第9話 5人の敵。

4日後、メイランの街からキュウヨ大河の方に進むヴァン達。どれだけユーナとヴァンが拒否をしてもセレナはついてくると言い、「ユーナは守ってくれないの?」と言われてユーナは「俺は守る」と返し、セレナは「乱戦になったら、私がヴァンを守るから」と言って自分の居場所を用意していた。


「コーラル、アクィさんに意見を貰おうよ」

「そうするわ」


この会話で、ペリドットが「なあ、なんか最近アクィ・スティエットを出してないのはなんでだ?不調なのか?」とコーラルに質問をする。


コーラルはバツの悪そうな顔で、「う…」と漏らしながらアクィを呼び出す。

アクィはアクィで少し不貞腐れた顔で出て来て、「私の調子は普通よ」と言う。


ヘマタイトが何があったかを聞くと、ペトラが1日でミチトの気配が消えると言われていたのに、翌日にアクィを見たらミチトとイチャイチャしていて、それは尊敬する高祖母ではなく1人の女の顔で、それを見てしまったコーラルも見られたアクィも気まずい。

そしてその翌日に消えたミチトを想って、アクィは数日間は寂しげな顔をして何かにつけて、ため息混じりに「ミチト」と名を呟いていて、コーラルからしたら近づきにくい。


ようやく意を決してアクィに話しかければ、「コーラル、人生はタイミングよ?ヴァンとの関係はどうなの?進退を意識しなさい」と言われて、「大きなお世話です!」と返したら、「私がミチトと離れ離れでどんな気持ちかわかるでしょ!あなたにはそうなってほしくないの!」と言われてしまい今日に至る。


アクィからすれば親心でも、コーラルからすればクソウザい。

アクィは、自身が母を失って早々に兄スカロからお見合いを勧められて、サルバンを離れた事を棚に上げてよく言ったものだが、ようは母娘の喧嘩に近い。


話を聞いたヴァンは「コーラル、アクィさんと親子みたいでいいね」と言い、「アクィさん、ありがとうございます。コーラルにお母さんが居ないから心配ですよね。でも皆勘違いしてますけど、綺麗なコーラルが俺となんて何もないですからね」とアクィに言うと、「さあ、仲直りしてください」と言って、コーラルにも「ほら、ごめんなさいだよ。できるよね?」と仲直りをさせる。


同じ顔で「う」と言ってから仲直りしたコーラルとアクィ。

横で見て居たユーナは「無敵か」と突っ込むと、ペリドットも「まったくだな」と言う。

シャヘルだけは「1日で消えるはずのミチトが、2日も居たのはなんだろうな?」と気にしていたが、答えは出なかった。


アクィを交えた結果、敵が真式である以上、支配権の強奪の心配が付き纏い、模真式のセレナは何が起きるかわからないから、危険を察知したら1人で逃げる事を条件に参加を許可する事になった。


キュウヨ大河の手前、相手が真式なら大河を無視してくる事を考えて、あえて橋の方に行かずに河のほとりで待つと、暫くして5人組の旅人が河の向こうに現れて、河を飛び越えてきた。


コーラルが「アクィさん」と声をかけると、アクィは「ええ、敵ね。前を歩く奴が頭目かしら?」と言う。ユーナが「銀髪くらいしかわからんな」と言えば、ペリドットが「まあわざわざ遠視術を使う事もないな」と返す。


「ねえコーラル」

「何ヴァン?」


「帰ったらアクィさんと沢山話なよね。後は家に椅子を沢山用意して、セレナ達を招こうよ」

「…うん。そうするわ」


コーラル達が雑談出来たのはそこまでだった。

遠視術を使う気がなくても、クセで使ってしまったシャヘルが真っ青に震えて「あ……」と言うと、「勝てない…」と言った。


「シャヘル!?」

「逃げろ…、ヴァンとセレナは今すぐ逃げろ!オルドスの奴!何故何も言わなかった!」


取り乱すシャヘルを見て、セレナが「ヴァン撤退準備」と声をかけた時、ヴァン達の耳に聞こえてはならない声が聞こえて来た。


「逃す訳…ないだろ?」


その声は3ヶ月前に聞いた声だった。

全員の身体が強張り、それでも訓練の賜物だがセレナが我先に動き、ヴァンの手を取って「転移術!」と声をかけたが術発動はしなかった。


「転移できない!?」とセレナが慌てる中、アクィが「ユーナ!セレナといなさい!コーラルはヴァンよ!なんて事…」と言った。


愛の証のアクィも目を疑った。


目の前まで来た5人組。

銀髪の人間に見覚えは無かったが、残りの4人には見覚えがあった。

正確には3人は見覚えがあって、残り1人に見覚えは無いはずだがすぐにわかった。


「ミチト…、イブ、ライブ…」

「アクィさん…」


そう。3ヶ月前、無限術人間の生み出し方を聞く為に、約70年振りに現世に現れた伝説の男、ミチト・スティエット。

そしてコーラルの持つ愛の証に宿る姿そのままのアクィ・スティエット。

残りの2人も髪色を見ればよくわかる。

薄緑色の綺麗なロングヘア、切長だが大きな目。女帝と呼ばれる威厳。

ペリドットにも痕跡の残る顔、ライブ・スティエット。

薄桃色のロングヘア、ニコニコと弾ける笑顔が印象的で、コーラルやヘマタイトにも何処か似ている愛らしい女性、約一年前はコーラルが欠術病を患い、生き残る為に身体をその身に変えていた、イブ・スティエット。

4人の伝説の人間がそこにいた。

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