第04話 グゥー
「ぐすっ、ありがとうございますぅ」
「ん」
ガチャガチャと鍵を開け、扉を開ける。伊佐凪を先に入れ、扉を閉める。鍵は閉めない。なぜなら変な誤解をされたくないし、一秒でも早く出て行って欲しいからだ。
「そこ座ってて」
リビングにある客用クッションに座らせ、コーヒーを淹れる。
「…………」
気まずい時間だ。お湯が沸いたのを確認して、ドリップコーヒーを落とし、冷蔵庫から牛乳を出してテーブルに置く。
「ウチにシュガースティックないから我慢して。牛乳入れるなら入れてくれ」
「ありがとうございます」
伊佐凪は少し落ち着いてきたようで、マグカップに牛乳をジャブジャブ混ぜて、チビチビと飲み始めた。
「俺は伊佐凪と話したことないし、一年の時は別のクラスだったからイメージもクソもないんだけど、こんなめんどくさいヤツだったんだな」
「あぅ、重ね重ねご迷惑をお掛けして、すみません」
今日だけで何度聞いたか分からない伊佐凪からの謝罪。
「もういいよ。伊佐凪が何か知らんが頑固なのは分かった。聞きたいこと、言いたいことは全部聞く。全部終わったら、帰ってそこからは他人。おーけー?」
「の、のー」
ヤダ、この子。どうしよう。マグカップに口をつけながら上目遣いで、こんなこと言うなんて。今すぐ放り出したくなっちゃうじゃない。
俺は、すごく寛大な案を出したのに、断ってきた伊佐凪に対し、イライラしてしまいつい心の中でオネェ言葉になってしまう。他意はない。
「分かった。まず聞く。俺史上最高に面倒くさいことになっていると感じているが、伊佐凪の話しを聞こう。さぁ言え」
「霧山くんありがとう。あの、どうしたら霧山くんみたいに堂々とできますか」
「知らん。はい、次の質問どうぞー」
「ちょちょちょちょ、どうしても教えて欲しいです、センセイっ」
「おい、俺はいつから伊佐凪の先生になったんだ。お前、俺が時給五千円のカテキョと知っての発言か?」
「え。霧山くん、バイトって家庭教師なんだ。そうだよね、すごく成績良いもんね」
口が滑った。別に言わなくていい情報まで言ってしまった。
「ま、それはどうでもいいとして。先生呼びはやめてくれ」
「あ、うん。ごめんなさい。でも、霧山くんって今日私と話すの初めてでしょ? なのに、その気持ち悪いとか、正直に思ったことを相手に直接言えてて、すごいなって」
一歩間違えれば嫌味にも聞こえる言葉を口にする伊佐凪。
「じゃあ伊佐凪は、自分が不愉快に思った相手に対して、それを伝えずに笑顔で接し続けるのか?」
「……うん。私は多分言えないし、それなりに愛想良く接しちゃうと思う」
「ま、そこに気持ち悪さを感じるか、感じないかじゃないか? 俺はそれを気持ち悪く思っているから、できるだけそうしたくないだけ。つっても別にあえて人に攻撃的な言葉をぶつけてるわけじゃないぞ? 今回は、伊佐凪が食い下がってきたからだ」
「分かってる。霧山くんから攻撃されたとは思っていないから」
「そうか」
そう言って俺は自分用に入れたコーヒーを一口飲む。これで解決したのだろうか。
「その、気持ち悪いって思っても、それを口にすることが怖いって思ったらどうするの?」
「怖い? 誰かにキモイって言うことが?」
「う、うん。キモイっていうか、気持ち悪いってね? キモイってちょっと違うと思うんだ」
後半ゴニョゴニョ何か言っているが、無視して目を閉じて、考えてみる。
「まぁ、なんとなく想像はできるな。で、そうなったらどうするかって、やることは変わらないだろ。言うか、言わないかを自分の意思で決めるだけだ」
「はぇー」
伊佐凪は口をポカンと空け、目を丸くしている。学園一の美少女のこんなアホ面はかなりレアだろうな。
「で、あとは?」
「そんな霧山くんが人付き合いが苦手な理由を教えて下さいっ!」
「浅い関係になんの価値も感じないから」
「じゃ、じゃあ女の子が特に苦手な理由は!?」
「ノーコメント」
「あぅ。じゃあ、じゃあ──」
グゥー。
「「…………」」
一応言っておくが、俺ではない。とすれば目の前のコイツだろう。
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