第22話 ピンポーン、はい
そして日曜──。
ピンポーン。
「んー」
ガチャ。
「霧山おはよー。ユイと神谷は?」
最初に到着したのは佐々木だ。キャップを被って、Tシャツとハーフパンツにサンダルという滅茶苦茶ラフな格好で現れる。
「まだだな」
「そうか、じゃあ一番乗りか、っと。おっじゃまー」
「リビングで大人しく座っててくれ」
「ほー。結構広くて、綺麗な家だな。男子の一人暮らしなんてもっとゴチャとしてて、引くくらい汚い惨状が広がっているイメージだが、まぁ霧山はイメージ通りキチっとしているな。あと、物が少ないのもまんまだ」
リビングへ通すと、ほー、とかへー、とか言いながらしげしげとチェックしてくる。
「飲み物は? ウチは水と牛乳とコーヒーしかない」
「あ、いいよ。ペットボトルのお茶持ってきたから」
「そか」
佐々木はリビングのクッションに座ると、リュックからペットボトルを取り出して、ゴクゴク飲み始める。
「あいにく暇を潰せるようなものはないから、退屈しててくれ」
「あぁ」
こちらを見ずに返事をする佐々木は既にうつぶせになっており、ゴロゴロしながらスマホをイジっていた。
「お前、ホント強いな」
「ん? なにがソシャゲの話し?」
「ちげーよ」
特に仲の良くもない男友達の家に初めて来て、ここまでくつろげるとか佐々木の神経がどうなっているのか気になった。
ピンポーン。
「はーい」
応えたのは俺ではなく佐々木だ。
「…………」
「ん? いや、ピンポンなったらとりあえず返事したくなるだろ?」
インターホンに応対するわけでもなく、寝転びながら返事をしただけの佐々木。悪びれもせずそんな主張をしてくる。同意はしてやらない。佐々木のことは無視し、インターホンを見て、扉を開ける。
「うーす。真司、っはよー」
「あぁ、助かった秀一」
「?」
「ま、とにかく入ってくれ」
訝し気な顔をする秀一をさっさと家に中に入れる。お前の役目は、あの佐々木のツッコミ役だ。
「佐々木さん、ちーす」
「あぁ、神谷、ちーす」
「随分くつろいでるねー」
「あぁ、まるで初めて来たとは思えないくらいな居心地の良さだ」
「分かるー。真司の家ってなんか居心地良いんだよなぁ」
そして、秀一はいつものポジションに座り、テーブルに突っ伏しながら佐々木とだべり始める。
「でも意外だな、ユイが遅れるなんて」
集合時間の二分前に来たのが佐々木。集合時間ピッタリに来たのが秀一。伊佐凪はまだ来ていない。これには理由がある。
「そだねー、意外だね、道にでも迷ってるのかねぇ」
伊佐凪がお隣さんであることを秀一は知っているので、迷っているわけがないと分かってて、いけしゃあしゃあと言っている。では、なぜ伊佐凪が遅れているか。それは万が一、隣の部屋から伊佐凪が出てくるところを佐々木に見られたら面倒なため、佐々木と秀一が来てから来るように打ち合わせをしているのだ。
俺は、キッチンの影に隠れて素早くラインを打つ。
『来ていいぞ』
『了解っ』
伊佐凪もラインを開いて待っていたのであろう。送ったと同時に既読になり返信が来る。犬のスタンプ付きだ。ここまでは作戦通り。
「んじゃ、私、ちょっと近くウロウロして、ユイを見つけに行ってこよっかなー」
「!? 佐々木っ、良く考えろ。入れ違いになったら面倒だろ。大体こういう時は、探しにいったやつが迷子になって余計なロスに繋がる。大人しく待っておけ。もしくはラインで伊佐凪に確認してみるとかどうだ」
少しだけ早口になってしまった。
「ん? あー、まぁそりゃそっか。えーと、ユイ、ユイ、いた。『どうした? 迷ってる? 大丈夫か?』と」
ふー。クソっ。なんで俺がこんな変なストレスを感じなければいけないんだ。二年に上がってから自分のペースが乱されまくっている気がする。
ピンポーン。
(よしっ)
「「はーい」」
インターホンに応えたのは、佐々木と秀一であった。
「…………お前もか」
呆れた目で友人の顔を見る。
「ん? ピンポン鳴って返事しないやつとかいないだろ?」
「あぁ、神谷、返事しないヤツなどいるだろうか、いやいない」
「うるせーなぁ」
秀一が来ても佐々木のめんどくささは変わらなかった。むしろ秀一が乗っかる分、何割か増しだ。したり顔の二人は放っておき、玄関を開ける。
「あ、霧山くん、こんにちは」
伊佐凪は夏っぽい色合いのノースリーブのシャツと、ロングスカートだ。
明日も午前中に一話、夕方~夜にもう一話更新します!
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