第21話 成績発表

 そして打ち上げが終わり、日常が戻ってきて数日。期末テストの成績上位者が張り出される日だ。放課後直前に張り出されるため、今日一日は伊佐凪の緊張感が伝わってくるせいか、俺も気持ちが落ち着かなかった。


「で、だ。心の準備はできたか」


「う、うん」


 放課後、掲示板の前に向かう。顔を上げれば結果は見える。20位からゆっくりと上を見ていく。


 第五位──清水亜美


 第四位──近藤達也


 第三位──雨宮良太


 そして──。


「「…………」」


 第一位──伊佐凪結衣  第一位──霧山真司


 俺と伊佐凪は全教科満点ではなかったが、同点での一位であった。


「や……」


「や?」


「やったぁぁっ、やったよっ、霧山くんっ!! 一緒に一番だよっ!!」


 近くにいた他の生徒が一斉にこちらを向く。


「お、おう。伊佐凪、はしゃぐのはいいが、ここ校内だから落ち着け。手も放せ。でも、とりあえずおめでとう」


 俺の手を取ってブンブンと振りながらはしゃぐ伊佐凪。こっちをチラチラ見て、ざわざわする生徒たちを本気で睨んでおく。サッと明後日の方向を見て、散っていった。


「うんっ……、嬉しい。ありがとう」


 さっきまで喜んでいたと思ったら、次の瞬間に伊佐凪は泣いていた。喜怒哀楽の振り切り方がいっそ羨ましいくらいだ。


「へー。ユイすごいじゃん。これで実力は互角だね。フュージョンできるね」


 つかつかと佐々木がやってきて、上位成績者を見ながら、ついこの前のドラゴンボー〇の話しになぞらえる。


「おぉー、伊佐凪さんおめでとう。良かったねー。あ、佐々木さんも今回十七位じゃん、おめでとう」


 ことテストという意味では圧倒的差でヤ〇チャに負けているクリ〇ンもやってきた。


「サキちゃんもおめでとうっ」


「ま、上出来でしょ」


「そうだな、佐々木もおめでとう」


「あんがと、霧山は流石だね」


 佐々木に肩をポンッと叩かれる。いちいち強キャラ感を出すヤツだ。


「んじゃ、伊佐凪さんが初めて一位取れた記念と、真司が意地でも一位からは下りない記念と、佐々木さんが十七位になった記念と、俺が多分百位くらいにいる記念として、お祝いしよっか」


「お、いーねー。どこでする? また、カラオケか?」


 秀一の提案に速攻で乗っかったのは佐々木だ。


「却下。もうカラオケは暫くいい」


「そうだね、カラオケは私もちょっといいかな……」


 俺としても伊佐凪としてもカラオケは暫くお腹いっぱいという認識で合意している。


「んじゃ、真司の家は? あ、ちなみに真司の家は一人暮らしね」


「はいはーいっ! さんせー! 一人暮らしの友達の家とか行ってみたかったんだよねー」


 カラオケの代替案としてウチが提供された。佐々木の目がガチで怖い。


「……ま、いいけど」


「いいのっ!?」


 いや、なんで伊佐凪が驚くんだよ。まぁどうせ佐々木が言い出したら、聞かないだろうし。そして人の目があるところで騒ぐよりは、隔離された場所で好き勝手やってもらう方が精神的な負担は少ない。


「いやぁ、真司も丸くなったなぁ。家に女友達を何度も呼べるようになるなんて」


「ん? なんだ、霧山の家に行ったことのある女子が他にいたのか?」


「……さぁ」


 とぼけながら秀一を睨んでおく。俺の攻撃方法が睨むしかないため、その効果が効かない秀一には別の攻撃方法を考えておかねばなるまい。


「あぅ」


 そして伊佐凪お前ふざけんな。佐々木にバレるから、頼むから普通にしていてくれ。


「ふーーん。ま、いいけどぉー。じゃあお祝い楽しみにしてるねー」


 ジト目で俺と伊佐凪を見てくる佐々木。秀一には伊佐凪のことを隠していたことを申し訳なく思うが、お前には思わないからな。


「んじゃ、今週の日曜ね」


 秀一のその言葉に全員が頷く。


「あ、そう言えば霧山んちってどこ」


「住所送るわ」


「さんきゅー」


 クラスのライングループから佐々木を見つけ、住所を送信する。


「流出と悪用はすんなよ?」


「ユイの住所ならまだしも、霧山の住所になんの価値があるってーの? ふーん、学校から近いんだね。んじゃ、神谷もユイも駅集合でいい?」


「あ、俺チャリで行くから現地でー」


「私は歩きで……」


「りょ。ん? 歩きってユイんちって近いっけ?」


「え、うん。まぁまぁ?」


「ん? てか、ユイには住所送ってないよね? ユイ、霧山んちがどこか知ってたの?」


「えっ!? し、知らないよ? いや、ほら私んち学校まで歩きで行ける距離だから、学校から近いなら歩きで行けるかなって?」


 伊佐凪はあわあわと慌てて、弁明する。佐々木のジト目は止まらない。


「ふーーーーん。ま、いいけど。じゃあみんな霧山んち集合で」


 伊佐凪の抜けっぷりと、佐々木の勘の良さは混ぜるな危険だ。俺はいつか伊佐凪からボロが出てしまうのではないかという予感を抱いてしまうのであった。


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