悪役令嬢と、水の決まり事

 肌刺す夏日が照らす中、水着の上にパーカーを羽織った金髪悪役令嬢と、これまた水着の上にアロハシャツを着た黒髪王子は、白い建物が並び、いたるところに水が流れている美しい都市に来てはしゃいでおりました。

 水着回パート2ということで。

「ひゃ~~!いいなここ!」

「涼しいね。」

 そこかしこに流れる水やら噴水やらにより、不快でない涼し気な空気が都市には流れておりました。

「でも、この国では水着じゃないとダメってどういうことだ?ロロ。」

 悪役令嬢は王子に聞きました。

「すぐにわかるよ。」

 王子様は空を見上げました。

 つられて悪役令嬢も空を見上げます。

 そんな二人の顔面に、水風船ほどの水の塊が叩きつけられました。


「ぷふぇ…。」

「……。」


「やーい!バカ令嬢!!」

 離れたところから悪ガキ感のある子供たちが二人を馬鹿にしてきました。

 彼らの近くには水魔法らしき発射跡が見受けられます。どうやら犯人は奴らのようでした。

「なにしやがんだクソガキ共ぉ!」

 悪役令嬢は王子のメイドとして守ることが本業でした。危害を与えられて怒るのも無理はありません。

「げぇー怒ったぁ!?」

「もしかして人違いじゃないかな?」

「なんか怖いぜあの姉ちゃん……!」

 悪ガキどもは口々にそう言い、そそくさと去っていきました。

「待ちやがれ…足速いな!?」


「…チッ、幸先悪いな。治安あんま良くないんじゃねぇの、ここ?」

「まぁあの人達だけで判断するのは早計じゃないかな。この国自体は全体の美しさだとか水が美味しいとかで有名だよ。」

 王子は割とこの都市を気に入っている口振りでした。

「お前、なんか機嫌いいな?」

「すぐにわかるよ。」

「またそれか。」



 二人は都市の中心部分まで来ました。

 装飾が施された大きな噴水周りでは、動物だったり子供だったりが水を浴びたりして楽しんでおります。

「さっきのはホントにただの悪ガキだったみたいだな。」

 ある程度都市を見て楽しんだ悪役令嬢は、情報収集をするうちに、普通にいい人たちが住んでいるということが分かり、機嫌を取り戻しておりました。

「だからそう言っただろう?」

「自分で見なきゃわかんないこともあるんだよ。」

「それはそうだね。」

 王子は「じゃあ」と続けて。

 噴水の傍らに座り込んでいる、全身びちゃびちゃの金髪お姉さんを指さしました。

 どこかのお屋敷のお嬢様でしょうか、ドレスのような美しい水着をつけておりますが、濡れそぼってどことなく公共の場ではアレな身体とめそめそした雰囲気は、明るい都市には似合わない”重み”を感じさせます。

「あれを見てどう思う?」

「……知らんけど。お前の知り合い?」

 悪役令嬢はそっぽを向きました。

 別に悪役令嬢の知り合いというわけではありません。ですが明らかに関わったら面倒なことになると【彼】は雰囲気でそう感じたので「なんか暗い人だな」とか「いろいろやばそう」とか「泣いてない?大丈夫?」とかの一切を抑え込むことにしたのです。


 が。


「すいませんそこの人。」

 王子様が話しかけてしまっては、意味がありません。

「ふぇ?」

「ちょ、お前…。」


 そうして。

 ずぶ濡れお嬢様と、悪役令嬢の目が合いました。

 金髪に、紫色の瞳。その特徴は、二人ともどこかで見た覚えがありました。

 ずぶ濡れお嬢様は目を見開き、悪役令嬢をじっと見ています。内心ビビりながら悪役令嬢はたじろぎました。

「あの…なにか用でしょうか…?」

 その一言で


 彼はびしょ濡れお嬢様に飛びつかれ、力いっぱい締め付けられました。お嬢様の全身から湧き出る大量の水で悪役令嬢もびちゃびちゃにされますが、それよりも苦しくてたまったものではありません。

 声も出せずじたばたともがく悪役令嬢に力強く抱き着きながら、びしょぬれ令嬢はわめくのでした。

「クララちゃ~~~ん!!お姉ちゃんもうこの仕事辞めたいよ~~~~!!!!」



 ~~~

 /side C


 真っ白な都市の最奥にある、これまた真っ白な城の応接室に俺達3人は通された。

「改めて、初めましてクラリス・女王。あなた様の妹には大変お世話になっております。」

「えへへ~~~そんな褒めても水しか出ないよ~。でもクララにやっと良いお友達ができるなんて嬉しいな~!しかも男の子!よろしくねロロくん!」

 ロロはお姉さんとやけに仲良さそうに話している。王子がいま言ったことから分かるように、この人はどうやら【クララ】の姉らしい。勘弁してくれよ…

 ”姉”だ。

 今までの事前情報にはなかった。あの転生主人公シンシアさんからも聞いた覚えがない。…いや、ゲームの舞台が学園モノなら、外の世界の都合なんざ映すはずねぇか。…じゃねぇ。

 俺は【クララ】じゃない。そして俺は【クララ】を知らない。

 さっき勢いよく抱き着いてきたとこから見ると、この姉はクララ大好き人間なようだ。

その中身に【俺】が入ってたなんて知られたら…妹さんの人生を滅茶苦茶にしましたなんて知られたら…終わるっ!

 ロロの野郎っ!なんか分からんが余計なことしてくれたなぁ!!?

「それでクララちゃん?」

「ひゃい何でしょう!?」

「ひゃい?」

 イカン!せめて令嬢らしい振る舞い…ってなんだよ……日記帳の口調を真似るしかねぇ!

「オーーホッホッホ!!何でしょうお姉さま!!!」

「…」

「…」


 …数秒空気が凍った。

 ギャグが滑った時みたいな空気で二人は俺を見ている。つらい、耐えられない。

 正直馬鹿王子になんでこんなことしたか色々問いただしたい。というかどうにかトンズラこきたいところだけど、クラリスさんが近くにいるからうかつに聞けねぇ!!逃げらんねぇ!

「まぁとにかく、クラリス女王。」

「…えぇそうね。私の頼みを聞いてくれる?」

 すーーっげぇ睨んでるよクラリスさん。聞かないと返さないオーラだよ。

 ロロ、どうなんだそこら辺?聞くのか?と目線で返す。

「クララはどう思う?」

 今俺に口を開かせるんじゃねー馬鹿王子!ばれたら死ぬ!物理的には死なないかもだけど!いやむしろそっちならいいのか?

 黙ってても解決しないので適当言うか。

「オホホ。」

「ぜひとも聞かせていただけますか、クラリス女王。」

「えぇ、こちらこそ。」

 スルーかよぶん殴りたい。

 俺の葛藤も流される形で、クラリスさんは話し始めた。



 私の国は見ての通り水がいっぱいで…水源…そう。この国だけじゃない、世界全体の水源を管理しているの。どうやってって言ったら…クララちゃんと同じ血筋の私にも【水を操る力】があるから、そこをちょいちょいってね。魔法使いとかクララちゃんみたいなのが水を沢山出して水だらけにしても世界が大洪水になったりしないのは、実は私たちみたいなののお陰なのです!クララちゃんのより大規模でびっくりしたでしょ?

 魔法なんて常識を無視した力が現れてからも、こういうのは貴族とか王族の仕事だからね~。みんな市民を守るために、鍛えざるを得ないのです!

 話を戻すよ?そんな感じで私はずっと「ここが大洪水」「ここは干ばつしすぎ」とかの水の調整をしてたんだけどね?ある時、火山地帯で二日おきに大雨が降るようになったの。

 ううん、私はやってない。【炎を管理する人】とは、そういうところでの雨はやっちゃ駄目ーっていう決まりを作っててね?まぁ溶岩だらけの火山地帯に住む生き物なんて、そもそも水が嫌いな生き物だから。そういう意味でも環境保全とかで降らさないようにしてるの。…なのに降るの…。

 転生者の仕業?ううんないない。物好きの変態とかが水浸しにするのを防ぐためにも、そこら一帯には水系の魔法が封じられるようにしたから。…でも降るんだよぉ。

 おかげで一日中ず~っとカメラで監視してなきゃいけなくて。雨が降り始めたら私の能力で”止まって~”てやれば、一時的には止んでくれるんだけど、気づいたら降ってるからろくに寝れなくて…手伝ってくれてるみんなもピリピリしてるし……クララちゃん!お姉ちゃんを助けて~~~!!



「ぐえ~~!分かったから抱き着くな…いでくださいませ~!!」

「…。」

「…。」

「そんな目で見ないでくださいかしら。」

 もう適当だわこれ。


 ~


 俺とロロは、クラリスさんを外して隣の無人の部屋で相談することにした。

「さ~て、どうすっかなマジで。」

 水系の魔法が封じられてて?【力】で雨が降らないようにされてて?でも雨が降る。

 魔法はこの世界の誰でも使える力。ミミズだってオケラだってモンスターだって使おうと思えば使える。まぁ勉強しないとダメらしいし、寿命を使うなんて聞いたら、ちょっと怖いけどな。

「怒ってないのか?」

 ロロが聞いてきた。…いやなんでだよ。

「まぁ雨降っちゃいけないところに降るってのはまずいかもだけど、俺がそれに怒っても…」

「そうじゃない。【クララ】の姉に会わせた時、君は怒っているようだった。というかなんだあの口調は」

 …そういやそうじゃん。こいつのせいで面倒ごとに…。

「あー…あのなぁ?俺は【クララ】じゃねぇだろ?だからいざ姉に【クララ】の体に変な男の魂が入って好き勝手やってましたなんて知られてみろ。エロ同人も真っ青の打ち首拷問罵詈雑言森羅万象の嵐だぞ。」

「そういうものか?いつも通りでいてくれた方がむしろ都合がいいよ。というかそうしてくれ、さっきのは流石に鳥肌が立った。」

 失礼だなこの野郎。俺だってやりたくてやった訳じゃねぇやい。まぁそういうならせめてメイド口調(雑な敬語モードだけど)で行くか。

「わかりましたご主人様。」

「…。」

 その目やめてくれよ。二人の時は気持ち悪いから禁止?はいはいそうだったな。



「で、どうするか。お前分かる?」

「引き受けるのか…君はお人好しだな。」

「いまさら気づいたか?電撃浴びせてきたやつの旅のお供するやつだぜ俺は。」

「…。まぁそうだね、水魔法が無くても水を出す力を持つものはいる。アメフラシという動物を知っているかい?」

「お前なぁ…そりゃなめくじみたいな見た目のやつで、海にしかいねぇよ。ついでに雨も降らさねぇ。」

「この世界のアメフラシは雨を降らすよ。」

「嘘だろすげぇ…」

「だが、君が言ったように海にしか生息しないのはこちらの世界でも同じだね。じゃあ植物はどうだろうか。」

「植物?植物が雨を降らすってのかよ?」

「いや?水を降らす植物があるのさ。」

「どっちも変わんねぇよ。」

「変わるさ。クラリス女王が雨を”雲から降る水”として定義してたとしよう。そしてそれを【水を操る力】で禁止する。するとその場所には雲が出来ず、雨が降ることは無い。…だが、例えば”地面から勢いよく出た水が天高く上がり、降ってくる”としたら、それは”雨”には含まれないだろう?」

「…そんなめんどくさいもんなのか、【力】とか【魔法】とか。真面目に考えてなかったな。」

「こればっかりは仕方ないよ、転生者なんだから。別の世界の決まりだとか定義を勉強しなおすなんて、自分の中の常識を脳ごと取り替えるみたいなものだ。今でも十分よくやってくれているよ。無理に頑張らなくていいよ。」

「どうした急に」

「…一応言っておきたかったのさ。」



「んじゃあ方針としては、”雨”の定義を変えなおすって感じか?」

 俺達はクラリスさんの部屋の前で話を整理していた。

「まぁそうだね、僕の仮説があってるのかは怪しいところだけど。時間があったら現地に確認しに行くとかでもいいんじゃないかな?」

「こんな暑い時期に熱い場所に行くのは…」

 とか話してると、扉が勢いよく開き

「クララちゃ~~ん!助けて~~~!!!」

「ぎゃ~~~~…です~~~!!」

 クラリスさんが突っ込んできた。

「雨が全然やまないんだよぉ~~~~~~!!!」



 クラリスさんと一緒に火山地帯が映るディスプレイを見る。やかましいくらい土砂降りである。熱せられた地面に叩きつけられた雨が即蒸発するさまはなかなか見られるものじゃなかった。

「えいっ!えいっ!えいぃ!」

 クラリスさんはディスプレイに向かって指を振っている。これで向こう側の水を操れているのかは分からんが、多分今までは操れていたのだろう、体力が減っていっているのかヘロヘロである。

 だが全然止む気配が無かった。

「クラリ…お姉ちゃ…お姉さま…でいいのかな…?お姉さま大丈夫ですか!?」

「お姉ちゃんって言って!!」

「はいお姉ちゃん!?」

 顔怖いよお姉ちゃん。寝ろよ。

「どうでもいいだろう、現地に行こう。」

「そんな簡単に言うな…言わないでください。火山地帯なんてどこにあるのか…。」

「あ、それはいけるよ。」

 クラリスさんが指をカスッと鳴らすと、従者らしき方々がガラガラと台車に乗せられた赤い扉を運んできた。いやいやここでどこぞのロボットの道具かよ…。

「それ、火山地帯行きに繋がってるんだー。お願い!様子見てきて!私暑いの苦手なの!!」

「えー・・・俺も暑いのは」

「行こうかクララ、早い方がいい。」

「ちょ、引っ張んな・・・いでください!」

 熱気の漏れ出す扉を開け、そこに踏み入った。




「雨降っとらんやん」

「なんだいその口調は。」

 雨は降っていなかった。雲もない。いや火山地帯だからか空は薄暗いけど。大丈夫?火山灰降ってこない?

「じゃああのカメラに映っていたのは何だったんだ?」

「・・・クララ、あれを。」




 カメラの近くには、子供たちがいました。

 見覚えのある子供たちでした。

 クソガキ共が、水を空高く打ち上げ、めちゃめちゃ降らせていやがった。

「うぇーい!」

「いえーい!」

「バカ令嬢見てる~!?俺たちの【水を操る力】で、火山地帯を水浸しにしちゃいまーす!これで仕事できないね~!?」

 …。


「なるほど、三人が交代で水を降らすことで、誰かが止められても他の誰かが降らせるということか。」

「ロロ。」

「なんだい。」

「あいつらぶん殴っていいか?」

「いいけど。」

 さっきまでの議論ほぼほぼ無駄じゃねえか。自分まで殴りたくなってきた。

 そんな感じで、馬鹿どもを拘束した。


「見たかったな…水を出す植物…。」

 言っとる場合か。


 ~~~


「「「ごめんなさ~い!」」」

「許しません!!!!」

「ぐす…火山地帯は水不足かもと思って……お姉ちゃんの仕事が減れば…また遊べると思ってぇ…。」

「キュンッ!!!!許します!!!」

「「あほだ…。」」

「カッチーン!三人ともお風呂掃除一週間追加!!それまで遊びは禁…一時間まで!!」

「「「わ~ん!ごめんなさ~~~い!!!」」」


 にお仕置きをしたクラリスさんと俺達は、再び応接室に集まっていた。

「ごめんね~!結局私たちの中で解決できる問題だったのに巻き込んじゃって。」

「いえ、こちらも貴重な体験が出来ました。」

 まぁクソ熱い夏の日にクソ熱い火山地帯に行くなんてギャグマンガの主人公でもないとやらんわな。

「クララちゃんも!!」

「へ?」

「ぎゅーーーー!!!」

「うわわわわわわわわ!?」

 近い!柔らかい!あと全身が湿ってる!!びちゃびちゃなんだけど!ある意味水着でよかった!


「ふふ~。耳まで真っ赤!やっぱりだね!!」


「え゛。」

 ガラスが割れるような幻聴が聞こえる。

 終わった。




「ロロくんから聞いてるよ~!いきなり転生しちゃってびっくりしたよね~!?【悪役令嬢】がどうとか分かんないけど怖かったよね!?お姉ちゃんに甘えて頼っていいからね~!!」


「あの。クラリス女王…。」

「ん~?」

「クララ、聞いていません…」

 やばぁい…どうしよう…中身が男だってバレた…女の、しかも水着まで着て…変態だと思われる…てか妹さんの人生歪めちゃったからやっぱり殺される…あるいは拷問?ギロチンとか焼殺とか三角木馬とか…せめて景色のいいところで殺して…

「ありゃりゃ、これはしばらく駄目かな。」


「怒っていいか?」

「血縁者なら【クララ】に身体を返す手がかりを持ってると思ってこの国に来たんだよ。かわりに向こうの問題を聞くことにもなったんだけどさ。」

「怒っていいか?」

「君がそこまで自分のことを知られて怯えるとは思わなかったんだよ。いや思ってはいたけど、でも僕らにとってから、そんな中途半端な演技したって…あれ、この話言ってなかったっけ?」

「怒る。」

 マジでプライバシーとか知らんのかこやつは。あと聞いてねぇぞそれ。

「あの~、そろそろいいかな?」

 言い合いもほどほどに、クラリスさんに向き直る。

「【クララ】に身体を返す…だったよね。確認なんだけど、君はそれでいいの?」

「はい。」

 その為に旅に同行してるわけだからな。…途中下車出来るとこあったけど。

「戸惑いが無いんだね、怖くないの?もしかしたら向こうの世界では死んじゃってて、元の世界は戻れないかもしれないんだよ?」

「だとしたら尚更です。これ以上【クララ】の未来を、死んだはずの【俺】が歪めるわけにはいきません。【悪役令嬢】でもない以上、クララには幸せになる権利があります。」

 クラリスさんはこちらをじっと見ている。

 怖いわけじゃない、てか俺は今回の旅で滅茶苦茶ビビりだということがよく分かった。

 でも、それじゃ駄目だろ。

「ふぅ…そっか、分かった。じゃあ、よ~く見ててね?」

 クラリスさんはソファから立ち上がり、目の前のテーブルに両手をつく。するとうにょうにょした水の線たちが空中に浮き出てきた。

「私なりに作った占いの一つ。”風水”っていうのを聞いたことがあってね?風は使えないけど、水の部分だけでも占いに使えないかな~ってやってたら出来たの。・・・むむっ!」

 両手をバッと広げると、水のうにょうにょした奴らははじけるように消えた。

「”歌と踊りが大流行している国”っ!!そこに解決手段がある!!キメっ!!」

 そして謎のポーズをとった。口でキメッて言わないほうがいいっすよ。

「じゃあ僕らはそろそろ行こうか。」

「そうだな、マジでなんか疲れたな…いろいろ。」

 ロロが荷物をまとめて立ち上がるので、俺もそれに続く。

「ちょっと待ってぇ!ポーズにツッコんで!!あとせっかくだから泊ってかない!?」

 元気だなこの人、寝れてないんだから寝なよ。

「いや~ほんと最近仕事漬けでさぁ?他の同僚とかお友達とかとも、あと弟たちとも関われてなかったし、お休みいただいて遊びまわったり~、あとクララちゃんも含めて姉妹兄弟団らんみたいな!折角だししたいよね!?」

「えっ、う~ん…。」

 悩む俺に対し、ロロはあまりいい顔をしていない。

「クララ、僕はあまり他人とは過ごしたくな」

「夕飯のデザートはモンブランです!!」

 そこをクラリスさんは即封じる。

「ぜひ泊まらせていただこう。」

「マジかお前!?」

「ほらほら~?クララちゃんも…あぁでも、君は【クララ】じゃないから、もしかしたら失礼だったかな?名前を───」

「いえ、呼ぶときはクララでいいっすよ。」

「…そっかー!じゃあクララちゃんも!私のことお姉ちゃんって言っていいからね!!存分に甘えていいからね!!」

「え、えぇ…クラリスさ」

「お姉ちゃん!!あと今日はクララちゃん抱き枕にしていい!?」

「モンブラン追加で引き受けます。」

「よかろう!!!」

「俺の意志は…?」



 俺はその国での査察の間、慣れるまでひたすら「お姉ちゃん」と言わされながら過ごす羽目になるのだった。

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