第10話 アゲース。

4人の伝説の人間を連れ立った男は、コーラル達を見て「君達が噂の子孫達かな?」と言って笑った。


ヴァンは最大限努力をした。

「お兄さんは?名前教えてよ。俺はヴァン」と名乗りながら前に出る。

余裕の顔だったミチトがヴァンを見ると一瞬顔を顰めて、イブとライブが「ミチトさん」、「ミチト?大丈夫」と声をかけると、アクィが前に出て「ミチトは少し下がりなさい」と言う。


銀髪の男はヴァンを見て「おやおやおやおや?君が原因かな?」と聞いた。ヴァンは「原因?なんのこと?とりあえず名前教えてよ。まず話そうよ。俺達は予言の書に、西に行けってあったから来ただけだよ」と言った。


「あー…噂の予言の書かー。まあそれはいいや。僕の名前はアゲース。見ればわかると思うけど無限術人間真式さ。ま、自称だけどね。僕の住むニー・イハオにまで噂で聞こえてくる無限術人間真式。自分でもなんか似てるなって思ってさ、だから自称」

「この状況を聞いていいよね?これって受肉術?アゲースは禁術書を見たことあるの?」

ヴァンの質問に、アゲースはミチト達を見て「ああ、僕のフレンド達の事?」と言った。


「フレンド?」

「言い方を変えれば僕はリベレーションで、この子達はビリーバーだね。受肉術?そういう術があるんだね。ちなみに禁術書は読んでみたいけど、読んだ事はないよ。僕は読まなくても大概の事は出来たからね」

アゲースは銀髪をかき上げながらヴァンを見て、「さて、質問に答えたんだから答えてくれるよね?」と言う。


殺気の籠る目だが、ヴァンは意に介さずに「いいよー」と答える。


「君をみてビリーバーの1人が顔をしかめた。君という存在がノイズになったんだ。君は何?」

「えぇ?俺は普通の男で子供だよ」


「普通の子供が、伝説の子孫を連れ歩くのかい?」

「俺の友達だからね。一個聞いていい?なんで会話中なのに、そこの4人は会話に参加しないの?」


「ああ、それは僕の術さ。炎命術って火から命を作る術を作ってみたんだ。それで僕の住むニー・イハオまで、本が出回る程の伝説の人に興味があったから呼び出してみた。でもいきなり会ってみたかったからって呼んだら、怒るかも知れないだろ?君だっていい夢見ていたのに、知らない奴に起こされたらムカつくだろ?だからもう一つの術を生み出したんだ。まあ君は聞きたがるから教えちゃうかな?盲信術って言ってね。僕の姿を認識できないのに、僕の声を神の声と信じてその通りにしたくなるんだよ」


妄信術。それはまたとんでもない術だと思いつつ、妄信術について思案しながらヴァンは「催眠術とは違うの?」と聞くと、アゲースは気付かない間にヴァンのテンポに飲まれて、「近いけど違うよ」とあれこれ話してしまっている。


「今度は僕の番だよヴァン。この術を思いついたのは半年前、伝説の彼を呼んだのは2ヶ月前、実はその前にも呼んだんだけど失敗してさ、失敗なんて初めての事で驚いたよ。わざわざ試す為に飼っておいた母親を殺して、呼び出してみたけど成功したんだよね。炎命術って術量使うから連発出来ないのに、テストしたから大変だったよ。君ってノイズみたいだから何か心当たりない?」

ヴァンは最大限考えて結論には至っていたが、嘘をつくか真実を言うか悩んでいると、愛の証のアクィが「ミチトなら心眼術で見抜くわ」と言うので、ヴァンは素直に「俺達もミチトさんに用があって、呼んで話を聞いていたんだ。だから失敗したんじゃない?」と返した。


「話?呼んだ?」

「うん。無限術人間の作り方を聞いた。呼び方はミチトさんが子孫にだけ術を残して居たんだ。アゲースも聞いてみなよ」


アゲースはやれやれとジェスチャーをしながら、「それが聞けないんだよね。本人が拒むのか、奥さん達も皆一緒で術になると口を閉ざす。本来なら転移術だっけ?あれも聞いて使おうとしたのに、なんか不発なんだよね」と言うと、「まあ聞きたい事は聞けたからいいや」と言った。


「じゃあ帰るの?」

「まさか。仮の話をしようか、もし伝説のダンジョンに住む古代の真式が、敵になる恐れがあるのに放置するかい?将来敵になる恐れのある、この国を君なら放置するかい?」


アゲースはコーラル達をみて「ご先祖様で大量殺戮を行うと言って、「どうぞどうぞ」って言ってくれるかい?」と聞いた。


アゲースの嫌らしい笑顔。

この顔を見てコーラルは黙っていられない。


「死者の冒涜など許されるものではない!我が名はコーラル・スティエット!あなたを倒し!高祖父達を救います!ユーナ!ヘマタイト!ペリドット!シャヘル!何としてでもあの男を倒します!」と叫ぶと前に飛び出した。


「ちっ!熱くなるな!セレナ!ヴァンを頼む!」

「大叔母様には我慢できないか…」

「馬鹿野郎、撤退一択だろうが!」

「何とかあの男だけでも倒さねば」


向かってくるコーラル達を見て、アゲースは「ま、そうなるよね。ヴァンって向かってこないという事は戦闘力はないんだ。そのチームの頭脳なんだね。じゃあこうしよう。『ビリーバー達、目の前の少年が敵の幹部の1人みたい。チャチャっと倒しちゃってよ』」と言った。


アゲースの声にミチトが「聞こえた、またこの声だ」と言うと、アクィが「とりあえず従いましょう?今の私たちはここがどこかもよくわからない。とりあえず敵が向かってくるのなら倒すわ」と言いレイピアを構える。


「ミチトさんは休んでて」

「そうだよ。敵なんて私とイブで余裕だよ。ミチトは休む」


イブとライブは頷きあうと、殺気を放って前に飛び出してきた。

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