第18話 秀一はイケメン

「はーい、ユイに霧山に神谷いらっしゃいー。あんたたちで最後だから飲み物取りに行ってきて、ドリンクバーあっちね。入れたらすぐに帰ってくること、乾杯するからっ。はい、じゃいったいった」


 会場に着き、案内された部屋に入ると佐々木が待ち構えていた。俺たちは急かされるままにドリンクバーへと向かったわけだが。


「えと、霧山くん、ドリンクバーの入れ方は……」


「いや、流石に分かる」


「そっか。ごめんね? あっ、先にこっちで氷を」


「……俺は氷は後入れ派だ」


「そ、そっか。ごめんね? でも、飛び散っちゃうかなって」


「伊佐凪がそこまで言うなら、氷を先に入れてもいいけど」


「うん? ありがと?」


 俺がドリンクバーでモタモタしていたら、伊佐凪にグラスを渡される。いや、なんでそんな分かりにくい場所にしまってあるんだよ。つーか、飲み物のボタン押したら、氷も一緒に落ちてこいよ。なんで氷が別の機械なんだよ。


「おーい、イチャイチャしていると佐々木に怒られるぞー」


「してない」


「……してない、かな」


 おい、なんでそこで疑問形なんだよ。


「はいはい。じゃあほれ、クラスのみんなにただでさえ、伊佐凪さんをかっさらった二人組ってヘイト買ってるんだから急いだ、急いだ」


 秀一にまで急かされ、なんとか入れることに成功したウーロン茶を片手に三人で戻る。入口には鬼の形相をして、つま先をタンタンと打ちながら仁王立ちしている羅刹がいた。


「おそーーーーいっ!! ドリンクバーなんて、氷ガシャガシャ入れて、ボタン押して、持ってくるだけでしょうが!! 言い足りないけどみんなを待たせているから乾杯するからっ!! 和田ぁ!!」


「ご紹介に預かりました和田ですっ。いぇぇぇえええ!!」


 怒り心頭の佐々木からバトンが渡ったのは、いつぞやの席替えの時の和田だ。こいつはいわゆるムードメーカーというか、お調子ものだということがこの一学期の中で分かった。今も芸人のようなテンションで叫んでいる。


「みんな、期末テストお疲れぇぇぇ!! 今日は、頭からっぽにして、歌って、騒いで、はじけまくるぞぉぉ!! んじゃ、カンパァァイ!!」


「「「「「乾杯っ」」」」


 クラスメイトたちも和田のテンションに笑いながらそれぞれのグラスを打ち合い、飲み始めたり、ピザやらポテトやらのオードブルを食べ始める。


「はい、霧山くん、神谷くん乾杯」


「あぁ、伊佐凪もテストお疲れ」


「お疲れちゃん、乾杯」


 三人でグラスをぶつけ合う。


「んじゃ、俺なんか食うもん取ってくるから、待っててー」


「あぁ、秀一、一緒に──」


「え、お前マジ? 三人で固まってたのに、二人でメシ取り入って、一人残していくとかエアーリーディング力をどこに置き忘れてきたんだ?」


 エアーリーディング力。空気を読む力とでも言いたいのか。


「あ、私のことなら気にしないで大丈夫だよ」


 わたわたと手を振り、愛想笑いを見せる伊佐凪。


「あ、ユイちゃーん、こっち来て話そー」


「あ、うん……」


 と言ってる間に伊佐凪はいつもの女子グループに誘われて移動していった。そこには先ほどの松山たちの男子グループも合流している。つまり、あれがこのクラスのカーストトップの集団というわけだ。


「ありゃー伊佐凪取られちゃったね? ほい、メシ」


「別に伊佐凪の自由だろ。さんきゅ」


 もしゃもしゃポテトを頬張る秀一を見て改めて思う。こいつは見た目もイケメンだし、サッカー部ではエースだし、コミュ力もすごい。間違いなく俺と関わらなければカーストトップだっただろう。松山なんか目じゃない筈だ。


「なぁ、秀一。お前はあぁいうの興味ないのか?」


 わちゃわちゃと盛り上がって、いわゆる青春しているカーストトップの集団を見て、そんなことを聞く。


「んー。ないかな。まぁ否定するつもりはないんだけどさ。アレ・・が楽しくて、本気でしたいことなら、それでいいんじゃね、とは思う。でも、俺はそうじゃなかった。サッカーがあって、んで、なんでも話せる友達が一人いれば十分だったってだけ」


「……それが俺で良かったのか?」


「え。真司どうしたん? 急にメンヘラ束縛系カノジョみたいなエネルギー出してくんじゃん」


 いつもなら、そんなもん出すかとツッコむところだが、今は、それを笑い飛ばせる気分になれなかった。


「ハァ……。真司、俺もこっ恥ずかしいからこんなことは言いたくないんだけどな。メンヘラカノジョの真司には言っておいてやろう」


「……おう」


「俺は同い年くらいの連中の中で、お前ほど本気で生きてるやつを見たことない、っつーか地に足が着いてるってーの? とにかく周りの連中がみんなフワフワ生きてるようにしか見えてなかったからこんなヤツいるんだって驚いたんだよ」


「……おう」


「んで、お前は実際、自分が生きるためにすべきことを有言実行してきて、ここまで来ている。俺はサッカーに対して本気だ。あー、つまり、なんだ。その一緒につるむなら本気のヤツが良いに決まってるだろ」


 秀一はそんなことを言ってくる。


「……ありがとう」


「やめろ、やめろ、鳥肌が立つ。そんな顔で、真剣にありがとうなんて言ってたら、またホモっていう噂が立つぞ」


「……そうだな」


 まぁ、それでもいい。俺は本当に秀一という友人と出会えて良かったと思えているから。

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