第28話 器用貧乏がもたらす解決。

ミチトは殺気を放つと、「さあ、終わらせよう」と言った。

アゲースは必死に逃げようとしたが、どの術も放てずにいる。

ユーナとシャヘルからすら逃げられないアゲースの死は絶対だった。


リナはミチトを止めると「ミチト、あっちはすぐに終わるから、先にヴァン君だよ」と言う。


ミチトは「そうだね。ヴァン君、ありがとう。この勝利は君が居なければ得られなかったよ」と言うと、ヴァンが「ううん。俺はなんもして…」と言ったが、コーラルから「ほら」と促されて、「えぇ?ミチトさんの前だよ?」と言って照れながらも、「うん。俺はこの時代の器用貧乏だからね」と言った。


ミチトは状況を理解して、「それにしても増幅術と召喚術か…、トゥモは凄いね」と言うと、リナが「本当、孤高サマサマだね」と言ってトゥモを見る。


ヴァンが「うん。俺頑張るからミチトさん達は子供達に言葉を送ってあげてよ。トゥモにも禁術書に増幅術と召喚術を書かせてあげたいんだ」と言うと、横にいるコーラルが「ヴァン?頑張る?」と質問をする。


ミチトは真面目な表情で、「コーラル、ヴァン君は…ヴァン君のポテンシャルでは召喚術は…、この人数に戦闘目的でトゥモ達真式を呼ぶ事は難しいんだ。だから模真式なのに真模式になって自分を壊した。体内に2個の無限魔水晶を持ち、限界値に左右される増幅術を無制限に使用した。術使用の際、後はタシア達が動く際には、全身に声も出せないほどの激痛が走っている。今だってコーラル達が居るから我慢しているんだよ」と正気に戻ってすぐに見抜いた事を説明をした。


「ミチトお爺様!?ヴァン!?」

「いいんだよコーラル。俺はミチトさんに貫かれてあの時死んだ。今はおまけの状態だからいいんだ」


ミチトにバラされて、我慢をやめたヴァンが少し苦しげな顔をすると、コーラルは目に涙をためて「いやよ!なんで!?そんな事しないで!」と言う。


「もう俺が壊れるのは決定しているから、今はミチトさんだよ。コーラルもアクィさんや会いたかったご先祖様に挨拶をして」

コーラルが泣きじゃくる中、トゥモが「パパ、パパならもう二式作ったし、パパの術量なら何とでもなるよね?」と声をかける。

ミチトは「ああ。ヴァン君、召喚術は俺が二式で引き継ぐから休むんだ」と言った。


「ミチトさん?」と聞き返すヴァンに、トゥモが「多重伝心術。それに真式が束になって並列思考したんだ。それを実現するのは俺たちのパパ、器用貧乏なんだからもう何の問題もない」と言うと、ロゼ達がニコニコと笑って「ヴァン・ガイマーデ、大馬鹿だが見上げた男だよ」、「本当…感動しましたわ」、「それに敬意を贈らせてください」と言う。


ミチトはヴァンの手を取って「ほら、引き継いだから力を抜いて」と言うと、「皆、おいで」とタシア達を呼んだ。


タシア達は「ようやく歩けるよ」と言ってヴァンの前に来ると、もう一度「ありがとう」と言う。


自分が犠牲になるつもりだったヴァンが、「ミチトさん…」と声をかけると、ミチトは「先に治そう」と言った。


「融合術、2個の無限魔水晶を一つに…。コーラル、これは君の無限魔水晶だ。トゥモが教えてくれたから状況は理解できた。マスターとスレイブの関係は破綻しているが、魔水晶の方向性は示せる。万一に備えて老化現象が起きないようにする事と、ヴァン君を苦しめるような術量が溜まらないように指示をするんだ」


ミチトの言葉を聞きながら、コーラルは必死に術を送ると「治ったよ。まあ召喚術だと一度に呼べてロゼが3人って所だね」とミチトが説明をする。


ヴァンは「ありがとうミチトさん。もう痛くないや」と礼を言うと、ミチトは「いやいや、まったく」と言ってから、「さて、他もやるかな…?コーラル、愛の証を出して。アクィ、来てよ」と言った。


コーラルは刀身が粉々になった愛の証を破片も含めて出すと、ミチトはそれをあっという間に元の姿に戻してアクィに握らせると、コーラルに「コーラル、まだ愛の証は欲しい?」と聞く。

コーラルが照れながら、「…はい。アクィさんの偉大さにまだ頼りたいです。母様と居るような安心感なんです」と言うと、横で聞いていたアクィは愛の証を握りながら術を込めて自分自身を起こす。


ミチトが間髪入れずに融合術で憑依術を使ってから死ぬまでのアクィと、愛の証の中で時代の全てを見てきたアクィを合わせると「アクィ、再度憑依術で愛の証に上書きして」と指示を出す。


アクィは憑依術を使ってから目に涙を溜めて、「コーラル、ようやく抱きしめられたわ」と言うと、コーラルは照れながら「アクィさん…母様」と言った。


「んー…」と言ったミチトは「アクィ、その愛の証に魔水晶足していい?」と聞くと半ば強引に愛の証に魔水晶を足して、「コレには術も何も溜めない、大鍋亭だ」と言ってミチトは妻ごと自分を憑依させる。


「仮にこれで愛の証のアクィが寂しくても俺も居る、リナや皆もいるよ」と言って愛の証を見ると、中のアクィは本気で目の前に現れた家族を見て喜んでいた。


ミチトは愛の証を見ながら「でもさ、これはアクィの剣だから、コーラルの愛の証はヴァン君に作って貰えば?」と聞くと、リナがヴァンに「ヴァン君は出来る?」と聞く。


リナに聞かれたヴァンは「多分出来ますけど…」と言ってコーラルを見る。

コーラルは「何?ヴァン?」と聞くと、ヴァンが呆れ顔で「コーラルってコーラル用よりも、アクィさん用を気に入りそうなんですよねぇ」と言い、これにリナ達は「確かに」と言って笑った。

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