悪役令嬢と、めいどいんめいど 下
次の日、俺は改めてフロムさんと戦った。
そしてボコボコにされた。
「高圧縮の水ビームなんて軽いノリでやるもんじゃないなぁ……。」
とっさに思い付いた技だったが、肝心の俺が軽すぎて制御できずぶっ飛んでしまった。
それから戦闘訓練だけには、クロムのおかげでこっそり混ざることができた。
武器と水と体の使い方を感覚で覚えないといけない。
この際いろんな武器を試してみようか。とか考えてたら、
「一つを極めてください。」
とクロムに断言された。そんなに分かりやすかったのか?俺。
その次の日。
今度はフロムさんと他のメイドとの戦闘訓練があるとのことで、ひたすら見学することにした。
「座学ができるというのなら、姉の動きをひたすらメモしてみるのはどうでしょう?」
とクロムが教えてくれた。
日記帳の空きのページに見たものすべてを書き込む。
正面、側面、背面からの攻撃に対するそれぞれの対応。
よく使う魔法の属性は土。
遠距離には武器を振る衝撃で、近距離には直撃の叩きつけで返す。
戦い方は防御主体からの一撃必殺が主。
相手の攻撃がやんだ隙に斧を勢いよく振り下ろして、広範囲の衝撃で叩き潰すカウンターのような戦い方だ。
小さい隙はひたすら一歩も動かずガード。
だがこの防御中に後ずさるところも、怯むところも見られない。だから弱くても連続攻撃ごり押しで勝つ!は通用しない。
一言で言うなら、重く硬い馬鹿力の要塞だった。
その後も何十戦も戦うフロムさんを見続けて、ある程度書けたと満足した俺は、みたび戦いを挑んだ。
当然、ボコボコにされた。
「やば~い、心折れ~る、やってらんね~。」
俺は湖で項垂れていた。
「ふふ。それで?勝算はありそうですか?」
クロムは今夜も相談相手に来てくれた。なんでこの流れで勝算があると思うのでしょうかね?
「だって、あそこまで姉が他のメイドを蹂躙するさまを見ておきながら、即挑もうとするなんて、無謀を通り越して主人公みたいでしたよ?」
「そういうものかぁ?…でも、勝算無いことには、無いかも。」
クロムは目を見開いた。
「何か、分かったのですか?」
戦闘の記憶を思い出す。
今日、メイド長は普通の戦闘訓練を行った。
そして、あらゆるメイドの攻撃を受けきり、びくともしなかったのだ。
そう、俺のときとは違う、普通の訓練。円はなかった。
「大きく動いてもいいはずなのに、よけた方がいい攻撃でも防御した。回避はしなかった。」
「ほう。」
「たぶんそこに勝機があったり……してほしい、です。うん。」
「なるほど。」
…さっきからクロムさん、目が怖いですよ?
「体が重くて素早く動けないとか?重いのは武器かもしれないけど。あるいは動かない代わりの何かがあるのか…。」
「体重が重いわけではないですよ。」
早口で返された。姉を馬鹿にされたと思ったのかもしれない。
「まぁ兎に角、明日には決着をつけるつもりだ。」
「……その判断は、正しいですか?」
…今も昔も、少年誌では修行パートに3~5年使うのはざらである。現実はもっと厳しい。
それなのに二日程度頑張っただけで強敵を打ち倒し目的を達成する~、なんてのは、あらゆる主人公のエピソードをミルフィーユみたいに重ねて、ご都合部分だけ切り取って食べるでもしないと無理である。
俺は【悪役】枠なのでなおさら無理である。
だったら。
「正しくないやり方で勝つ。それが俺なりの【悪役】だ。」
「…そうですか。」
「あ、別に未だに【悪役令嬢】がどうとかを気にしてるわけじゃないよ?俺なりのあれというかなんというか……」
「ふふ、存じておりますよ。そういうところは【悪役】には程遠いですね?」
ぐぬぬ。
「さて、そろそろお暇しますね?」
「ん。あ、ちょっと待って。」
俺は日記帳のページの一つを破り取って、折り畳んでクロムに渡した。
「王子様に渡しといてくれ。」
「…確かに。明日を楽しみにしています。」
クロムは去っていった。俺も明日の準備をしよう。
───俺はもう【クララ】であることを恐れない。
/side F
彼らがここに来て4日目。ロロ・ディアメル様がどのメイドを選ぶかに時間をかけている間、あのメイドもどきは何回も再戦を求めてきました。
そしてどうやら、彼女は今日で決着をつけるらしい。片腹痛い。
「二日といわず、訓練を一週間。なんなら数年仕込んでから戦ってもよろしいですよ?もっとも、その頃には王子様はここからはいなくなっているでしょうが。」
彼女がこっそり混ざっていることは、分かっていた。
「うるせぇですよフロムメイド長、そうならないようロロを呼んだんだからな。」
「無様をさらすだけだと思いますが…。」
私は足元に円を描いて、向かい合う。
「大丈夫……恐くない……!」
「───それでは両者武器を構えて────」
「我が名はクララ・ファヴロイト!!!!!」
審判メイドの声を、メイドもどきが遮った。
何かやるにしても、そんな大声で宣言されては不意打ちにもならないのですけれど。
「我が血の下に命ずる!」
あの気迫は4日前、自我を失った時と同じそれだ。
自滅ですか?───いや。
〈畏怖せよ〉
私の視界は、真っ暗になった
「つかえない」
「あなたなんかいらない」
「なにもできないのだな」
「おまえはうられたんだ」
「おまえはあいされなかったんだ」
「にんぎょうのようにいきろ」
私を否定する声が、
私が恐れる声が、
冷たく骨の隙間までしみ込んでくる感覚。
だが。こんな恐怖は────
「とうの昔に、乗り越えた!!!!!!」
暗闇が割れ、視界に光がさす。
意識が戻ると、私の目の前には深い霧が出来ておりました。
…大丈夫。土魔法の鎖で、既に地に足は縛ってある。だからズレない。
その応用であらゆる方向からのダメージも地中に流す。
つまり、どこから不意打ちがこようとも、私を円から出すことはできないのです。
だから
攻勢に出ても、いいわけです。
斧を、構えなおす。
霧の隙間に、彼女の金色が揺れた。
「甘い!!!」
そう、甘かった。「彼女の覚悟に対する私の認識」が。
私が叩いた美しい金色は。
彼女の長い、髪束だった。
/side C
ガン!!
「っぱ無理か!!!」
俺はフロムさんに霧と「土壇場で切った髪」を使った不意打ちを仕掛けたわけだが、案の定意味はなかった。てか鉄殴ったみたいな音がした。人間かよこの人。非殺傷武器だとしてもおかしいだろこれ。
だが、確かに体には当たった。今までが防御されていたので、これは進歩というべき…と言いたいが、実戦でこの程度を進歩と呼んでられない。
霧が晴れる。
「…………」
フロムさんは、俺の髪束を抱いて泣いていた。
……なんで?
「あなたは…女性の髪を何だと思っているのですか……?」
明らかに怒っていた。泣いてたけど怒ってた。
「えっと…?あ~、「女の命」って言いますよね…?」
「そ゛う゛で゛す゛!!!!!」
「ひっ」
こわい。なんというか、今までの「蹂躙してくる敵」みたいなのとは別の方向性で怖い。
「クララ……!」
「!」
ロロがメイドたちの陰から小さく手を振っている。準備はできたようだ。
「貴方という人は!!!!これは本格的に身をもって分からせなければならないようですね!!!!」
足が震えるほどの気迫だけど、ビビってる場合じゃない。
俺は作戦を開始した。
道場の壁がぶっこわれる。少しずつ傷をつけてもらってたのだ。
そのまま穴という穴から、湖から持ってきた濁流が、中を満たしていく。
観戦メイドたちは大慌てである。
フロムさんは観戦メイドを巻き込めないのか、技を使う気配がない。
「足場を悪くしたところで、私が動くことはありません……!」
「そりゃむしろ安心したぜ。」
水責めは続く。水流も操り、水が外に出ていかないように。
一分もたたないうちに、道場内は水槽になった。
天井付近には、観客メイドたちが浮かんでたり溺れたりしている。いくらなんでもやりすぎた気もするけど、こうでもしないと勝てる保証はなかった。
「……………!!」
フロムさんも浮かんでいた。ただしまだしっかり円の中であり、しっかりこちらを睨みつけている。
だが土魔法の固定は使ってないみたいだ。溺れるのを回避されたか。
俺はそんなふんばりがきかないであろうフロムさんに、初めの時と同じように、水流を使って勢いよくぶつかることにした。
「!」
大技の構えだ。この調子だと俺がぶつかる前に出せるだろう。ぶつかってもびくともしないかもしれない。
だから、ロロを連れてきてもらった。
「ガボァッ!!??」
「ギッ……!」
水中が白く光る。
どうよ、王子様の電撃は?さすがに食らったことねぇだろう?
全身の筋肉もろくに動かせないであろうところに、勢いそのままの俺の体が激突する。
描かれた円も超えて、道場の壁も壊して、操ってた水も解除されて、全員が外に流れ出る。
全身が痛くて、息が出来なくて、ちょっと痺れていた。でも。
この世界に来て初めて、悪役令嬢でもクララでもない【俺】の戦いを、俺の存在を、証明できた気がした。
─全部利用する。主人さえも利用する。【悪役】らしいかはともかく、【俺】らしい勝ちだった。
「いい主人をお持ちになりましたね。」
フロムさんは、ぴんぴんしていた。
「…とりあえず皆さん、お風呂に入りましょうか。」
水流と一緒にぶちまけられたメイドたちを一瞥して、静かに言った。
俺は、そうだなぁと思いながら、意識を手放した。
~~~
「あったけぇ~~~~」
次に目を覚ました時、俺は風呂だった。
気絶中の人を湯舟に入れんなよ日本のバスタブの溺死率なめとんのかと思ったが
「しっかり疲れをとりなさい、クララ」
おとなりに怖い怖いメイド長がいたので、誰にも文句は言えなかった。
「……ふむ。」
めっっちゃ睨んでくる。
あとめっちゃ髪触ってくる。
わ~い美女とお風呂だ役得だ~なんて考えられない。
えなに、妖怪髪おいてけみたいな感じなんですか貴女。
「あ、の、ですね…金髪、お好きなんですか…?」
「…いえ?」
何言ってんだ俺。何言ってんだ俺!!
「あぁそういえば、旅の件ですが。」
!!
やっぱ…あんな勝ち方じゃ駄目でしたかね?
てか、いろいろ壊したし賠償金とかとられるんじゃないか?
でも俺は自分のお金がない→働いて返せ!→メイドとして使えない→奴隷商とかに売り飛ばされる→つらい生活。
終わった……俺……。
「何を絶望してるのか知りませんが、ロロ・ディアメル様との旅は続けていただいて構いませんよ。」
「えぅ。」
それは、よかった「ただし。」
ガッと効果音が付きそうな勢いで、肩を掴まれた。
「一週間で、あなたを旅のお供にふさわしいメイドに育て上げさせて頂きます、頑張ってついてきてくださいね?」
「へ。」
「ちなみにこれは僕からのお願いだ。あと一週間までなら滞在しても問題なさそうだったからね。メイドとしても転生者としても、成長を楽しみにしているよ。」
なんで
「大丈夫だ、性知識はちゃんと学んである。」
なお駄目だろ。
~~
「主人より二時間早く起きる!!危険を察知しても起きる!!
野盗に襲われたら首を飛ばしますよ!!」
「そこは「首が飛びますよ」じゃないんですかねぇ」!?
朝、睡眠魔法とダーツの矢をかいくぐりながら食堂へ向かう。
「テーブルマナーは心の気品そのもの。力を入れすぎず、優しくかつ清らかに…くっ─」
「豆を箸で挟むって、子供のころ給食とかでやってたな~。そもそも箸と豆がなつかしいけど…」
「……。」
俺の箸はいきなり壊れた。
「17秒78!!遅い!私と戦った時の機動力はどうしましたか!!」
「茶器のせお盆持ちながら水出して移動なんてしたらずっこけちゃうでしょうが!」
メイドらしさを重視する訓練では、リミットが短いこともあって特に重点的に、つきっきりでやらされた。ほかのメイド達からの羨望か哀れみの視線がすごく痛い。
借りた部屋はクロムと同室だった。
「クロムさまありがとうございます~~~!!会いたかった~~~!!!あなたのお陰で色々助かったマジで~~~!!!」
「ふふ。私も、あなたが前に進めてよかったです。」
「はぁ~~~天使通り越して女神ですわ~~~~!!!!」
例のごとく情けなく抱き着く。体は女の子だからセーフ!やっぱちょっとごめん。
「あぁ……鬼メイド長から受けた苛烈なダメージが女神エネルギーによって浄化されていく…。」
「…つらかったときは、いっぱい甘えていいですからね?」
「ん…。」
「んふふふふふふふふふ」
なぜだろう…温かいはずなのに、冷や汗が出ていた。
「この服は近接戦闘式給仕服。Martial Arts Innocent Dress。略してMAID服です。」
先の戦いでぼろぼろになっていたので新しいメイド服をもらった。
ミニスカのコスプレメイドみたいだったが。
「そして!!」
「これが…わたし……?」
「ふふふふふ…」
鏡には、髪を肩まできれいに切り揃えられて、整えられた俺が映っていた。
こういうのなんだっけ、セミだかショートだか…ウェルダン?
なんにせよ、立派に美少女だった。
…刀で切ったのをそんなに気にしてたのか?
それはそれとして、
「何、このセリフ。」
「貴方に合うかと思いまして。」
「坊ちゃま、今日は天気がよろしいですね。」
「ぼっちゃまきょうはてんきがよろしいですね」
「感情が無い!…お嬢様、お茶が入りましたよ。」
「お嬢様お茶が入りましたよァ!!」
「今茶器を持ってくる必要はありません!ン゛ン゛ッ…
王子様、夜のお世話をさせていただきます。」
「王子様夜の…待てやコラ。」
「それでは実践と行きましょうか」
「やらんが」
やらん。
そんなこんなの一週間は、あっという間だった。
~~~
「100点中24点…1週間でこれなら、十分なぐらい…ですね。」
「うん、僕も見てて分かった。いい動きになってた。」
「なはは、まぁ師匠なら「赤点!もう一回!!」ぐらい言いそうだけど…。」
最終日、俺たちの旅立ちに、師匠…フロムさんは来なかった。
クロムと、見知らぬ青髪メイドさんが来ていた。師匠の友達らしい。
「フロムちゃん、あれで結構君のことかわいがってたからね~。見送りが嫌で、案外部屋で泣いてるかもよ?」
「なはは!それこそないですって!!」
「え~どうかな~…。」
青髪さんは、陽キャだった。
「あ、そうだクララちゃん。」
クロムが何か小さな、光るものを持っていた。
〈ずっこけてる金髪ロングのメイド〉が描かれた、バッジだった。
「姉からの卒業祝い、だそうです。」
「…ほら、やっぱ愛されてんじゃん。」
/
「また会おうな~~~~!!!」
「行っちゃったね~」
「えぇ、行ってしまいました。」
……。
「もう、いいんじゃない?」
「いい、ですかね?」
「うん、いいよ。」
クロムは、天に両手を掲げる。
その四肢と髪が伸び、身体は鍛えられた筋肉と出るところの出た大人の女性らしいスタイルに変貌していく。
全てが終わった時、そこに立っていたのは【メイド長フロム】だった。
そのままメイド長はバターン!!と仰向けに倒れ、
「やだあああああああああ!!!!!!クララちゃんいっぢゃやだああああああああ!!!!!!」
───滅茶苦茶に、駄々をこねた。
─何事!?
─東の山方面から聞こえたよ!?
─どうせメイド長の発作だよ、今日あの子たちが出る日でしょ
─あーそれな。
─さ~訓練訓練。
─私が出るときも、ああやって駄々こねてくれるかなぁ
─その愛の方向性はやめとけ~
前提として書いておくと、クララがフロムにボロクソにされたのは、クララのメイドとしての資質や覚悟が足りていなかったことに対して、フロムの中のメイドという仕事に対する矜持や誇りがブチっといってしまったからである。
逆に言うと、それだけであり。
それを抜きにすれば
「ク゛ラ゛ラ゛ぢゃ゛ん゛の金髪ロングわだじのぜいでぎっぢゃっだぁ~~~~!!大好ぎだっだの゛に゛~~~~!!!!!!」
「いや~、だからってメイド修行にかこつけて年単位で縛ろうとするのはね~…」
どストライクだったのであった。そして愛が重かった。
「じがも泣がぜぢゃっだじ…でもあの子゛がわ゛い゛い゛んだよぉ…悪役令嬢みだいだがら目づぎは鋭いげどぞごも良ぐで……ぞの中に゛子犬み゛だい゛に゛怯゛え゛て゛る魂があっで…でも気丈に゛ふる゛まお゛う゛どじでるどごろどがどぐに゛がわい゛ぐて゛……弱っでる゛どごもがわい゛がっだげどねぇ~~~~~!」
「いや~…何回も見てきたけど、マジキモイな…。」
そして、性癖がやばいやつだった。
/
「はぁ…かわいい…かわいかった……もっと一緒にいたかった………。」
「…だったらさ、フロムも旅に出たらいいじゃん。」
「…え?」
「…苦節10年、長かったよねぇ~。奴隷商からみんなで逃げ出して、ひたすら遠くまで走って。でも当然食料なんて持ってなくて、あぁ、私たちはもう駄目なんだ、神様なんていないんだ~ってところで」
「「【師匠】が来てくれた」」
「あの人も、転生者だったよね。」
「えぇ、なぜメイド服だったのか未だに分かりませんが、彼女は小さかった私たちに戦い方を、生き方を、そして給仕の素晴らしさを教えてくれた。」
「出会ってくれてありがとうパーティーとかしたよね~。」
「えぇ。あのパーティーで私たちの成長をみせたかったのに、メルがコーヒーをぶちまけたり、ライラがケーキを上下に切り分けたり。今でもあの時の一人一人の声が聞こえるようです。」
「…師匠、どこいっちゃったんだろうね。」
「分かりません、しかし、あの人はただで死ぬような人間ではありませんよ。」
「探しに行かないの?」
「…そんなに、旅に出てほしいのですか?」
「ん~、ちょっとちがうかな。」
─フロムは、ずっと私たちに尽くしてきた。
─メイド長になって、ほかの孤児とかも拾ったりして育てて、送り出してきた。
─メイドみんなのお世話をしてきた。
─フロムだけもう長い間、ずっとここにいる。
─外を知ってほしい。生きることを楽しんでほしい。
─せっかく手に入れた自由を、体で感じてほしい。
「…いいの、ですか。ここのことは?」
「なめんなし。あたしだってメイド、しかもあんたの同僚だ。」
「でも、あなただって」
「ざんね~ん!私は先月旅行から帰ってきたばかり。つまりバリバリ自由なメイドなのです!」
なんだそれは。
自由なメイド。
メイドの枠組みから到底外れていて、それなのに怒れなかった。むしろ、可笑しかった。
「……いいですね、それ。」
「っしゃーーー!きまりーーー!!あの子たちのことも、気にしといてやんなよ~~~??」
「別についていくつもりはありませんが?まぁ旅先で偶然?たまたま?奇跡的に出会うこともあるかもしれませんが。」
「そこで否定するからおみゃーはキモいのだ。んじゃ、準備すっか!」
「…そんなすぐに旅立つ気はないですよ?荷物も、服も、あ、あの子にあげるものとか」
「そーーーじゃなくって。」
─出会ってくれてありがとうパーティー。
/
かくして、また一人の物語が動いたりするのですが、そんなことは重要じゃないのです。
これは旅のお話。変わり続けることが当然の物語ですから。
「にしても、ほんとどこいったら会えるんだろうね~」
「まぁ無理に会う予定もありませんが、一度くらい顔は見ておきたいですよね。」
ルーナ師匠、一体どこでなにをしているのでしょう。
───────
フロム
メイドの里のメイド長兼管理人兼育成係。
孤児やら奴隷やらを一流のメイドに鍛え上げ世界に送り出す仕事をしている。
クソが付くほど真面目でメイドとしての在り方に何らかの矜持を持っているため、そこのプライドはとても高く、貴族王族でも対応を間違えると面倒なことになる。
一方で何度も子供たちとの出会いと別れを経験しすぎてロリコンに近い存在になっている。古株はそれを知っている。
クロムという
土魔法が得意。
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