第23話 霧山くんもそりゃ吹き出す
「あぁ、いらっしゃい。どうぞ」
「はい、お邪魔します」
短い廊下を歩き、リビングへと通す。
「あ、神谷くん、サキちゃん、こんにちは。遅くなってごめんなさい」
「んー、大丈夫よ。ラインしたけど、気にしないでー」
「え、あ、ごめんね」
すぐにスマホを確認する伊佐凪。
「あ、うん。ちょっとだけ迷っちゃって」
伊佐凪は申し訳なさそうな顔で自然な嘘を吐く。
「そっか。この炎天下に迷うなんて大変だったしょー、ん? それにしてはユイ、全然汗かいてないね」
佐々木のその発言で代わりに俺が少しだけイヤな汗を掻いた。
「え。あ、うん。玄関の前でタオルで拭いたから」
「ふーん。えいっ」
「キャッ」
佐々木が伊佐凪のノースリーブでむき出しの両肩をぐわしっと掴む。
「サラサラでひんやりしているけど……? まるで、直前までクーラーに当たってたかのような」
佐々木こいつは一体何なんだ? 探偵なのか?
「か……」
「か?」
「買い出し、いこ?」
伊佐凪は今のやり取りの全てを無視するという暴挙に出た。俺は天を仰ぐ。何の言い訳も思いつかなかったのだろう。秀一はと言えば、この状況を非常に楽しそうにニヤニヤ眺めるばかりだ。助け舟を出すつもりはないらしい。
「ふーーーーーーーーーーん。ま、いいけど。そ、ね。買い出し行こっか」
「うん、うんっ」
ジト目の佐々木と、まさか誤魔化せたとでも思っているのか伊佐凪がホッとしたような顔で頷く。
「んじゃ、行くか」
俺はもうどうでも良くなり、粛々と今日のスケジュールをこなすことだけに意識を集中した。
「サキちゃーん、そっちじゃないよ?」
「ん? あぁ、すまない。暑さのせいか少しボケた。さ、行こうか」
俺の部屋から出たところで、エントランスとは反対に歩く佐々木を伊佐凪が呼び戻した。一体何をやってるんだか。
やってきたのは近くのスーパーだ。
「いやー、なんかこうやってみんなで買い出しするって青春っぽいよなー」
「あぁ、男女四人で密会を企てるとか、青春そのものだ」
秀一はさておき、佐々木の言い方はどうにかならないものか。
「んじゃ、材料ぱっぱと買っていくかー。お、真司カートさんきゅー。タコ焼きの材料、タコ焼きの材料っと」
事前の打ち合わせで今日はタコ焼きパーティーとなったのだ。ちなみにタコ焼き器など持っていなかったが、伊佐凪が持っているとのことで、借りることとなった。
「はい、霧山くん」
「んー」
俺がカートを押していると、伊佐凪が必要な食材をドンドン渡してくる。
「すごいねユイ。まるで
迷いなく食材を取ってきている伊佐凪を見て、佐々木が目を丸くする。
「えっ!? いや、だって、スーパーなんてどこも同じような感じじゃない? それに、ほら、どこに何があるか書いてあるしっ」
伊佐凪は天井からぶら下がってる案内を指さしながら誤魔化そうとしている。俺は半分諦めている。もう佐々木の中では俺と伊佐凪がかなりご近所さんであるところまでは確信しているだろう。
俺としては最悪お隣さんであるということがバレなければそれでいい。そこだけを死守できればいいと思っている。
「で、タコ焼きの具はタコでだけでいいのか」
俺は投げやりな感じで買い物を進めようとする。
「んー、キムチだろぉー、チーズだろぉー、めんたいにぃー、餅にぃー、……くらいか?」
秀一がそう言うと、伊佐凪が逃げるように、取ってきますっと離れていった。
「……なぁ、霧山。私の予想を言っていいか?」
伊佐凪が去ったのを見計らって佐々木が肩を組んでくる。身長差が大分あるため、かなり無理やりだ。そして耳元に顔を寄せてくる。予想、というのは恐らく伊佐凪に関してだろう。
「お前、ユイと同棲しているだろ」
「ブッ」
予想外の発言につい吹き出してしまった。
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