第8話 ヴァンの準備。

挨拶が済んだ後は大騒ぎの大宴会だった。

ヴァンが再臨したスティエット達を取りまとめる調停者として認められた話から、信徒達は手を合わせ始める。


「お前、大出世じゃねーか」

「皆が持ち上げるだけだよ」


ヴァンは「やる事あって来たから、コーラルと席外すよ」と言うと、母ヌーイに「母さん、リットの髪を貸して」と言う。


ファンは陽気な顔から怒り顔になると、「クソガキ!またか!?」と怒鳴り立ちあがろうとする。


「違うよ。転生術は使わない。仮に使える日が来たら俺が使う。コーラルには二度と頼まない」

ヴァンの顔を見たファンは怒気をおさめて、「なんだ?男の顔になったな。なら任せるけど、リットを口実にコーラル様に変な真似すんなよな」と言って酒に戻り、シャヘルに「カラス〜、飲もうぜ!」と言って絡む。


今回は全てにおいて置いて行かれているコーラルが、不安げに「ヴァン…」と言ってヴァンを見ると、ヴァンは「ごめんねコーラル。お願い」と言った。

コーラルが「構わないわ」と言うと、ヴァンは「母さん、すぐ返すから貸して」と言って遺髪入りのペンダントを借りると、寺院の一室に向かう。


ヴァンはその時に、わざとファンに「言っておくけど、綺麗なコーラルが俺と何かあるわけないだろ?それに俺とコーラルは2人で住んでるんだから、何かあれば家でだよ」と言って、余裕の表情で「行こうコーラル」と言いながら2人きりになる。

背後からはファンの「あのクソガキ!毛でも生えたか!?」と言った声と、「カラス!アイツ辱めようぜ!」と、とても親に見えない言葉が聞こえてきていた。


ヴァンは部屋に入ると「ごめんねコーラル」と謝ってから、ペンダントを左手に持って、右手はコーラルと繋ぐ。

それも恋人繋ぎで、綺麗と言われてまた照れたコーラルは、真っ赤な顔で照れてしまうが、「ごめん。リットが手を離さないように、いつもこの握り方だったんだ」と言うと、真面目な顔で「左手にリットを感じる」と言って術を流すと、「これかな?」と言い、コーラルにも術を流して「混ざったリットを探す」と言って少しすると、「居た。リット、見つけたよ。コーラルと居てくれてありがとう。俺は多分役に立てるよ」と言うと、手を離して「ありがとうコーラル。俺も役に立つからね」と言って笑う。


コーラルはヴァンがそれ以上言わない事に、「ヴァン?」と聞くが、「秘密。使わなきゃいい話。それにまだ使えるかわからないからさ。さ、煮込みシチュー食べに帰ろう」と言って、笑い飛ばしたヴァンに何も聞くことが出来ずに居た。



ヴァンは皆の元に戻ると、セレナと仲良く食事をする。

周りの連中はコーラルという者がありながらと勝手に怒っているが、ヴァンはセレナに「肉食べた?どう?美味しい?」と甲斐甲斐しく聞いたりする。


ユーナが殊更静かな事に、ヌーイが心配そうにすると、コーラルが「母様、大丈夫です。この前ヴァンが必死に助けようとしたのは、病気の彼女を見ていられないからで、今も治った彼女が心配なんです」と言って、ヌーイの作ったご飯を食べて「私の中のリットさんも食べられて喜んでます」と言いながら泣いてしまう。


周りの信徒達も酔っ払ってしまった頃に、ファンはヴァンの前に座ると酒を注いで、「男の顔になったんだ。父親と飲み交わせるな?」と言う。


ヴァンが「うん」と言って飲むと、「何があった?俺達にできる事はあるか?」と真面目な顔で聞く。


「ないよ、でも大丈夫。コーラルがいる。ヘマタイトがいる。シャヘルもペリドットもユーナも居る。セレナは危ないからお留守番がいいよね。だから父さんは土産でも待てばいいんだ」


ヴァンも酒瓶を取ると、父のコップに酒を注ぐ。


ファンは一気に飲み干して「生意気言いやがる。わかってんだろうな?」と聞きながらヴァンに酒を注ぐと、ヴァンはソレを飲んで「コーラルはキチンと守る。俺は最後だよ」と返すと、「満点だ。後は危険なら危険手当はキチンと貰ってこい」と言ってヴァンの頭を撫でると、キチンと立ち上がってヘマタイト達を見て「こんなクソガキはお荷物だが、よろしくお願いします」と言って頭を下げた。


あのクソ親感が嘘のようで、ヘマタイト達は目を丸くする。

その直後、ファンはコーラルを見て「コーラル様!コーラル様はもう俺達の娘も同然!ヴァンの奴ならどうなっても良いから、盾にしてでも傷ひとつなく帰ってきてくださいよ!」と真面目な顔で言い切る。


ドン引きのコーラルだが、リットの気持ちが勝ったのか「はい父様、必ずヴァンと戻ります」と言っていた。


ペリドットが「なあヴァン、いつどうするんだ?」と聞くと、ヴァンがシャヘルに「シャヘル、迎えるなら何処かな?」と聞く。

シャヘルが西のメイランを出して、「まあメイランに入って過ごしながらだな」と返事をすると、その横でセレナが「ユーナ、メイランって何処?」と聞くとユーナは「知らん、西だろ?」とだけ返した。


ヴァンは「そろそろかな?」と言って予言の書を開くと、「西の真式は4日後に国境に現れる。キュウヨ大河の手前で待ち受けろ」と書かれていた。


ヴァンは帰りに「必要ないかも知れないけど、必勝祈願行こうよ」と言ってトウテに皆で行く。ユーナたちがハラキータに捕まっている間に、ヴァンだけは大鍋亭にいた。


大鍋亭の中で、ヴァンは天を仰いで「トゥモ・スティエット。あなたのお陰で俺も戦えるよ」と感謝を告げた。

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