悪役令嬢と、最強の剣
からんからんと、掲げられたベルの音が街中で大きく響く。
「大当たり~!!」
そういって受付のお姉さんは、一枚の小さな鉄のプレートを渡してきた。
「大事に使ってくださいね~!…次の方どうぞ~」
俺とロロは、プレートを受け取るとくじ引きの列から離れた。
ロロはプレートの文字をまじまじと見ている。
「なんなんそれ?」
「なんでも引換券だ。」
ロロはどや顔で言った。
…なんでも引換券。
「二度と会えない相思相愛の恋人から、既にこの世に存在しない鉱石、果ては永遠にお金が尽きない財布まで。あらゆるものと引き換えて自分のものにできる…とある転生者が作ったとされる”ちーとあいてむ”というやつらしい。」
「そりゃチートアイテムだなぁ!?」
存在しないものまで出せるってのは度を越している。
「…あ、いいことおもいついた。ちょいと貸してみなさいな~」
「無限に引換券が出てくるなんとか、なんてものは駄目だよ。」
あ、やっぱそこは駄目なんだ。
「ちぇ~。そんで?なんに使うとか考えてるか?」
「僕は一応王族だし、【査察】でさらにお金も入ってきている。今そこまで欲しいものはないし、旅にかさばる高いものもいらないかな。」
「金持ちが…。」
「君はどうだい?何か高い服だとか食材だとか、アクセサリーだとか。」
「”なんでも”手に入るアイテムをそんな商品券みたいに扱ってやるなよ…」
「そうかい?」
ロロは引換券をしまった。
そのまま流れで街をぶらつく。【査察】は昨日で終わっているので、今日はこの街を
気ままに楽しむだけだ。いい街では息抜きができるからな、いい街では。
「「頑張ってー!勇者様ー!!」」
街の広場の方でそんな声が聞こえた。これはこの街特有の風習らしい。
「見に行くかい?」
「なんなら参加してみようぜ?」
広場では、たくさんの人が見る中、イケメンの青年が岩の台座に突き刺さった剣を一生懸命抜こうとしていた。
「くっ……ぬぅおおおお……!」
「「がんばってー♡」」
後ろでは二人の少女が応援している。
やがて青年は息を切らし、とぼとぼと剣の前から離れていった。
「次は俺だぜ、ハッハー!!」
筋骨隆々の上半身裸の大男が、剣の柄を両手でがしっとつかみ、引き抜こうとする。
「むおおおおおおおおおおおおおお」
地鳴りがするような声を響かせながら、力任せに持ち上げる。地面が隆起するんじゃないかこれ…なんて思わせるほどだったが。
「ぐふう………。」
大男は体力を使い果たし、その場に倒れた。
兵隊たちが大男を運んで行ってから、また誰かが剣の前に立つ。
俺達もその列に並ぶ。
「やってるね。」
「”最強の剣のある街”ねぇ…。嘘くさいけど、観光名所としては良い感じだよな。あの剣もかっこいいし。」
「ここの武器の文化が凄いのは本当だと思うよ。僕が手入れしてもらった剣も、数段よくなった。君のカタナも見てもらえばよかったのに。」
「俺のは~…切れるには切れるけど模擬刀みたいなもんだし、そもそも借りパクだし…」
「わたくしの魔法で!剣の刺さった岩ごと破壊してしまいましょう!」
そういって魔術師風の男が杖を向け、岩…というか地面ごと爆発させる。ギャラリーの人たちもぶっ飛ぶし、近くの出店もぶっ飛ぶ。大損害だ…。
「ハーーーッハッハッハ…これで……ナニィ!?」
大爆発が起きた後も、岩は剣に刺さったままだった。地面も無傷。
そして、走ってきた兵隊が魔術師の肩を掴んだ。
「え…?」
「「街中での大規模な戦闘魔法は危険行為である。」」
兵隊はそういって、魔術師を連れて行った。
「さて、お前の番だな」
とうとうロロの番である。
「「がんばれ王子様」と応援してくれてもいいよ?」
「やってやろうか?って言おうと思ってたけどやっぱやめた。」
冗談もほどほどに、ロロは剣に向き直る。
そして
つかんで
抜く。
「…………っ!」
5秒、10秒、30秒。
剣は、ピクリとも動かなかった。
「はぁ……君もやってみてくれ。」
「お、じゃやってみよっかな~」
こういう剣を引き抜くってのは、やっぱ憧れがある。
まずは片手でしっかりつかんで・・・・・・・・
「・・・・・・・。」
「クララ?」
なんとなく、左右にぐりぐり揺らしてみる。いや揺れないんだけどさ。
「ロロ。」
「なんだい?」
「これ無理だわ。地面と一体化してるわ。」
そんな感じで、俺たちも剣の前を離れた。
「さて、買うものも買ったし、明日にはこの街を出るかい?」
あれから適当な買い物を済ませて、俺たちは宿で話していた。
時刻は夜。騒がしかった街も静かである。
「ん~それなんだけどな?ちょっと…」
「…あの剣のことかい?欲しいなら引換券を使ってみるのも──」
「それは最終手段!でもお前もあの剣が気になってたんだな。」
ある意味で都合がいい。
「ああ、武器の名工のいる街にある最強の剣だからね。」
「じゃあ、今から引き抜きに行ってみようぜ」
俺とロロは、こそこそと宿を抜け出した。
時折出会う酔っ払いや危なそうな人たちも避けながら、俺たちは広場に到着した。
引き抜く人たちも、ギャラリーもない。近くの出店にも、人の気配はない。
「抜けない細工がしてあるとか思ってるのかい?」
ロロは疑いながらも、剣の周りをじっくり見ている。
「まぁそうなんだけどな?ほら、改めて引っ張ってみろよ?」
「はいはい・・・くっ……。」
当然、びくともしない。
「なら、これならどうだっ!」
俺は、剣に向かって刀を思い切り横から振り抜いた。
俺の刀は、ガツンと言う音とともに折れた。
刀身の落ちた音が、暗闇で響く。
…別に先端部分だったからそこまでの損害じゃないけど、自分の持ち物が壊れるのは…じゃねぇ、これ借り物じゃん。終わったわ俺。
「あばばばばばっばば」
「最強の剣なんだから。わかってたことじゃないのかい…?」
ロロに呆れた目で見られた。いやだって……
「ん?」
「ど、どうした?」
「君が切ろうとしたのは、この刀身部分だったよね?」
「そうだけど…」
「歪んでいる…いや…研がれていない…?」
ロロは考え込み始めた。
「金属だから…剣であれば斬れるはず…音の響き…爆発……地面…!クララ!!!」
「うぇ!?大声出すなよ!!」
今は夜中だぞ!!
「よく、見ていてくれ!!!!」
そういって、ロロはまた剣の柄を勢いよく掴み、
放電した。
青白い光が剣を伝わり、そして岩に、地面に吸い込まれていく。
「まだ・・・・・・まだだ!!!!」
「おいちょっと…危なっ!?」
放電が強くなる。青白い光は広場を照らすほど大きくなる。そんなに放電したら体力がヤバいだろ…。
広場を埋め尽くす石畳の隙間から、地面に流した光が漏れている。
放電したら剣が抜けるとか考えてるのか?いやでも魔法は使っても意味なかったわけで……
「これが!剣の正体だ!!!!!!!」
──雷が落ちたかのような爆音とともに、ロロは全身全霊の電撃を剣に叩きつけた。
数秒の静寂の跡、ロロは倒れた。
「どうだい…?ゲホッ」
「どうだいってお前…」
広場はまだ青白い光と、電気の跡が空気中をぱちぱちと走るだけで。
「これ、兵隊とか来たらやばいんじゃあ……え?」
「ふふ、そうかな…?」
俺の心配は、目の前の光景に比べたらしょうもないものだった。
剣が、道が、花壇が、広場が、路地裏が、街全体が。
石畳からあふれる青白く強い光で、幻想的に照らされていた。
「すっげぇ……なんだ……これ…。」
「これが…剣の正体…。」
それはさっき言ってたけど…
「これは剣じゃなくて、ただのはみ出た鉱石の一部……」
「は…?」
「…っと。多分だけどね?ここの地面に鉱石…というか鉱脈が出来ていて、町中の地盤を埋めるように張り巡らされているんだよ。」
はぁ。
「そしてこの剣は、そのうち地面からはみ出てきちゃったんだろうね。その部分を加工して、剣っぽくしたもの。これは集客目的というより、もしかしたら当時の人の面白半分だったかもしれないけど。」
へぇ
「ようするに”抜けない最強の剣”なんてものはここにはなかったんだよ。なんなら、もし抜けちゃうようなら街の地盤ごとひっくり返っちゃうだろうね。ここにあるのはただの、頑丈で、雷に反応して光る鉱石の塊だったのさ。」
「じゃあもしあの剣のために引換券とか使ってたら…」
「街の地盤かそれ以上の大きさの鉱石の塊が出てくることになってただろうね。」
…えぇ。
「えぇ~~~~~…」
「なんだいそんなに落ち込んで?謎が解けてすっきりしなかったかい?」
「それはそうだけど…でも最強の剣なぁ…。」
「…この風景は、お気に召さなかったかい?」
青白く光る街を指す。
…クリスマスだかハロウィンだかには、こういうイルミネーションっぽいものが街中にあふれるのはよくあることだったけど、地面が光るのは初めてだな。
…懐かしい。
鉱石から漏れてるのか、蛍みたいな光球がイルミネーション感を強くさせていた。
「ま…この風景は、悪くねぇかな。」
こいつなんか頑張ってたし、これぐらいは言っとくか。
「ツンデレ。」
「どこでその言葉覚えた。」
俺はロロに肩を貸しながら、宿に戻った。兵隊はこなかった。
「まぁ、そこまで使って取り調べなんてした結果、剣だと思ってたのが生えてるだけの鉱石だなんてバレたら、この街の売りがなくなっちゃうだろうからね。」
余談だが。
「あの~…武器屋さん。この剣って、おもちゃでしょうか?」
俺は近くの村で、あの刺さっていた剣(じゃないけど)と似たような見た目の剣を見つけた。
「あ~それかい?なんか近くの街に刺さってるの見かけてな?見た目も良いしでおもちゃ感覚で作ってみたら売れる売れる!!…まぁ買ったやつらがみんな店の前で「最強の剣を手に入れたぞ!」とか叫ぶのは、勘弁してほしいけどな!ガハハ!!」
「ははは…。」
いいだろ、誰だって最強は好きなんだよ…。
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