悪役令嬢と、ねむるバス停
雷鳴響く豪雨の中、ちょっと子洒落た格好の悪役令嬢と、これまたマネキンに飾られてそうな流行りの格好の王子は、雨に塗られながら走っていました。
「なんでよりによって、傘もカッパも売り切れてるんだよ!!」
「台風が近づいているとのことだったが、これはさっきの街で一泊した方がよかったかもしれないな…。水を操ってどうにかできないかい!?」
「こんな四方八方からのはちょっと無理!!」
「え!なんだって!?聞こえないよ!」
「いいから走るぞ!!」
そして二人は、屋根の付いた小屋を見つけました。
風と雨の音でうるさかったですが、二人の考えてることは一致していました。
/side C
「あーくそびしょぬれだわ。」
「水を操れるんだから、水分を飛ばすぐらいできるんじゃないかい?」
「お前最高。」
俺はロロの服の水分も集めて、小屋の外にまとめて飛ばした。小さな水球は、強風でべちゃとむなしく地面に叩きつけられた。
「にしてもこんなところにバス停があるなんてな」
俺はトタンの屋根を見上げた。
「バス停…?」
「知らねぇの?ん~なんて言ったらいいかな。…同じ方向の目的地に行きたい人たちが一か所に集まって、大きい乗り物でまとめて移動できる…みたいな?ともかくその大きい乗り物がバスで、一か所に集まるのがバス停ってんだよ。」
「なるほど、知らなかった。」
「お前に知らないってあるのか…?」
公共の移動手段だし、この世界に詳しいロロならむしろ知ってるかと思ったんだが。
「電車とはどう違うんだい?」
「電車はあるのかよ。…まぁ線路が無いとか、行動範囲が小さいとか、大きさが小さいとか?俺もそこまで詳しくないけど。」
電車があって、バスが無い。もしかしたら色んな物が転生したからといって、すべてのものが広まって成功するわけじゃないのかもな。
「ふむ…」
ロロは満足したのか、質問をやめた。
屋根を叩く雨がよく響く。
……。
「しりとりするか?」
「なんでだい?」
「いや~お前との沈黙ってあんまりなかったから、なんか落ち着かなくてな。」
「いや、いい。」
「あっそう。」
…。
「しりとりしないかい?」
「なんでだよ」
ギャグかよ。
「せっかくの提案を無下にするのもどうかと思ってね」
「そういうのはいいよ…。」
「そうか。」
みたび無言の時間。
雨、やまねぇなあ…そういやバス停なんだよな、ここ。
来るのかな…って、時刻表破けてるし…。
…くそ、暇だ。
こんな大雨だし、多分聞こえないだろ。いっそ歌でも歌うか?よし、せっかく今は女子の体だし、前世じゃいい感じに歌えなかった女性の歌を…
「羽の~…ありゃ?」
一応聞かれるのはなんとなくあれだったのでロロを見てみると、こっくりこっくりと船をこいでいた。
まぁあんなびしょぬれで全力疾走したら疲れるよな。…水気取ったはいいけど、温められるわけじゃないからな、よく考えたら風邪とか引くかも。
「こういう時、アレな漫画とかだったら、「体で温めてあげますわ」とか言うんだろうな…毛布とかなかったっけ。」
鞄をあさる。予備メイド服、食料、菓子類、財布、ケープコート…もうこれでいいか。ってうわっ!?
「……かあ…さま………」
…流れで膝枕する形になってしまった。正直これは流石にきついだろ、俺元男だし…友人でも…ん?
そこには普段から王子なんて格式ばった殻の中に隠していたのであろう、子供みたいにぐずる少年が眠っていた。
…ほんとこいつは、子供なのか大人なのか分からなくなるな…。俺も人のこと言えない気がするけど。
やたら柔らかい髪をなでながら、俺はもう一度歌うことにした。
/side L
クララと僕は、カラフルな世界を散歩していた。
「これが異世界フライアウェイ!鉄の塊だけど空を飛ぶんだぜ!!」
「すごいね君の世界は!!」
鉄の塊はたくさんの人を乗せて、ものすごいスピードで飛び回った。
「これが異世界便利板!!昔は遠くの人と話すだけだったのに、今じゃ殆どのことができるんだぜ!!」
「すごいね君の世界は!テレポートもできるのかい!?」
「もちろん!」
触ると光る不思議な板は、無限にものを手に入れたり色んな景色を見たりあらゆる知識が溢れてきたりした。
「そして俺たちが異世界・ザ・俺!!!」
「うわぁ!!クララがいっぱい!!!」
カラフルなクララたちと、無限に遊んだ。とてもたのしい。
『ロロ』
「ッ……」
その懐かしい声に、僕はゆっくりと振り返った。
優しく微笑む、少し細い女性が佇んでいた。
僕はこの女性を、とてもよく知っている。
「かあさま……かあさま!!!」
ああ、ああ!ああ!!
「会いたかった…ずっと…会いたかったっ……!!」
僕は母様に抱きついた。
『ロロ…私を想っていてくれて、ありがとう…』
当たり前です…忘れるわけがありません…!
『ロロ…あなたはこのまま、幸せに生きるのです……。』
母様は言う。
だけど。
「っ……それは…できません……」
『……。』
「僕は必ず、あなたの…いや、僕の恨みを晴らす。それが僕の中のけじめです。」
『そう…。』
母様はそういうと、僕の手をすり抜け、ふわりと浮かび上がった。
「母様…?かあさま!!!待ってください!!!」
どれだけ掴もうとしても、すりぬけて、離れていく。
「母様!!!」
『きっとあなたを、あの少女が変えてくれます……だからどうか…』
『幸せを…願っていますよ……。』
「母様!!!!」
最後に伸ばした手は、硬い壁に阻まれ、そして───
「さっきからどこ触ってんだ!!」
「ぎゃんっ…」
軽い拳骨で、目が覚めた。
「へぇ~、そんな夢を。」
「あぁ…。」
「…会えてよかったな?」
「あぁ…。」
雨は、小降りになっていた。
「…異世界フライアウェイと異世界便利板は、一応あるぞ。」
「すごいね君の世界は!!?」
「ごめん言い過ぎたかも!異世界便利板はテレポートできないけど!」
「だとしても十分凄いよ!はぁ…!こっちの世界にも早く来ないだろうか…!君はどんな夢を見たんだい?」
「俺はそもそも寝てねえよ。誰かさんの動きがおかしかったからな。」
なぜか睨まれた。
「…まぁ。僕はここ好きだね。もしかしたら君も、前の世界とかの会いたかった人に会えるかもしれないよ。なんならもうちょっと寝てみないかい?」
我ながらテンションがおかしい気がするが、クララにもこの…なんか爽快感を味わってほしい。
「いや、俺は良いかな。そんな会いたい人いないし?」
「そうかい?」
そんな話をしてる間に、雲の切れ間からは、日がさしていた。
「…すっかり晴れたな。」
「あぁ。バスとやらは、結局来なかったね。」
二人して空を見上げ。
そして二人同時に、くしゃみをした。
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