第5話 調停者。

ヴァンは王都に行くと、ヘマタイトとシャヘルを別荘に呼びつける。

シャヘルは今日もユーナの所に顔を出していたので、ペリドットも連れて別荘に顔を出す。


ヘマタイトはヴァンの顔がセレナを救おうとしていた時の、余裕のない時の顔と同じだった事を訝しみ、「何がありました?」と声をかける。


「うん。ヘマタイト、俺をまた王様に会わせて。俺から言うよ。後はザップさんも同席して貰いたい」

ヴァンが普段と違う顔つきで言い出して、ヘマタイトは心配そうにコーラルを見ると、コーラルは憔悴した顔で「お願いヘマタイト」とだけ言う。


コーラルの憔悴具合を見て、「ごめんねコーラル、疲れちゃうよね」と言ったヴァンは、「オルドス様、俺好みにするからね」と天に向かうと、オルドスの「いいのかい?私達は助かるけど、ヴァン君は今なら表舞台に出ないで済むよ?」という声が聞こえてくる。


首を横に振ったヴァンは「ヘマタイトも、シャヘルも、ユーナも、ペリドットも、…勿論コーラルも巻き込まれるんだから、友達の俺も巻き込まれるよ。オルドス様はそれを見越して、俺をトウテに連れて行ってくれたよね?」と言い、ヘマタイト達が困惑する中、オルドスは「君、本当に怖いね。私は君が居てくれて本当に助かるよ。お願いね」と言った。


ヴァンは「先に言うとさ、敵が来るんだ。オルドス様は南からの侵攻も考えて居たけど西らしい。ペリドット、悪いんだけど助けてくれないかな?」と言って、本来なら国を捨てたスティエットのペリドットに頭を下げる。


「おいヴァン?なんでお前が頭を下げる?お前だって巻き込まれた一般人だろ?」

「うん。力のない俺は、皆に頼ることしか出来ないから、だからペリドットに助けて貰いたいんだ。ダメかな?」


ペリドットは必死なヴァンの目を見て、「仕方ねえ。友達の頼みだからな。でも俺はオッハーに家があるんだから、最後は帰るからな?」と言って頭をかく。


ヘマタイトはスティエットとして、火急の用件だと伝えてスーゴイを呼び、ザップを連れて謁見の間に顔を出す。

ヴァン自身はコーラルとヘマタイトの衝突の際に、オルドスの勧めで挨拶だけはしているので、恭しく頭を下げるとスーゴイから「よく来た。スティエットを纏める調停者よ」と声がかかる。


「そなたの活躍はオルドスから事細かに聞いている。コーラルとヘマタイトの仲を持ち、隠居をしていた女帝の子孫を王都に連れて来て、最愛の子孫にスティエットを名乗らせた。そして…久しいなシャヘル…」


シャヘルは頭を下げて「シャヘル・スティエットでございます陛下。父からスティエットを名乗るように言われました」と挨拶をする。


ヴァンはオルドスの根回しに感謝をすると、「陛下、ご報告がございます」と言って前に出た。


ヴァンはオルドスの根回しとヘマタイトの報告を見越して、簡単にコーラルの軌跡を説明して、ペリドットとシャヘルに出会い、ユーナを仲間に引き込んだ事、オルドスの手配でヴァンは古代語と古代神聖語の勉強、コーラル達は戦闘訓練を行った話をする。


「なに?オルドスの奴、それを見越して俺達をガットゥーに送り込んだのか?」

「うん。そうなんだよペリドット。もう少し話が続くから聞いててね」


ヴァンはそのまま、オルドスの根回しに気付いた形で、コーラルと共にラージポットに顔を出して、オルドスに対価を支払う形でこの国に危機が迫っている事を聞き出したと報告をした。


「ヴァン・ガイマーデ、君は何を支払い何を得た?」

「俺が支払ったのは、コーラルの友として最低限の術を扱えるようになる事です。そして得た情報はコレです」


ヴァンは予言の書を取り出すと、ザップに渡して「ザップ様、俺も読めるけど、ザップ様が読んだ方が陛下達も信じると思うんだ。お願いします」と言うと、ザップは「ヴァン、君はそこまで踏み込んでくれたのかい?断る事も知らないフリをする事も出来たんだよ?」と言いながら、元教師の顔でヴァンを見る。


「ダメだよザップ様、友達の皆が巻き込まれるのに、俺だけ逃げるとか嫌なんだ」

「その目、スティエットみたいだね。北部の子は皆そんな感じなのかな?」


ヴァンから予言の書を受け取ったザップは、「西のニー・イハオから敵が来る。敵は…無限術人間真式」と苦し気に読み上げて、ため息を一つついた。


謁見の間に広がる衝撃。

それは臣下達だけではなく、ヘマタイト達からもだった。


「西に生まれた…」

「真式だと?」

「オルドスの奴は俺達が居ても鍛える必要があった?」

「うん。オルドス様はこの国の危機には助けてくれる。それでもコーラル達が必要だったんだ」


ヴァンはスーゴイを見て「陛下、必ず勝つと言い切れませんが、俺達は頑張ります」と言うと、スーゴイは「頼りにしている。調停者ヴァン・ガイマーデ」と言った後で、「ヘマタイト・スティエット、ペリドット・スティエット、シャヘル・スティエット、ユーナ・スティエット、コーラル・スティエット、すまないが頼らせてくれ」と言って謁見は終わった。


帰り際、オルドスの根回しだろう。

ザップが「陛下、中央室の番人として、一つお願いが御座います」と言うと、すぐにヴァンが展開を読んで、「ザップ様、いらないよ!」と言ってザップを止めたのだが、「いや、僕の最高の生徒である、君の道を示し照らさせて欲しい。ウブツン先生がスティエットにしてあげたかった気持ちは、君と過ごした3ヶ月で僕にも根付いたんだ。僕を師として認めてくれるのなら、受け取って欲しいんだ」と言うと、そのままスーゴイを見て「陛下、ヴァン・ガイマーデに中央室への入室許可をください。彼は僕の自慢の弟子で、古代語と古代神聖語を正しく後世に伝えられます。そしてオルドス氏の導きも貰った彼なら、禁術を正しく使いこなせます」と進言した。


臣下達は、年端もいかず出自もわからないヴァンを怪しんだが、ヘマタイトが前に出て「陛下、ヘマタイト・スティエットもお願いします。是非、我が友を信じてください」と言う。


かつてのヘマタイトからしたら、軟化した態度に臣下達は目を丸くしたが、そこにペリドットも「頼むぜ王様、そうしたら俺はスティエットとして力を尽くす」と続き、ユーナも「だな、ガットゥーの引き篭もりも力を貸す。だから許可をくれ」と言い、シャヘルも「陛下、父が俺に表舞台に出るように言ったのは、ヴァンが居たからです」と言うと、最後にコーラルはヴァンの顔を見て「ヴァン」と名前を呼ぶ。


ヴァンは自分に中央室なんて良くないと言いたげな顔で、「コーラル」と呼び返す。


「ヴァン、貴いヴァン。お願い、私達を助けて?頼らせて?」

「コーラル…。でも俺は弱いんだよ?中央室に入っても役に立たないよ?俺を優遇して、ザップ様達がよくない目に遭うのは嫌だよ」


「それは置いておいて、ヴァンは私を助けてくれる?」

「それはするよ。友達なんだから助けるよ」


「ならお願い。貴方の力が助けになるの。お願い頼らせて?」

コーラルに言われたヴァンは、「わかったよコーラル」と返事をすると、嬉しそうに微笑んだコーラルは、スーゴイを見て「陛下、コーラル・スティエットが願います。是非、我らが仲間ヴァン・ガイマーデに許可をください」と貴い者の顔で願い出る。


スーゴイは「許可する。調停者よ、その人心を掌握する力、頼らせてもらおう」と言うと、ヴァンは「わかりました」とお辞儀をした。

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