大国の王

 どこにでもあるファンタジーな石と木組みの街。

夜でも明るいその街では、大国の王とその子供…王子たちが集まっておりました。

なんでも王子たちは、王と腕試しやら何かしらの儀式やらをするようです。

沢山の王子とその付き人達で街は大賑わいのお祭り騒ぎ。出店だっていつもの3倍並んでおりました。

 そんな明るい大賑わいの街道を抜けると、ひときわ大きなお城が、その催しの会場として、外からでもまぶしいぐらいの光を発しながら来客たちを迎えるのでした。

第48王子も、不服ながらこの腕試しに参加するようです。

というより、させられるようです。

受付を通り戦う者たちの集まる待機所まで来ると、今まで自分をいじめてきた

兄弟も、顔も名前も知らない兄弟も、沢山です。

─俺様があのクソ親父をぶち殺してやるぜ!!

─おいおい大丈夫か~?まぁ俺もあのクソは憎いけどな?でも親父殿、転生者だし?そういう不死身みたいな力貰ってるから殺せないだろ~?

そんな兄弟たちと1,2回話したり、いきなり殴り合ったりする面々を見ながら時間を過ごしていると、とうとう48番が呼ばれます。


丸太を組み合わされたコロシアムの入り口がガラガラと持ち上げられると、その中心では、おいおいと泣く傷だらけで巨体の男性…先ほど大口をたたいていた兄弟たちのうちの一人が、彼らの父親の、見た目が高校生ほどの男性の腕に抱かれ、泣いておりました。


「お~いおいおい……俺様が間違ってたよ親父ぃ~~~~~!!!!」

「おおよしよし!分かってくれたか!父さんはいつだって!!!」

観客の…100を超える親族たちがおいおいと感動の涙を流します。

親子同士のすれ違いを乗り越え、再び新しく美しい〈家族〉になったのです。


その光景に反吐が出ました。あまりにも気色悪く、出来すぎた茶番劇。

今すぐにでも帰りたい。叶う事なら愛しのあの友人とまた旅を続けたい。

しかしそうは行きません。どれだけ嫌いでも、どれだけ逃げたくても。

父親の言うことは。

の命令は、絶対なのですから。


大男が出入り口から去っていきます。

大国王はそれを見送ってから、ロロへ向き直りました。

「次は…お前か。確か…そう、48番目だったな。」

「…。」

(名前も覚えていないのか。)


内心毒づきますが、ここでは大国王が全て。

大国王こそが大正義。

何を言っても意味が無い。

旅に出ろと言われればお付きがいなくても出なければならず。

戦えと言われれば大事なものであっても切り捨てて。

捨てろと言われればどれだけ大事なものであっても捨てざるを得なくなる。


それが王。

それが正しさ。



「お前が王だとか父親だとか、僕の知ったことじゃない。」


劇のセリフの最中かの如く、会場は静か。

「僕のことを蔑ろにするのは愚か、母さんを見殺しにした男に、そんな想いは微塵もわかない。」


「だから、これはけじめだ。」


(母さんを助けられなかった僕を。

ひたすらお前や、お前らの扱いに耐えてきた僕を。

僕自身を否定し続けてきた僕を殺すために)


─お前は、僕が殺す。



息を吸い、第48王子は剣を振り抜いて、|血縁上の父親《おうさま

》に切りかかりました。

王様はそれを難なく受け止め、そのまま弾き飛ばします。


合図の一つもない、親子げんかですらない戦いが始まりました。




「お前の…せいで………!!!」

二つの人影が、光と土煙の中でぶつかり合う。


「お前が女遊びなんかにかまけていなければ、母さんは体を壊して死んでしまう事はことは無かった!!」

「女遊びじゃあない、お前の所とは別の母親の所に行っていたんだ。それだって重要な仕事だ。」


雷の如き速さで振り抜かれる剣が閃き。


「僕の夢を馬鹿にし続けた!他の兄弟に見せびらかしてまで!!」

「お前に絵描きは無理だろ。我儘言わず大人しく棒切れを振り回して大事な国の戦力の一部になった方が合理的だ。かなわないって知って泣きわめくよりずっといいだろ?」


浴びれば人の形も残らないであろう熱い光の束が、闘技場に無数に広がる。


「それより世界を旅して、見識を広め、国に貢献することの方がずっと素晴らしい。

父さんも転生者として旅をして、いろんな国を渡り、色んな人々を救ってきて、こうして王になったんだ。」



それを大国の王は


「みんな俺の言う通りに動いて、正しく生きてきた。」


避けきり、


「お前らの母親も。」


弾き、


「お前たち兄弟も、そうやって成功してきた、だろう?」


そしてそのままその身に受けても。


「俺はこの世界の主人公なんだ」

「だから、俺は何も間違ってないだろう?」


傷一つつくことはありませんでした。


「…くそっ…。」

電撃も、培ってきた剣術も、そのすべてが大国の王の前には無に帰す。

神から与えられた〈不死身〉の力の前では、ただの傷一つさえ。


「俺の言う事さえ聞いていれば、お前も正しい人間として生きることが出来るんだ。」

王子はほぼ完全に折れていました。恐怖していました。

こいつにはかなわないと。

こいつの正しさを否定することはできないのだと。

「俺の正しさを理解しない自分勝手な奴は」


たいして第48王子と大差ないように見えるその細腕から放たれる一撃は、たやすく王子の命も。

そしてあり方も屠ることでしょう。

変えてやらないとな」




でも、そんなのおれは認めない。


/

金色が揺れた。

いつも見ていた金色が。

ここにいないはずの金色が。

別れたはずの金色が。

ついてこさせるわけにはいかない、大事な金色の友達が。


確かに僕の目の前にいて。



「……なんだ、貴様は。」

大国の王が聞いた。


「おれ…いや。」


私はクララ・ファヴロイト!!!正義が大っ嫌いな、自分勝手な悪役令嬢だ!!!」

「アタシの自分勝手で、友達を守りに来た!!!!!」

その金色の声は。その決意は。

会場中に広がり。


〈恐怖〉で誰も動けなくするには十分だった。


「ぐ…き…さまぁ……!俺に逆らう気か…!?この大国王に…この世界の正義そのものに!!」

「だぁからそうだって言ってんでしょうが。こちとら悪役令嬢だぞ。正義を説くんじゃねえよクソ野郎。…


「…えっ?」

言ってる意味がよく分からなかった。

だって僕は彼女…いや彼を巻き込みたくなくて。

アイツに復讐するために一人でここまで来て。

自分のわがままで勝手においてきて。


とっくに嫌われていると思っていた。


には殴られる覚悟だってしていたのに


僕の返事も聞かず、彼は僕の手を引く。


僕の後ろで、男が叫んでいた。

「ぐぅ…47番目っ!!!お前の選択は間違っている!!それを必ず思い知ることになるからなぁ!!!!」


それがたとえ正論だとしても、僕の手を引く彼と一緒なら、怖いことなんてないと信じることができた。



────────

次の日。

近くの村の宿を出て、僕らは歩く。

昨日のあれから、僕らはまだ一言も会話を交わしていない。


何から話せばいいのか。

僕から話していいのか。

あるいはまだ怒っているんじゃないか。


そんなことをぐるぐる考えながら、僕は彼の後ろを歩く。


──おい!!聞いたか!?

──あぁ、ようやく殺されたらしいぜ!

──あの忌々しい〈大国の王〉が!!


「…え?」


そんな、民衆の声が聞こえた。

でも。

「…行くぞ、ロロ。」


今の僕には、それを詳しく聞きにいけるほどの気力がなかった。



村を離れて、並木道を二人で歩く。

木陰で感じる少しばかりの寒さが、季節の変わり目を感じる。


「あの執事さんから、いろいろ聞いた。」

…。

「あのおっさんが父親だった~とか、あいつにひどい扱いを受けたとか、家族も…そういう目にあったとか…まぁ、おおざっぱだけど。」


「そうか。」


「それで……お前があの男を殺すためだけに、生きてきたことも…。」

…。

「…。」


「ねぇクララ。」


「何だ?」


を殺したのは、いったい誰なんだい。」


「…おれじゃねぇよ。そんな目で見んな。おれなりに聞き込みしたら、お前と同じ…っていうのはなんか嫌だけど、何十何番目かの王子様がやったらしいぜ。なんというか、まわりまわって返ってくるもんだよねぇ。」


「…そうか。」

…そうか。


ああ…。

「全部、意味がなかったんだな。」

「…。」



「あいつから離れるために旅の時まで耐え続けた14年間も。あいつから離れてどうにか殺す手段を探る旅も。旅で体を鍛えてきた意味も。」


「僕の努力も、僕の怒りも、僕の悲しみも…殺意も憎しみも苦しみもここまであいつを殺すためだけに耐えて積み上げてきた何もかも!!!!!!!!」


無駄だったんだ─────────




「…クララ・ファヴロイト。」

「断る。」

「…まだ何も言ってないが」

「おれはお前の友達だ。だから『旅の目的がなくなったから僕は死にます。おまえはどっかいけ』なんて命令は聞けねぇ。」


…なんというか。短い付き合いながら、流石というか、察しがいい。


「おれとしては、お前があの男を殺さなくてよかったと思ってるよ。」

「っ…僕は」

「だっておれ、王様殺しの指名手配された友達を守りながら、自信はないからな。」


…。

「…………は?」

「おい、何呆けてんだ?お前の用事が終わったんだから、次はおれの用事について来いよ、親友?」

「ちょ…、」

「おれを散々振り回した挙句、大事なところで置いてけぼりにしたんだ。かなり傷ついたんだぞ~?そ・の・へ・ん!!わかってんだよなー!?」

答える間もなく、髪をぐしゃぐしゃにされて、手を引かれる。

…はは。

…まったく、君ってやつは……。

「って、いつまで引っ張っているんだい?僕は自分で歩けるよ!」

「にゃははは!わりぃわりぃ!!!」


ちょっと重い気もするから、今は言わないでおくよ。

『生きる理由になってくれて、ありがとう』なんて言葉はね。




並木道を、二つの人影が駆ける。

二人の旅は、まだ続く。

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