悪役令嬢と、こどもだけだよ
晴れた日の午後、俺とロロは集落…?に来ていた。集落とはっきり言えないのは、ここに大人が一人もいないからだ。子供しかいない。
子供だけがひたすら元気に遊びまわり、子供だけで好きなものを飲み、好きなものを食べている。
ある程度成長している子供もいるが、それでも子供しかいなかった。
「ぼくらはずっとあそんでていいんだ!ずっとここにいていいんだ!おねえちゃんもあそぼう!」
「へぇ~そうなのか!んでもお姉ちゃん忙しいから、あとであそぼうな少年!」
「ふーん。わかった!!」
子供の一人は元気に駆けて行った。
「ふーっ…おい、聞き込みは」
「君の担当だろ、僕は土地を調べる。」
王子は子供も苦手だ。
「つってもねぇ。」
大人だけがある日─例えば昨日、突然全員逃げ出した。そういわれても違和感が無いほどに、子供だけとは思えないほど生活感があり、子供しかいないのに物資があり、清潔で、家畜も生きていて。そんな異常な、逆に言えばそれしか異常のない田舎の村だった。その様は俺でも見てわかるレベルだった。
「調べるとこ、あるか?」
「ある。」
といいつつ、ロロは俺から離れようとはしなかった。
「おれさいきょうスラーッシュ!!」
「おいらきゅうきょくブレード!!」
「おみせやさんごっこー!おみせやさんごっこだよー!」
「あらぁ、おやすいのねぇ!」
「おじょうさまですわー!」
「あらそこのおねぇさん、こちらの髪飾り、いかがです?」
「あーかわいいなそれ、でも俺はいいよ、今忙しいし」
「ふーん、そうですか。」
道で、家で、広場で。子供たちは遊んでいる。
「元気だねぇ」
「元気すぎると思わないかい。」
「子供は元気なもんだぜ、王子様。」
「…違う。」
ロロは子供たちの近くまで歩いていく。…コミュニケーション大丈夫か?
そして鞄から何かを取り出した。
…漫画だ。
「おにーさん、それなにー?」
「ほんー?」
「……」
ロロは無言で漫画を差し出した。
「くれるのー?」
「……」
ロロは無言でうなずいた。いいのかお前、色んな意味で。
「やったーーー!!なんかもらったーーー!!」
「みせてみせてーーー!!!」
「うっひゃーーーー!!!」
子供は漫画を乱暴に振り回しながら、ほかの子供たちのところに走っていく。
貰いものなのに雑に扱うなよ…。
こちらを気にする子供がほぼいなくなってから、ロロは膝から崩れ落ちた。
「おぉぉぉ……先生の……サイン入り………。」
「だ、大丈夫かよ」
「ぐす…ごれでわかっただろう?」
何がだよ。
遠くに行った子供たちを見やる。
びりっ
破ける、いや破く音がした。
「なにこれわかんなーい!」
「紙ヒコーキにしよー!」
「いーねー!」
「アタシは折り紙!!」
「キャッチボールにしない?」
「さんせー!」
絵と字の描かれた人類の叡智にして娯楽の一つが、風に散った。
ロロは真っ白になっていた。そりゃ宝物があんな風にされちゃな…。
「異常…異常だ……!」
「っまぁ~…子供はああいうことするって」
「違うっ!!」
「おぉ怒鳴るなよ…泣くなよ…。」
「……気づかなかったのか。この惨状を見ても。」
「…言いたいことはなんとなく?」
漫画は本だ、読むという選択肢しかない。
だが子供たちは玩具にした。そこに書物として扱うという選択肢がないと言わんばかりに。
本を知らないというわけではないだろう。「おみせやさん」の子は字を書けていた。
そして、ここに来るまでに、村の中で本を読んでいた子は見かけていない。
でも。
「やっぱわからん。」
「そうか。」
そういう人間がいることはある。もしかしたらそういう子たちを隔離する場所なのかもしれない。こういうのはむやみに掘り下げるだけ、かえって良くないこともある。個人のなんとやらだ。
「まぁ、ここがお前には向かないってことはよく分かったな。大人しい子ってのが全然いねぇし。みんな走り回って──」
「大人なんていないよ。」
一人の子供が、そこにいた。
「ねぇ、こっちにおいでよ。」
/side L
クララと僕は、一人の子供に連れられて、集落の奥の枯林に入っていた。
この林の中では、不思議なことに他の子供が誰一人いない。集落にはあれほど所かまわず駆けまわっていたのに。
落ち葉を踏む音だけが、僕らの間にある。集落からの声も、もうほとんど聞こえない。そんなところまで来たところで、
「ここだよ。」
子供が、足を止めた。
林にできた道に並べられるように。
大人ぐらいの高さの、色とりどりの箱が並べられていた。
「これなんだと思う?」
子供は、近くの箱をなでた。
「ん~~~~~!ん~~~!?」
くぐもった叫びとともに、箱ががたがたと揺れる。
大人だ。この中には大人が閉じ込められている。でもなぜだ。情報が足りない。
ここは危険だ。クララも本能的な恐怖を隠せていない。
そして子供は、長い剣を取り出した。
「何考えてんだ!?」
ついにクララは叫んだ。
だが
「えいっ」
子供は、無慈悲にも大人が入っているであろう箱を、突き刺した。
そして箱は、破裂した。
●
菓子、食料、物資、玩具、いろいろなものをばらまきながら。
そして箱の中心には、幼児が一人、倒れていた。
意味が分からなかった。
「は……?」
子供はにやつきながら振り向く。
「大人はね、いろんな思い出があるの。」
左から、別の子供がやってきた。
「大人はね、いろんなことを知ってるの。」
右から、子供が現れた。
「だからこれを使うと、大人の思い出も知ってることも、全部おかしにしてくれるんだ!」
「ぜんぶおもちゃにしてくれるの!」
「ゼンブくれるの!」
「「「だからずっと、こどもでいいんだ!!!」」」
そういって子供たちは、剣を掲げた。
──ここは”逃げ”だ。ここは、 想像以上に─
「ねぇ、おねえさん。」
そこで、クララを呼び止めた。
「おねえさんは、遊んでくれない?」
「えっ……あ~いや、俺忙しいし……」
「おねえさん、髪飾りいらない?」
「…あんま欲しくないかな~…」
「おねえちゃん、お菓子は?お洋服は?ぬいぐるみは?」
「っいらねぇってんだよ!!」
クララが怒鳴った。怒りというより、怖がっているようだったが。
「おねえさん、やりたいのに我慢するんだ。」
「おねえさん、欲しいって言ったのに噓つくんだ。」
「おねえちゃん、遠慮するんだ。」
「「「大人だね」」」
────子供たちの掲げた剣が、クララを貫いた。
そして、破裂した。
●
「しらないお菓子…たくさ~ん…。」
「さっきの本……いっぱい~…。」
「…うああ…ごめん…クララ……ロロ…やっぱ俺じゃ……だめみたい……」
そんな幻想を、彼らは見ていた。
今、林の中で、クララと子供たちは眠っている。
僕のもう一つの【力】。【幻を与える力】だ。
─この力は、幻を与えるだけで、内側からいじくりまわすことはできない。初めから見せるものを決めておくことはできるけど、幻だと気づかれたらこの効果はそれで終わり。
だから今回の場合、この場にいる全員の想像力に任せる形で、これから起こるはずだったことを現実だと思い込むように見せ続けているだけなのだ。
まとめて【与えた】場合、同じ夢を見る代わりに一人を覚ますとみんな覚めてしまう。そんな使い勝手の悪い能力だ。
だから
「……うう……ごめん……」
「よいしょっと。魔法車いすとか誰かが作ってくれないだろうか、重さがなくなるみたいな感じで。」
安全な場所まで、背負って運ぶしかないのだった。
「……髪飾り……。」
「……。」
/
「ほー、そんなことが」
「あぁ。」
「うん、マジで今回はありがとう。助かった。」
「あぁ。君は僕の友達だからな。」
「うん、でもな?もう背負わなくていいぞ。」
「あぁ。」
「…重いだろ。」
「重い。」
「……お前マジで。」
「そうだ、これを。」
「ん、何これ。」
「ヘアピンだ。」
「いやそうだけど。あの集落で買ったのか?」
「いや、別のところだ。」
「はぁ。えお前、俺背負った状態で他の村練り歩いたの。」
「あぁ、ところで貰ってくれるか?」
「変なところでメンタル無敵かよ」
「貰ってくれるか?」
「……いや俺一応男だし?」
「いらないか?」
「…ん~そういうわけじゃ」
「いらないなら、投げ捨てる。」
「だー待った待った!貰う!貰うよ!もったいないだろ!!」
「……君は僕の友達で、メイドだ。そして、子供だ。」
「あぁ?ああ~…あ?そりゃお前もだろ。」
「遠慮は、しないでくれ。」
「…?まぁ、善処するよ。」
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