第09話 隠してました
「伊佐凪、電気点いたぞー」
伊佐凪はもう泣いていないようだが、一向に手の力は緩まず、顔も押し付けたままだ。
「真司、とりあえず中入ろうぜ」
「いや、こいつどうすんの」
「そのまま入ればいいじゃん」
「……んんん!!」
そんなバカな話があるか、と思い引きはがそうとするが、剝がれない。もう何なの、マジでこいつ何なの。
ガチャ。
「はい、どうぞ」
ご丁寧に秀一がウチの玄関を開けて待ってくれている。
「もう、どうでもいいや」
俺は自暴自棄になり、そのままコアラ状態の伊佐凪を連れて、自宅へと入る。
「で、まだ掴まってるつもりか?」
リビングのクッションの上に立たせて、そう言うと、ようやく伊佐凪の手がゆるゆるとほどけていき、膝が抜けたように崩れ落ちる。
「ちょ、おまっ」
慌てて、両脇を支えて、床へゆっくり座らせる。
心配して顔を覗き込むと、伊佐凪の目は虚ろで──。
「おーい、伊佐凪生きてるかー」
目の前でブンブンと手を振る。
「はうっ。え、あ、私……なんで、え、霧山くんっ」
「はいはーい。秀一くんもいまーす」
「えっ、か、か、神谷くんっ? なんでっ!? え、ここ霧山くんちっ。はわわわわ、私部屋着っ!?」
キョロキョロと部屋を見渡し、自分の姿を見下ろす伊佐凪。Tシャツにショートパンツ。あまりクラスメイトの男子には見られたくない恰好だろう。
「落ち着け、伊佐凪。いいか。お前は幽霊に体を乗っ取られていたんだ」
「え、私が幽霊に……?」
「あぁ、そうだ。悪い夢だったんだ。今日のことは気にするな。家に帰ってメシを食って、風呂に入って、寝るんだ。分かったな」
「え、うん……」
伊佐凪は俺の言うことをきちんと理解したようで、しっかりと頷いていた。これで解決。
「じゃあ伊佐凪帰れるな?」
「あ、はい。その、お邪魔しました……?」
クゥー。そこでまたしても伊佐凪の腹が鳴る。
「ねぇねぇ伊佐凪さん、サバの味噌煮って好き?」
「え、うん? 好き、です」
「食べてくー?」
「え、いいの?」
「おい、秀一」
「真司、お前
俺が睨むと、秀一はニヤリと笑ってそんなことを言う。
「グッ……」
そこを言われると非常に弱い。確かに俺は秀一に伊佐凪のことを隠そうとしていた。俺が逆の立場だったら寂しいと思ってしまうだろう。
「……伊佐凪、食ってけ」
「え、あ、ありがとうございます」
俺は出しっぱなしだった料理を温めなおし、改めて三人分用意して、テーブルに並べる。
「「「いただきまーす」」」
三人で手を合わせて食べ始める。
「で、伊佐凪さんていつ越してきたの?」
「始業式の日だよ」
「へー、じゃあホント最近なんだね」
「うん」
「真司の家来るのは初めて?」
「え、えと」
困ったような顔でこちらをチラリと見てくる伊佐凪。
「初めてじゃない。一度来たことがある。少し話しをして、メシを出した」
「ほーん。あの、真司がねぇ」
別に何もやましいことはしていないのだから、堂々と本当のことを話すことにした。
「で、伊佐凪、今日はどうしたんだ?」
と言っても、あまりつつかれたくもないので、話しを変える。
「えと、本当にごめんなさい」
まずは俺に謝ってきた。落ち着いてきたからか、さっきのことを思い出してきたのだろう。
「その、今日は、風とか雨とかの音がちょっと怖くて、急に停電になって真っ暗になったところからパニックになっちゃって……。気付いたら霧山くんを呼んでました……。あの、すみません」
始業式の日以降は、適切な距離を守ってきていたし、隣の席になってからも向こうから関わってくることはなかった。だから──。
「まぁ、今回のことはしょうがない。事情を聞けば、しょうがないなって思うし」
「ありがとう……」
「なんか、まだ四月なのに暑くね?」
手でパタパタと顔を扇ぐ秀一。中学生みたいな煽りはやめてほしい。
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