悪役令嬢の、はじまりのおわり 下

 ガラスの破片とか刺さったりの怪我で出た血を、メイドキャップだったものでふき取りながら、暗い街道を走る。

 あのルーナとかいう子には酷いことをした。悪役令嬢の座を押し付けるような真似を。今からでも戻る?戻ってどうなる。今は自分を優先しろ。ひたすら遠くへ。

 どうやって、どこへ、何をすればいい。

 ……よく考えたらお金とか何も持ってきてないじゃん。てか、子供の体で何ができるってんだ!?だいたいこの世界は本当に物語か?本当に俺は悪役令嬢か?あまりにも考えなしに飛び出してんじゃないのか。漫画読んでた頃「俺だったらもっと賢く動ける~」なんて呑気に考えてたやつ誰だよ!?俺だ!!


んぎゃっ!!

「痛ったぁ!?」

 考えながら走ってたせいで人影に気づかなかった…!

「おや…?」

 そいつは、今の俺より少し背の高い、黒髪の少年だった。

「君、どこのメイドだ。ズタボロじゃないか。」

「え゛っ、あ~~?えっとぉ~~?」

 顔いいな畜生!じゃなくて、とっとと適当な言い訳を思いつけ!

「ふむ…。」

 すると黒髪は俺の手を掴み、俺を引っ張り起こす。

「あ、ありがと────」

 俺は奴の手を取った



 ─────その時、俺に電流走る───!!!



 文字通りの意味で。

「いぎゃぁあぁああああああーーーーーーーーーーーー!!!???」

 なにこいつデンキウナギかよ!!?ウナギのごとくしっかりつかんで離さないんだが!??もしかしてあのメイドちゃんに役目押し付けた罰ですか!?

「痛い痛い痛い痛いぃ!!!!!」

「……漫画……ゲーム?……転生……男だった?……物語の世界……悪役令嬢クララ………逃げたい……怖い痛い痛い漏……ふむ……。」

 なんか言ってるけど何も聞こえない

 未だばちばちと全身を電撃が焼く。

 もう足掻く元気もなかった。

「あ……い、ぎっ……っ…………」

 ────あぁ…悪役令嬢って…甘くないんだなぁ…。

 俺は最期にそう思った。



 /

「ロロ坊ちゃま、もうお時間ですよ。」

 後ろから執事が声をかけてきた。

「あぁジモ。ちょっとね。」

「とうとうお付きのメイドは来ませんでしたな。長年、多くのこの旅の見送りをしてきましたが、これは…。」

「しょうがないさ。僕は父さんのだ。王子といっても48番目となると、メイドであっても気には欠けないさ。ここまでジモが付き添ってくれただけ、むしろラッキーだった。それに……」

 僕は足元を顎でしゃくった。

「おや……?そちらのメイ…否、ご令嬢は?」

 メイド服がところどころ焦げた、【自称悪役令嬢のクララ?】が気絶していた。

を見てみたが、どうやら訳ありのようでね?面白いものが見られそうだ。そんなわけで、僕はこの子を【査察】のお付きのメイドとして指名する。」

「……正気ですか。」

「正気の王族だったら、メイドが来ないだけで3時間は駄々がこねられると僕は思うけどね。さ、準備を手伝って。」

「はぁ。かしこまりました。」



『転生』。彼女、この場合は彼というべきか。確かにそんな事を考えていた。

 今までこの世界に現れた転生者は皆、多くのものを作り、残し、開拓し、蹂躙し、破壊し、正義に溺れ、悪に輝き、伝説を生み出してきた。

「どんな旅になるだろう」

 いきなり国から追い出すも同然の旅にして、王族の仕事の一つである【査察】。

 かつて散々文句を言ったその旅のスタートが、今はなんだかとても「物語の始まりのようだ」と。全身のなにかが、それに震えているような気がした。








 /


こうして、学園という狭い世界を舞台にした、とある〈作品〉から大きく道を外れて、物語は進んでいくわけだが。

 

「ぎゃーーー!!電気男!!!」

「初めまして。僕は第48王子のロロ・ディアメル。属性は見ての通り雷だ。僕の旅に同行してくれ、まぁ、もう拒否権はないけどね。」

「旅?死の旅??俺処刑?この荷馬車は絞首台にでも向かっているのですか?」

「あと、君の血族は水使いみたいだね。気絶したとき服が濡れていたから後ろで着替えた方がいいよ?」

「それはテメェのせいだこの電気拷問変態野郎!!!」

 という会話が、あったりなかったり。



─────────

ロロ・ディアメル

【査察】という仕事の下、旅をすることになった48番目の王子。【雷】を操ったり脳の電気信号を呼んだりできる。【転生者】に深い興味がある。

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