悪役令嬢と、一番のおにいさま
空の見えない広々としたショッピングモールのような建物(仮にも異世界なので断言はできない)で、ガキっぽいメイドと大人しい王子様は買い物を楽しんでおりました。
「くっくっく…二刀式冥土流奥義っ!!!」
メイドは悪役みたいな顔で木刀を振り回しておりました。
「建物内でそんなものっ……振り回さないでくれないか!?」
「いや~すまんすまん。でもお土産屋といったらやっぱこれだよな~、修学旅行じゃ買うのは許されなかったし。なんか買ってくれてありがとな?」
「この長旅で買うのはいいのか…?あと、人に見られているからいい加減にしまってくれ。」
「あ~、ごめん。調子乗りすぎた。」
メイドはごそごそと鞄に木刀二本をしまう。
魔法かばんは無限容量。旅の必須アイテムである。
「にしても、こんなクソでかいショッピングモールがあるとはな、遠目だと城かと思ったわ。」
「しょっぴ…?でも確かにそうだね。国でもないのに大きい店があり、食べ物から雑貨、衣類に工具まで揃う。コンビニの拡張版という感じがするね。」
「コンビニは知ってたのか…。」
「国に入らずともそこら中にあるからね。」
そういうことじゃねぇんだけど。とメイドは思った。
「おまけにこの〈えれべーたー〉と〈えすかれーたー〉とやら。縦にも長いこの建物ならではの機構だ。横に並ぶ街の店では到底できない。…いや、横に流れる足場を作るか…?」
王子様はぶつぶつ言っていた。【査察】は他国の情報を大国に持ち帰り、よい国づくりなどの手助けをするための仕事。こういう整理も大事なのだった。
「きゃー!?助けてーー!?」
「!!」
王子様は階下の広いスペースを見た。
黒ずくめの男が、一般市民の女性を強引に掴んでいる。
そして他の客たちは、呑気にそれを見ていた。
「お~、あ~いうのもやってんのね。」
メイドも呑気だった。
「っ!?何を呑気なこと言っているんです!!人が襲われているんですよ!?」
「あー、ってちょお待ちやがれっ!?とりあえず見とけって!!」
駆けだそうとする王子を、メイドはぎりぎり羽交い絞めにする。
「離せ!!あの婦人を助けなければ!!」
「くっ…だからもうちょい…あっ電撃はやめ……」
「みんな!お姉さんが大変だ!!あの名前を呼ぼう!せーの…」
「「「「「「ファスティマーン!!!!!」」」」」」
子供も大人も、見ていたお客さんは全力でその名を呼んだ。
「ハーーーーーッハッハッハッハッハ!!!!!」
まばゆい光と笑い声とともに、その人影はステージの上に現れた。
「うわまぶし…。」
「なんだ…あれは…。」
「この世に光ある限り!!!我が前に悪は成しえない!!!
光の戦士!ファスティマン!!参上!!!!!!!!」
白を基調とした「かっこいい」スーツを着た男性が、ポーズを決めてセリフを叫ぶ。
ステージの上は、人の近くでやったらやばい量の火花が爆発した。
かっこいい男はへでもないような感じだった
そのままかっこいい男は、黒ずくめの男たちと戦いだした。
「なんだ…あれは…。」
王子の目は火花の反射か、きらきらしていた。
「見てわかんねぇか?〈ヒーローショー〉だよ。」
~~~~
ヒーローショーはつつがなく終わった。
「いや~、お前が乱入して滅茶苦茶になってたらやばかったぞ。正義感強いのは良いけど、状況判断はしっかりな?」
「………。」
「ロロ?」
「すまない、失礼する。」
「ちょ、おい!?」
王子様は、ヒーローショーの舞台の控室らしきところに突っ走っていった。
「ちょ。……すいません、すいません!」
メイドも他スタッフをかき分け後を追う。
そして、一つの控室の前まで来た。
「ここに……!」
「ぜぇ・・・・・・何やってんだお前ホント・・・俺のことも考えて・・・」
「行くぞ。」
「え、ちょ」
王子は、勢いよく扉を開けた。
「お兄様!!!!!!」
「はーーーーはっはっはっは!!!来ると思っていたぞ!!我が48番目の弟!!ロロ!!」
王子より背が高く、それでいてどことなく王子に似ている、齢18程のの銀髪のイケメンがそこにいた。
そして声がクソでかかった。
「お兄様…?」
メイドだけが、この状況を完全に理解できなかった。
~~~
「改めて。我が名は【光を操る者】にして第一王子、イチヤ・ディアメル!!!!!大国王第一子にして、誇り高き魔導士ミリーの息子である!!!」
「うるっさ…」
テンション高いときの音圧は兄弟で共通のようだった。
「君の名は?」
「あぁ、俺はクララって言います。色々あって、こいつ…じゃなくて、ロロ様のお世話をさせていただいております。」
「はっはっは!!!そう取り繕わずともよい。ロロから結構聞いている。転生者の元男にして、自称【悪役令嬢】らしいではないか!母上が聞いたら「属性過多だな、つれてこいしばいてやる」ぐらいは言うだろう!!!!」
「うへ~、怖。」
メイドは見知らぬ魔導士の人妻に身震いした。
「ところで、イチ
「そこのメイドが言っていたろう!ヒーローショーだ!!」
二階分も離れてたのに聞こえたのかよ。メイドは戦慄した。
「そうではなく…!」
「あぁ、心配せずともよい!すでに我は国を治めている!3つも!!だから大国には報告するな!そしてこれからも旅をしながらどんどん治める!!!」
「そう…ですか……イチ兄様はやはり凄い…」
沈黙が続く
「…じゃ、俺から質問」
「な!ん!だ!!!」
「…第一王子なのに、こんな大国から離れてるのは、やっぱ査察ですか?国を治めるなんて、俺らやってないから…。」
「はーっはっは!!【査察】は我の行動にビビり散らかした父上の後付けよ!!我は自分で家を飛び出したのだ!!」
「なんだって??」
「我らの父親はいささかクズでな!!
しまったって…。メイドは少し呆れたが。
「その点だけは…我は申し訳なく思っている。王子全てが我のような人間ではないからな。」
そういって
~~~~
/side C
「午後5時からは〈海賊ファウストの爆☆日常〉だ!!ぜひ見に来てくれたまえ!!!」
イチヤは手をぶんぶん降っていた。あれで第一王子か?いや、あれが第一王子なんだな。
「どうだった、イチ兄様は。」
「なんつーか…すごかったな?」
「だろう!?すごいだろう!!!兄弟みんなの憧れだ!!!!!」
ロロは興奮気味だった。ブラコンだった。まぁ尊敬する気持ちは分かるが。
「にしても、第1王子に、第48王子か。接点はなさそうだけど。」
「僕の母と、兄様の母親は仲が良いほうだったんだ。それで気にかけてくれていた。」
「へぇ~そういう。あの兄貴の母親って、どんな人だったんだ?」
「知らない。」
「へ?」
「正しくは、会ったことが無い。」
「…。」
「イチ兄様の母親のミリー様は、イチ兄様ひとりを生んで育ててから、ほかの兄弟を生むことなく亡くなった。…それから、大国王も少しおかしくなった。」
…。
まだ、俺が介入していい事じゃない。
だから、せめて。
「なぁロロ。」
「…なんだい?」
「ゲーセンって知ってるか?」
俺はそこに指をさす。
「あのキラキラしているところか?」
「そう!ボコボコにしてやるから来いよ!結構楽しいぜ!」
「ふふ、前世知識でチートというやつかい?転生者の強さを見せてくれ!」
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