第17話 チャラ松山
秀一はシレっとした顔で、当然のように打ち上げに参加にしといたからと言った。
「は? 聞いてないが?」
「は? 言ってないが?」
秀一としばし睨み合う。一瞬、打ち上げのことで何か意思表示をしたか思い返すが、そもそもクラスラインでは一度も発言したことはないし、秀一ともこの話しはしていない。ならば、秀一の独断ということになると思うのだが、なぜコイツはこんなにも強気なんだ?
「そ、そうなんだっ。じゃあ、霧山くん、神谷くん、打ち上げ会場まで一緒に──」
伊佐凪は伊佐凪で困ったような顔で、俺たちと会場まで行こうと誘ってくる。まぁ今回は伊佐凪も佐々木によってドナドナされる仲間なので、同情を禁じ得ない。
「なぁなぁ、ユイ。打ち上げ行くなら俺たちと一緒に行こうぜー」
そんな場面に割って入ってきたのは松山だ。うちのクラスに数人いる陽キャ、チャラ男グループのリーダー。
「あ、松山くん。ゴメンね。えと他に行く人がいて──」
伊佐凪の猫かぶりモードというか優等生モードが発動しているのが分かる。
(人気者も大変だな)
俺は、他人事のようにそれを見ていた。
「あ、神谷と霧山? いいじゃん、一緒に行こうぜ」
「え、あ、……」
チラリと俺と秀一の方を見てくる伊佐凪。
「あー、俺は秀一と二人で行くからいいよ。伊佐凪は松山たちと行ったら?」
最初から言っているが、俺は人付き合いが苦手だし、もっと言ってしまえば人付き合いが嫌いだ。特に松山みたいなチャラチャラしてウェーイってやってるヤツとは嚙み合わないから極力近付きたくない。
「え、そう? じゃあ悪いね。なんか取っちゃったみたいで」
やはり不快だ。言語化するのは難しいが、このやり取りの中で既に何回か松山に対して苛立ちを覚えてしまう。
「いやいや、キミたち勝手すぎるでしょー。伊佐凪さんの意見を無視して、何伊佐凪さんの行動決めちゃってるの? キミたちは大名かなんかか?」
秀一が俺と松山に対して容赦のない言葉を浴びせてくる。確かに秀一の言う通りだ。例えはよく分からないが。
「……そうだな、伊佐凪すまない」
「ま、そうな。ユイの気持ち聞いてなかったもんな。で、ユイどうするん?」
(なんで、さっきからコイツナチュラルに下の名前呼び捨てなんだ?)
親しみや仲が良い上での呼び方ならまだしも俺にはどうしても一方的な支配のような雰囲気を感じてしまう。またしても不快ポイントが溜まった。
「あの、ごめんなさい。やっぱり私、先に声を掛けた霧山くんと神谷くんと行くね」
「そ。ま、いいけど。じゃあユイまた会場でな」
松山は一瞬、俺と秀一を値踏みするような目で見てきたが、それ以上は食い下がることなく去って行った。
「二人ともゴメンね? それで、一緒に行ってくれるかな……?」
「いいともーっ。って知らない? 俺が子供の頃のテレビでやってたさー」
秀一は某お昼の番組であった掛け声で応える。よく覚えていたな。まぁでもそういうことなら一緒に──。
「って、いや、ちょっと待て。あたかも伊佐凪と行くか、別で行くかみたいな選択になっているが、そもそも俺は打ち上げ自体に行くとは言って──」
「あぁ、もうめんどくさいなぁ、真司は。ほら、高校二年生にもなったんだから、社会の付き合いというものを学ぶ機会だ。ほれ、数時間我慢して愛想笑いして、手拍子叩いて、空気に耐えきれなくなったらジュースをチビチビ飲む。そうやって大人になっていくんだよ」
すごくイヤな社会勉強の時間だな、と心の底から思ってしまった。
「……ハァ。まぁ行くか」
「そ。真司はなんだかんだ言って社交性高いからな」
「うるせー。さっさと行くぞ」
「あの……」
「ん、何してんだ伊佐凪。お前も強制参加だろ?」
「あ、はいっ。ありがとうございます」
「ハァ、やーね真司さん、その亭主関白みたいな言葉を尽くさずついてこい、みたいな?」
「……」
秀一がため息をつく。俺の方がため息をつきたい。だから人付き合いは苦手なんだ。
「まぁまぁ。私は大丈夫だからっ」
にへっと笑う伊佐凪。
「ほれ真司、こんないたいけな伊佐凪さんに何か言うことはないのか?」
「……すまん」
「いえいえ」
「いや、なんか違う気がするけど、まぁいっか」
そんな話をしていたらいつの間にか教室には俺たちしか残っていなかった。というわけで三人で会場に向かうことになったわけだが。
「でね、真司ったらさー」
「へー。そんなことが、霧山くんらしいですね」
二人が俺を挟んで楽しそうに喋りながら歩いていた。俺が歩く速度をゆっくりにすれば、二人もゆっくりになり、速く歩けば、袖を二人からピッと掴まれる。
「いや、歩道も狭いから、三人が横並びだと迷惑だろ」
「誰もいないぞー?」
秀一が後ろを確認してそう言う。
「……誰か来たら、だ」
「そん時は誰かがズレればいいでしょ」
「……いや、というか俺を挟んで会話するな。俺はお前らの後ろをついていくから」
「いや、お前こうしなきゃ、喋らないじゃん」
「うんうん」
秀一と伊佐凪が通じ合ってるかのように頷き合う。
「別に喋らなくて良くない?」
「「良くない」」
良くないらしい。
「分かった。じゃあテストの振り返りでも──」
「そうだ、カラオケ行ったら何歌うか考えていこうぜー」
「いいですね」
テストの話題は完全にスルーされた。いや、じゃあもうお前ら二人で話せよ。俺はカラオケとか──。
「そう言えば、霧山くんはカラオケってよく行くんですか?」
「……初だ」
「あ、そうなんですね」
「ちなみに俺は何回もあるっ! サッカー部の打ち上げとかで稀によく行く!」
「うん、神谷くんはありそう」
俺はなさそうだと言いたいのか伊佐凪。まぁ実際ないし、なさそうであるのは認めるところではあるが。
「伊佐凪はあるのか?」
「うん、何回かあるよ。あんまり得意じゃないけど」
「そうか」
まぁ、カラオケ行ったことのない俺がこれ以上、話しを広げられるわけもなく、結局、秀一と伊佐凪の間に挟まれて、会話をBGM代わりに歩くのであった。
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