第19話 これはどうだ? それともこれかぁ?
「はいはい。この話しはおしまい。んじゃ、折角だし歌うか?」
「カラオケ初デビューで、この人数の前で歌えってか? 秀一はいつだって鬼畜だな」
「おう。じゃあ、デュエットなんてどうだ?」
「秀一と?」
「んなわけあるかよ。なんで折角、こんだけクラスメイトがいて──」
秀一は苦笑いだ。クラスメイトはこれだけいるが、友人はお前しかいないことは知っているだろうに。
「なんだ、霧山デュエットしたいのか? 私がしてやろうか?」
なんとことを思っていたら佐々木が現れた。にんまりと笑いながらそんな提案をしてくる。
「結構だ」
佐々木だから断るわけではない。相手が誰であろうが断るつもりだった。秀一も含めて。
「ふーん、そうか。やっぱり、ユイが良かったか?」
「……それこそあり得ないな。というか、なんでそこで伊佐凪が出てくる」
「んー? まぁ私の目から見ると、お前たちからは甘酸っぱいエアーを感じるからな。お節介焼きの幹事としては、この打ち上げで素晴らしき青春の一ページにしてやりたくてな」
「ないな」
「そうか? ほれ、あっち見てみ?」
「ん?」
佐々木につられて視線を動かすと、伊佐凪と目が合った。が、すぐに伊佐凪は目を逸らす。
「なははは、ユイ可愛いだろー? もしかしたらユイの方も一緒に歌いたいと思っているのかもな?」
「……それこそないな」
「ふーん。ま、いいけど。別に私だってカップル作ってマージン取るようなバイトしてるわけじゃないし。ただ、霧山みたいに捻くれてて、素直じゃないヤツ見るとちょっかい出したくなっちゃうだけ」
そんなバイトがあったら結構な時給になりそうだな、と一瞬思ってしまったのは内緒だ。
「良い趣味してるな」
代わりに俺は嫌味たっぷりにそう言ってやる。
「あぁ、だろ?」
佐々木はそれすらも笑いながら、そう返してくる。随分と男前なこって。
「まぁ、とにかく俺は歌など──」
「ん」
佐々木がニヤリと笑いながら指を差す。イヤな予感を感じながら視線を向けると──。
「アイツ」
秀一がカーストトップ集団の中に混ざっていた。というか伊佐凪に話しかけていた。
「おや、戦利品をゲットしてきたようだな」
「……」
ニコニコとこっちに向かってくる秀一の右手にはタブレット。そしてその後ろには伊佐凪。
「はい真司。
誰もご所望などしていない。睨んでも無駄な相手ではあるが、一応睨んでおく。やはり秀一の笑顔は何一つ変わらなかった。そして隣に座る佐々木も同じ笑みを浮かべていた。こいつら……。
「あの、私でいいんでしょうか。その、霧山くんのカラオケデビューのお相手……」
眩暈がする。なんだそのカラオケデビューのお相手って。俺は確かにカラオケに行ったことはないが、カラオケデビューなんてグループで行っても一人でするものだろう。そんなデビューはデュエットみたいな文化は存在しないだろ。
「あのな、伊佐凪──」
「よしっ、霧山。私が選曲してやる。光栄に思え」
「ふざけんな」
断ろうとしたところを佐々木にガシッと肩を組まれ、タブレットを目の前でポチポチされる。
「んー? これはどうだ? それともこれかぁ? んー?」
「おい、秀一。佐々木は酒でも飲んでるのか?」
「ヤダなー。僕らこれでも進学校の生徒だよ? そんなことするわけないじゃんー」
だとしたらシラフでこれか。絡み方がオヤジだ。
「おい、霧山聞いてるのか? これはどうだって私は聞いたんだ」
「……知らん」
「これ」「知らん」
「これ」「知らん」
「これ」「………………知らん」
「はい、ダウト。これか。えっらい古い曲だが、まぁランキングに載ってるくらいだからみんな知ってるか。ユイ、これ歌える?」
「え、うん、まぁ」
「よーし。ほいっと」
「あ」
佐々木がタブレットを向けた先、大型のモニターには予約が完了しましたの一文が流れた。
「ちょ、お前本当に入れやがったな。つーか、ちょっと待て。確かに知ってはいるが、歌ったことはない」
「ダハハハ霧山、何を当たり前なことを、お前カラオケ初めてなんだから歌ったことないに決まってるだろ。勉強はできても意外とバカなのか?」
この佐々木とかいう暴君をどうしてくれようか。
「つーか本気で勘弁してくれ。俺は注目されるのとかあんまり好きじゃないんだよ」
とは言っても逆らうと余計に油を注ぐことになりかねないため、下手に出てみる。
「おいおい、そんなふてぶてしい目つきと図体で何を言ってるんだい? 冗談は神谷とのBLだけにしといてくれよ」
「アハハハ、佐々木さんナイスッ」
おい、秀一ナイスじゃねぇよ。お前も怒るところだろうが。つーか、さっきまで俺との友情について語ってたじゃねぇか。なに佐々木と一緒になって──。
「ん? 次誰だー。これ入れたのー」
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