋯⋯お前ほどの知識人・・・・・・・・でも見たことがない魔道具だってのは本当かって聞いてんだ!」

「! え、ええ⋯⋯そのとおりよ。私のこれまでの知識を総動員してもリオが作った魔道具は見たことがないわ」


 シスター・マリーはウラノスの変化を察知すると、リオへの援護射撃の如く、ニッとかすかに笑みを含ませながら煽り気味な言葉を返した。


「⋯⋯なるほど。おい、ガキ!」

「リオだ!」

「ふん! おい、リオとやら! そこまで言うならその魔道具見せてもらおうじゃねーか。まーぶっちゃけ、マリーが知らないだけで俺が知っているってこともあるしな。それに、子供が考えて作ったものなんて⋯⋯まー子供が魔道具を作っただけでもすごい話ではあるが⋯⋯それよりも、その魔道具を見て俺が作りたいと思えるかってのは正直⋯⋯俺様を舐めすぎだ」


 そう言って、ウラノスがニヤリと口角を上げる。


「⋯⋯上等だよ、おっさん」




 これが、これから先、長い付き合いとなるウラノスとの最初の出会いファースト・コンタクトであった。





********************


【毎日12時更新】

 明日もまたお楽しみください。

 あと、下記2作品も読んでいただければ幸いです。


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


「生活魔法で異世界無双〜クズ魔法と言われる生活魔法しか使えない私が、世界をひっくり返すまでのエトセトラ〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330655156379837

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