第6話 最高の生徒。

コーラル達は第三騎士団に顔を出して、対術人間用を意識した訓練をしている間に、ヴァンはザップと共に中央室に入る。


禁術に興味のないヴァンでも浮き足だってしまう状況に、ザップは嬉しそうに「この部屋の本は、どれでも好きに読めるよ」と言うと、ヴァンは「ごめんなさいザップ様、俺は禁術なんていらないって思ってるし、今日の事がザップ様達に悪い事になったら…」と謝る。


ザップはヴァンの言葉を遮るように、「ヴァン…。聞いていいかな?」と言った。

ヴァンは「はい?」と聞き返すと、ザップは「君は何故、禁術が要らないんだい?」と聞く。


ヴァンは周りの本を見ながら、「禁術は禁止されたから禁術なんです。知ったら使いたくなるし、欲しがる人も増えます。ソレのせいでツギハギ事件だって起きたんです。ないならない方がいいですよ」と言った。


その顔はミチトに似てたとザップは思い、…ここで終わらさずにもう一つ質問を続けた。


「でも、君はコーラルに読むように言ったよね?何故かな?」

「それは、コーラルならキチンと正しい心で使ってくれるからです。世界に禁術が出てしまって、コーラルの敵が使うのなら、コーラルも知らないと戦えません」


深く頷いたザップは、「ふふ。君はやはり僕の最高の生徒だ。ありがとうヴァン」と言う。

照れたヴァンは、「最高って照れますよ」と言ってから、「ザップ様は昔先生だったから、沢山の生徒が居たんですよね?他には最高の生徒は居なかったんですか?」と聞いた。


「いい質問だね。最高は1人じゃないさ、ウブツン先生が、僕とスティエットを最高の生徒に位置付けてくれたように、僕にも居たよ。ただ約100年ぶりなのさ」

「100年?」


100年と言えば、ミチトの没後そんなに時間が過ぎていない頃だ。

そんな昔から現れなかった最高の生徒を思った時、ザップは「知れば使いたくなる。試したくなる。だが、それをすれば人ではなく、最早化物だと、スティエットは言っていた。ヴァンにはこの言葉はいらないかな?でも癖になってしまっているから言わせてもらうよ」と言いながら、「僕の最高の生徒の手紙だよ」と言って見せてきたのは、ズメサで見つけたトゥモ・スティエットの手紙だった。


「トゥモ・スティエット?」

「ああ、彼が僕の元を訪れたのはスティエットの没後で、術使いとして道を極めようとしたトゥモは、古代語と古代神聖語をマスターして、この部屋の本を僕の手を借りずに読んで、無限術人間真式として深く理解をすると言ったんだ」


ザップは昨日の事のように語り始める。



トゥモは国営図書館にくるとザップを呼ぶ。

ニコニコと現れたザップに、トゥモは「ザップさん、今日はお願いがあって来たんだ」と言うと、ザップは「やあどうしたんだい?最近はサルバンでもトウテでもなく、ズメサに住み始めたんだよね?この前ナハト君から聞いたよ」と返す。

トゥモは「うん。あそこで研究を始めたいんだ」と言って自分の掌を見た。


「研究?」

「俺は禁術を生み出したい。ううん。禁術書に乗るくらいの術を生み出したいんだ」


ザップはミチトに似た、こり出すとしつこいトゥモの顔を見て、兄弟弟子の息子が道を誤らないように言葉を送ろうとする。


「何がしたいのかな?キチンと言えるかい?」

「言えます。俺は禁術書に載るような術を生み出して、パパが書いた禁術書の横にその術を書いて、トゥモ・スティエットの名を遺したい」


トゥモの目的が力ではなく、ミチトだと理解したザップは嬉しそうに、「それなら安心だ。僕にできる事は?」と聞くと、トゥモは「禁術書を自分で読みたいから、古代語と古代神聖語を教えてください。人伝より自分で読んだ方のが理解できる気がするんだ」と言う。

ザップは素で「ウヒョー」と喜ぶと、トゥモに古代語と古代神聖語を教えた。


ザップはトゥモの手紙を見て、「禁術は難航していたよ。まあ後発だからね」と言って穏やかに微笑む。

後発だから、それはミチトとオルドスが次々に術を産み出していて、全く別の視点で産み出す必要があった事を指している。


「オルドス様には聞かなかったんですか?」

「ヴァンなら聞けても、トゥモはスティエットの子だよ?僕も着眼点を変える目的で聞く事を提案したら、スティエットそっくりな顔で「嫌すぎです。ロゼやラミィにも聞きたくない」って言って、頑張っていたよ」


本の中にもあるトゥモの人となりを思い出したヴァンは、「あ…」と言うと、「あの手紙にあったように、トゥモ・スティエットは禁術は生み出せなかったんですか?」とザップに聞いた。


ザップは「これはとある内緒話だよ。それはコーラル達にも言ってはダメだ。ウブツン先生と僕とスティエットのように、限られた人間だけの秘密だよ」と言うと、また話し始める。



「トゥモ、この前の術は載せないのかい?あれは8割型成功しているし、少しだけデチューンすれば、一般化も可能だよ?」

「ザップさん、ソレじゃあダメだよ。効果を下げたら禁術をじゃなくなる。8割は成功じゃない。パパとママやジェード達が、俺につけたあだ名は孤高。孤高はそんな残念な仕事をしないよ」


だがトゥモはもう老人で、見た目だけなら天の国に旅立ったミチトに似てしまっていて、いつ迎えが来るかわからない。トゥモ自身も衰えを意識していないわけがない。そして半生を費やした術開発が無駄になるのを、ザップは師匠としては見過ごしたくなかった。


「ザップさんは、わかりやすい顔をしますね」と言って微笑んだトゥモは、「ザップさん、俺は生徒としてどうですか?」と聞いた。


「最高の生徒だ。決して終わりにしない、満足をしない、スティエットの名前にある道の途中、決して終わらない道の途中が1番似合う男さ」

嬉しそうに深く頷いたトゥモは、微笑みながら「ありがとうございます。なら弟子のお願いを聞いてくれますね?」と言って手紙を出してきた。


「手紙?これは?」

「俺の開発した、その完成度8割の術の基礎理論と俺の運用、使ってみた問題点を書きました」


ザップが見ると禁術書にあってもおかしくない、ミチト以上、オルドス以上の出来栄えにザップはトゥモを見たが、トゥモは首を横に振ると「嫌です。完成ではありません」と言い、「もし後世、俺の術を完成させられるパパみたいな術使い、…出来たらスティエットかサルバンがいいかな。そのスティエットが完成させたら、ザップさんがパパの禁術書の横にコレを書いてください」と言って微笑む。



トゥモはソレが最後の挨拶のように、その後亡くなった。


その話を聞いたヴァンが「え?」と聞き返すと、ザップはヴァンを見て「ヴァン・ガイマーデ、スティエットではないが、僕は君こそがトゥモの探していた存在だと思うよ、この手紙を見て術を完成させるんだ。禁術書にはトゥモと君の名前を書き記してくれ」と言って手紙を出してきた。

そこには2つの術が書かれていて、完成されていたらこの100年は大きく変わり、この国は消滅していたかも知れなかった。


ヴァンは真式ではないために、理解できるまで中央室に通い詰めて、何遍も禁術書を読む。


その中でヴァンは一つの答えにたどり着くと、「ザップ様、ちょっと出かけてきます。もしコーラルが来たら…いいや。こっちから声をかけます」と言って消える。開かれていた禁術書のページには転移術が書かれていた。

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