第27話 本当の隠し球。

ヴァンは一瞬も気を抜かない。

倒れそうなのに「保険だ。召喚術!メロ・スティエット!」と言ってメロを呼ぶと、倒れたミチトの横に降り立ったメロは、トゥモの伝心術で全てを理解して、「パパ…、せっかく寝ていたのに起こされて、戦わされて許せないよね」と言うと怒りに飲まれてアゲースを狙った。


トゥモが「ダメだメロ!盲信術が何をするかわからない!」と言ったが、メロは「あいつは解かないからメロが殺す!」と言って斬りかかろうとした。

アゲースは目を丸くして「『起きろ!敵がメロを操っている!』」と言うと、ミチトだけではなくアクィ達も目を覚ましてメロを狙った。


「パパ!ママ!お姉ちゃん達!」

「メロ!正気に戻れ!」

「メロ!私とミチトの所に来なさい!」

「メロちゃん!こっちです!」

「メロ!目を覚まして!」


メロはミチト達の攻撃をかわすが前に出れずに居る。


「くっ、メロを止めたいが、これ以上無理に動くとヴァンが壊れる」

「ヴァン!俺たちを下げろ!」


ロゼとジェードの声を無視して「コーラル、転移術」と指示を出す。

コーラルは「ヴァン?」と聞き返すが、ヴァンは笑顔で「コーラル、もう終わるからさ」とだけ言うと転移術を促す。


リナの前に転移したヴァンは「リナ・スティエット。あなたは全部見たよね?どうだった?子供達とミチトさん、どっちが正気かわかるよね?」と言うと奪術術を使う。

一瞬の事だが、リナは頷くと「解術術」と言って完全に正気に戻り、「またまた助けてもらっちゃったね。ありがとうヴァン」と言った。


リナはヴァンを見て「あなたはここで止まりなさい。タシア達の事はもういいわ」と続けたがヴァンは首を横に振る。


「頑固ね」と言って太陽のように微笑んだリナは、「滑走術」と言って走り出すと、「身体強化」と呟いてメロを狙うアクィ、イブ、ライブを瞬く間に圧倒すると、「メロ、ありがとう。アイツはやっつけようね」と言う。


メロが目を丸くして「お母さん?」と声をかけると、リナは「これが本当の隠し球」と言って、リナを見て固まるミチトに「アイツがこの事を知らないから、ミチトもわからないんだね。ほら、目を覚ましなさい。解術術」と言ってキスをした。



この状況を見て子供達も冷静ではいられない。

突如リナが術を使い、あっという間にアクィ、イブ、ライブを圧倒した。


「おいタシア!なんだあれ!?」

「リナお母さんが術を使ったぞ!」


タシアは兄の顔で「お母さんが説明してくれるよ」と言って、事態を見守っている。



「ミチト、起きた?解術術を使って。これは本人以外だと深く触れないと使えないから、私がアクィ達にキスするのは変だからミチトだよ」

「うん。ありがとうリナ」と言ったミチトがヴァンを見て、「ごめんねヴァン君。今全部終わらせるよ」と言うと、「シャヘルとユーナ、アゲースを逃すな。術に関しては可能な限り奪術術で封じろ。セレナさんはこっちに来ておいて」と指示を出した。


ミチトの指示で逃げ場を封じていたユーナとシャヘルが奪術術を使うと、ミチトはその間に「アクィ、起きるんだ」、「イブ、ごめん。起きて」、「ライブ、起きれるね?」と声をかけながらキスをして起こす。


「う…、何が?」

「え?…ここ…知らない土地だと思ったのにキュウヨ大河」

「私たち…、リナさんに負けた?」


起きたアクィ達も正気に戻っていて、術を放って自身を圧倒したリナを見ると、リナは照れくさそうに「何十年も隠してごめん。私も無限術人間真式なんだ」と言った。


子供達がざわめく中、ミチトは「俺の力は願いの具現化。俺の願いは家族の幸せ、妻達の望みを叶える事、だから妻達が欲しいと願い、俺もそう思ったからタシア達が生まれてきてくれた」と話し始めた。


リナはミチトの横で「うん。私は渇望したの。大きな変化は…ミチトが世界の根、ミチト風なら大地の根に旅立った日に、アクィやイブやライブは大地の根まで行って見送れたのに、自身が術人間ではない事でついていけなかった事、二度とミチトに会えないと思った日、術人間になりたいと渇望した。そして11年が過ぎてミチトがナハト君に訓練をつけた日、術人間になってミチトを逃さず全部見たいと願った後で、私は人ではなくなっていた」と言った。


「でも、それは内緒にしたんだ。リナは人間として子供達と接してもらいたかったから」

「だから私はミチトとコッソリ訓練をして、十分な実力をつけた後で封魔術を作って人と同じにした。死の直前、タシアには話して封魔術を授けた」


「リナには元々術の才能があった。俺が初めて直結術を思案した日、キチンとファイヤーボールを放てた」

「次はトウテ、エグゼ・バグを封じたミチトの氷結結界を壊すファイヤーボールを、私はイメージ出来ていた。あの時は私自身もラージポットのオーバーフローで、孤独になるミチトの為に戦いたかったの」


「そして初めて別荘を建て直す話が出て、家族全員でインフェルノフレイムを放った日、リナは俺の力を使ったけどインフェルノフレイムを放てていたんだ」

「術開発は料理感覚で思案したら出来た。だから封魔術と解術術を生み出してミチトに、タシアには真実と封魔術だけ伝えたの」


この説明に、近くにいたメロが「お母さん、使いたくならなかったの?」と聞くと、リナは「メロ、私が使わなくてもミチトが居る、皆が居る、メロも居てくれた。知れば使いたくなる。でも心のままに使えば化け物になる。その言葉の本当の意味を知ったから、使いたいなんて思えないよ。それに私の代わりにメロが居てくれたよね?」と言って微笑んだ。

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