悪役令嬢の、あるばいと

 俺の心は、曇天だった。

 手元のがま口財布を、開く。

「……。」

 閉じる。

 もう一度開く。

「……。」

 閉じる。


「あぁ~~~~……。」

 ため息が出た。

 財布は、別にカラなんかじゃない。

 というか、むしろ高そうな硬貨が、たくさん入っていた。

 これは、というかこの財布は、ロロにもらったものだ。

『そういえば、お給料というのをあげていなかったね、せっかくだから財布と一緒にあげよう。こっちはプレゼントだと思ってくれ。』

 的な言葉と一緒にもらったものだ。

 魔法の財布は無限容量にしてATMのように遠隔補充可能。超便利である。


 ──現状、俺の旅は王子様に頼りっきりだ。金銭面では。

 だが金銭面というだけでもとてもでかい。というか金銭面でかい。

 このご時世金がないと何もできないからね。うん。

 そして、の少年にただでさえ日用品とか食用品とかお金を出してもらっているのに、さらにお給料をもらう…。

 いや、俺もまぁ前世じゃ大人じゃない程度の年齢だったし、お給料だから貰うのは当然…でもこれは……遠慮…うん…でも……おし。

「バイト……するか。」

 月を見上げながら、静かに決意した。


 ~~~


「バイトだと?」

「ああ。」

 俺は次の日の朝、さっそく話した。

「ここの【査察】は大体終わったし、俺も自分の金が欲しいし。ここにはあと三日滞在だったな。いいだろ?」

 俺は自分の分と一緒にとってきた朝食をロロの前に置いた。

 ロロは立ち上がった。 

 お前目玉焼き嫌いだったっけ?

「給料は、少なかったかな。」

「いや、十分だったけど。」

「今日は僕が料理作ろうか?」

「それまでには帰るけど。」

「何か欲しいものがあるのか?」

「お前が給料くれたから一応買えたけど。お前もあのケーキ食うか?」

「僕のこと嫌いか!?」

「なんでそうなる!?」

 ロロは滅茶苦茶涙目だった。

「くっ…ならいい…好きなようにすればいいさ…。」

「お、おぉ…あ、ケーキは何味がいいとかあるか?」

「………イチゴ。」

 あいあい。

 俺は日雇いバイトの斡旋所に向かった。ここは仕事が多い国だった。


 ~~

 一日目。


 俺は狩りの仕事の手伝いをした。

「嬢ちゃんそっち行ったぞ!!」

「任せておきなぁ!!」

 向かう大羊を刀で三枚おろし!!いや、叩き切っただけでおろせてはないけど。

なんならほぼ切れないからぶっ叩いたようなもんだけど。

「いや~嬢ちゃん筋がいいなぁ、どうよ?おじさんたちとダンジョン攻略とか?」

「なはは~、流石にそれは。でも明後日までならバリバリ手伝うぜ?」

「おー!頼もしいじゃねぇかガハハハ!!!」

 おっさんたちは俺の肩をばしばし叩きながら笑った。

「おし、もう10頭いくぞ野郎ども!!!」

「「「応!!!」」」

 戦闘経験そのものは少ない俺だが、それなりに役立てた気がする。



「たっだいま~!あ、これイチゴモンブランだってさ!ここの限定だってあったから買っといたぜ!」

「おかえり」

 宿についた。ロロは無表情だった。めっちゃこっちをじっと見ていた。

「…なんかあった?」

「なにもなかったよ」

「お、おぉ?」

 そのまま寝るまで、じっと顔を見ていた。怖いよおまえ。


 ~~~

 二日目

「あれ、あのおっさんたちの仕事は?」

 受付さんに話しかけた。

「それが…何やら先日の夜、皆さん沼で溺れていたようで。ほかの人が言うには「デンキウナギ」がどうとか…。。」

 デンキウナギ、この世界にいたのか。ロロにも同族がいるぜとか教えてやろ。

「なんにせよ、彼らは今日は休みです。」

「じゃ、ほかの仕事ください。」

 どこかで椅子から転げ落ちる音がした。

 喧嘩か?実は治安悪めなのかね、ここ。


「ここは…あ~なるほどこういう感じか。」

「お姉ちゃん、まだ~?」

 二日目は家庭教師にした。ここに来てから教えられてばかりだが、教えるのは嫌いじゃない。

「いいか?ここの紋っつーか、身体の方向に魔力を集中させる感じで…。」

 教科書にたいていのことは書いてあるもので、時間はかかるが、魔法のなんとかを説明する。いつか覚えるのもありかもな。

「方向ってどこ?」

「だから、ちょっと手貸せ?」

「うわわ…」

 子供の手を掴む。

「あ、痛かったか?」

「ううん……だいじょぶです…」

「そうか、それで…」

 こうやって…こうか?集中してたらこれで…

「わ…」

「お、光ったな、いいぞ。そんで次は…」

「……。」

 ・・・・・・・・・・。

 ちょっとー、喋ってくれないと勉強にならないんだが?

 五分経っても放心状態だったので、親御さんに事情を説明してその日は帰った。


「ただい…」

 テーブルの上には、絵の描かれた紙らしきものが散らばっていた。ロロはぶつぶつ言いながらそれらを見ている。呪いかなんかかよ。

「大事な思い出だが今後のためとはいえ半分は…ってしまった……。だが彼が男とはきっと知らない…。あれが不純な人間であればきっと…」

 こいつ金色の目のはずなのになんか日本人みたいに真っ黒な目になってんな。

「おーい?」

「おかえり」

 超スピードで絵をしまうと、昨日の無表情をみせてきた。だから怖えよ。

「今のなんだ?」

「思い出だ……大事な…。」

「……そっか…。」

 こいつは兄貴のこととかもあるが、あまり家族のこととかは積極的に話さない。大事な過去なら介入しないほうが良いだろう。

 単純に俺が聞いてないだけな気もするけど。


 ~~~


 三日目。


「家庭教師、だめなんですか?」

「えぇ、お子さんが引きこもっちゃったみたいで…。」

 家庭教師もなくなっていた。

「俺の…せいですかね…。」

「いえ、そんなことはないみたいですよ。親御さんが言うには、部屋の奥からあなたを呼ぶ声がしたようですし。ほら。」

 一枚のよれた「写真」をみせてきた。俺が写っている。いつの間にとられたのか。

「部屋の前で拾ったみたいで。ほかにも大事そうに持っていたみたいですよ。大丈夫、あなたはきっと良いことをしたんだと思います。」

「だと…良いんすけどね。」



 最後の仕事はメイドだ。はっきりいって一番やりたくなかった、というのも。

「「「「キャ~~!!かわいい~~!!」」」」

「フン。」

「………。」

 こうなるからである。

 というかここには一度査察で来たのだ。そんで案の定その時と同じような反応をされた。

 小さいとかわいい。可愛いは正義。

 でも俺元男子なわけで、ちょっと心苦しいわけで。

 だが決めちゃった以上しょうがない。全霊を尽くす感じで。

 不機嫌そうな同年代っぽいメイドに話しかける。

「よろし」

「あんたなんかお呼びじゃないのよバイト風情が!!馴れ馴れしく話しかけないで!!」

 まぁ…よそものが可愛がられたら…そうなるっすよね…。




「お茶を」

「お茶をお持ちいたしましたわご主人様おほほバイトメイドに出番なんてありません事よ!!!」


「掃除は」

「あ~っrrrrrらぁこ~~~んなにほこりがつもっていてよちなみにわたしはとっくに広間の掃除を終えましたわ!!!!」


「…りょ」

「バイト風情にご主人様のための料理を作らせるわけにはいきませんわ汚らわしいあなたは屋根裏部屋にひきこもっておりなさい~~!!!」



「完敗だ…。」

「あ~~~ららら乾杯だなんてパ~チ~気分ですのまだまだお仕事のお時間ですわよ~~~!!!」

 がきんちょメイドはモップでスライディングしながら小馬鹿にしてきた。本気でくそうぜえ。

「まぁ、今日のミミは元気そうですね。」

 ご主人のおばさまが話かけてきた。

「そうで…そうなん……そうなのですか?」

「ふふ、無理にかしこまる必要はありませんよ。…あの子は、孫が選んだメイドでね。優秀なのはいいんだけど、だったから。他の子たちにもあまり相手にされなくって。」

「ほーん…。」

「同年代のあなたがいるから、今日は少し、いい日かも」

 ガッ

「あっ。」


 モップで滑っていた馬鹿メイドが、階段近くの花瓶置きに引っかかる。

 そのまま。

 メイドは。

 階段から。


「…………っせるかよクソが!!!」

 落とすわけにはいかない。

 廊下が濡れるとか知ったこっちゃない。

 床を飛び壁を跳ね、水ブースターまで使ってどうにか………!



 ……。

「……。」

「……あにあった。」

 ほぼ下敷きだけど。

「…せっかく拭いた廊下が……びちゃびちゃですわ…。」

「幽霊屋敷にするより…ましだろが…。」

「……ばかですわね…。」


「あなたたち」

 馬鹿メイドと振り返る。

 ご主人様も、びちゃびちゃだった。

「…今日は、特別ですからね。」

 滅茶苦茶怖い笑みだった。


「さよおなら~~~!!!メイドの腕をみがいておきなさいですわ~~~!!!!」

 同年代メイドはぶんぶん手を振る。

 いや~結局あいつには一度も勝てなかったけど、なんか許されたのでよし!!

 給料も三日とは思えないほどのたまり具合!流石異世界!(?)

 これは今後もやってみていいかもな!!

 せっかくだし、ロロのやつにもなんか買ってやるか!…あいつモンブラン好きだったし、…いや~でも、せっかくならもっとサプライズ的な…思い出がどうとか言ってたし、残るやつがいいかな。旅の記録的な…いやでも…あいつが欲しいのってなんか知らない…そういや転生者が好きっぽいし、ん~~。



 悩んでいるうちに宿屋についてしまった。まぁ最悪一緒に選ぶか。



「ただいグギェエアッハァ~~~~~~!?!??」

 扉を開けた途端、腹に砲弾が突撃してきた。


「……ないで……ないで………ないで……。」

「・・・・げほ・・・なにが・・・。」

 いや、突撃してきたのはロロだった。


「…どかんかい、てか重い、てか放せ。」

「ないで、ないで、ないで」

 なんかうなってる。呪いか?

「ずでないでぇ~~~~…はなれ゛ないでぇ~~~~……。」


 は?

 俺が?

 お前を捨てる?いやいやなんで。んなことしたら旅できんでしょ。

 ……ん?

 あ~…、前のメイド修行でも、終わってからだいぶくっつきっぱなしだったな。

 人見知りの極みというか。さみしがりの権化というか…。

 ここ最近バイトで離れ続けた結果か?これ…三日だぞ…まぁ個人差はあるよな。

「あ~うん、大丈夫だよ~…ごめんな~…さみしかったな~…すてないから心配すんな~…おいしいのたべような~…今日はいっしょにねような~…なんかほしいのある~…」

 かつてクロムさんにしてもらった甘やかし方を、今度は俺がやる。

 メイドの師匠がフロムさんなら、甘やかしの師匠はクロムさん。ちゃんではなく。敬意を払おう。

「う゛……ぐす………。」

「しがみついてていいから、とりあえず宿入ろうな~…。」

 通行人からめっちゃみられてます。やばいです。


 俺は宿の扉を開きながら。思うのだった。




 こりゃ当分、バイトは無理だな……。

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