器用貧乏vs器用貧乏。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~
さんまぐ
第1話 ザップ・ナーヨの昔話。
ヴァンとコーラルが王都にある、スティエット家の別荘をいつまでも独占するのは良くないと言い出して、西のヤミアールの土地に住居を移したのが3ヶ月前。
ヘマタイト達は別に構わないと言ったが、コーラルは貴い者としてよくないと言い、ヴァンは庶民の生活に戻れなくなるからと言って引っ越しをした。
イクチ・ヤミアールの直系子孫がコーラル達を出迎えて、小さいが品質のいい家を一軒プレゼントしてくれた。
それはヤミアールからしても、領土にスティエットが期間限定でも住んでくれれば領地の安全度はグッと上がる。
更に、ヤミアールからすれば問題のあった4きょうだい全てが生まれ変わるきっかけをくれた、スティエットへの恩返しは永続する一族の宿望であった。
傍目に見ても姉弟や夫婦、家族に見えるヴァンとコーラルは、朝になるとどこかに消えて、夜になると帰ってくる。
ヤミアール家は行き先を聞いていて、日中の泥棒にだけは備えるようにしていた。
この日は王都でヴァンがザップ・ナーヨから師事を受けて、古代語と古代神聖語を習いながらミチトの遺した伝説を読み進めていて、コーラルは手持ち無沙汰になるとガットゥーのユーナとセレナの所に行って真剣勝負にしか見えない訓練をしている。
国営図書館ではザップ・ナーヨが「おやおや。コーラルはダメだね。ヴァンから離れないようにオルドス氏に言われていたのにね」と言って笑うと、ヴァンは「まあコーラルですから。大人しくなんて無理ですよ」と笑いながら先に読んだページを古代語と古代神聖語で書き直してザップにチェックしてもらう。
今はミチトの弟のナハト・レイカーが、ガットゥーの剣術大会に出る直前部分を読んで翻訳していた。
ザップは「いいね」と言って翻訳を読みながら、「でも勿体無い。ヴァンは他の物語は読まないの?天から来た蒼き髪の乙女なんて素晴らしすぎるよ?」と言って、数カ所気になる箇所に下線を引いて、「主観が入っているよ」と注意をする。
ヴァンはどうしてもミチトの伝説で勉強したかったので、他の古代の本には手を出して居なかった。
それはあのガットゥーで出会った、転生術で蘇ったミチトを見て、かつてグラス・スティエットがミチトを見て、伝説が誇張された物と思い込んでいて書き直した時の気持ちに近い。
そしてミチトの伝説だと、ヴァンは熱が入ってしまい、熱くなると主観が混じってしまう。
「あちゃー」と言って書き直し、許されると「ミチトさんの事を知りたくて」と言ったヴァンは、数ページ先まで読み進めると、伝説はヨシ・ディヴァントが朱色を妻に迎えて海底都市に住む辺りで終わってる事を気にして、「ザップ様、この先はなんで書かれてないの?」と聞く。
ザップは楽しそうに笑うと、「伝説は伝説だからさ」と言う。
ザップの顔が気になって「え?」と聞き返したヴァンに、「スティエットもそうだったけど、ジェード君やロゼ君の願いが強いかな。後はベリルさんも言っていたね」と言うと、ザップは目の前で見てきた事を事細かに話してくれた。
「ザップさん…アプラクサスさん達のお願いとか無視しましょうよ」
「いやいや、僕が書かなくても勝手に広まっていくよ」
トウテに来たザップは、大鍋亭に顔を出してミチトを捕まえると、王都にいる闘神のファン達が半生を書き記したいと言い出していて、噂話だけのとんでもない物が出来上がらないように、アプラクサスから頼まれたザップが、トウテに顔を出してミチトに説明をして上の会話になる。
ミチトは50を目前にして随分とやつれていた。
それは過去の戦いの反動だと、妻の蒼色がオルドスに聞いて教えられていた。
「参っちゃうよね。きっと私ももっと歳を取ったら、何らかの反動があるよね。でも戦いになれば、ミチト君は身体強化を用いて昔と同じ動きをする。でもその後の更なる反動で、更に動けなくなる」
そう聞いてきた蒼色は、天空島の一件もそれに関わっていると思い、顔を暗くする。
ザップだけは「気にしちゃダメだよ。スティエットは気にされる方のが辛いんだからね。察しちゃうから普通通りにするんだよ」と説明して、蒼色の為にも自分1人で大鍋亭に顔を出すことにした。
そこにミチトの代わりに無限術人間真式として力を奮うロゼと、ロゼだけではやり過ぎてしまうからと、お目付役としてジェードとタシアがついて行っていて、この日はヤミアールの地滑り跡地を直して騎士団の稽古をつけてきていた。
「あれ?ザップさんだ」
「こんにちは」
「1人ですか?蒼色さんは?」
「やあ、こんにちは。今日はどこに行ったんだい?蒼色はドリータンさんと王都でお茶会さ。僕達には無限に近い時間があるから、適度に離れていつまでも仲睦まじく居たいからね」
ザップは「君達も大人になったから、意見をくれないかな?」と言って本の話をすると、示し合わせたようにタシア達は「ヨシさんの結婚式くらいまでなら本にしていいですよ」と返す。
ミチトは「えぇ?書かないのは?」と嫌そうに言うが、ロゼは「父さん、それはダメだよ。皆が父さんの活躍を見て、自分も頑張ろうって思うんだよ」とイブとミチトを掛け合わせた顔で言い、ジェードが「だよな。父さんの話って、母さん達の話を統合してなんとかわかってるけど、全部知りたいよな」と続くと、最後にタシアが「ザップさん。お父さんの話はラージポットに到着して、お母さんと出会ってから、それまでは触りだけにしてください。後はヨシさんの結婚式まで…書けても僕達が大人になったお祝いで、一度だけ本気のお父さんが相手をしてくれた時、僕達の誰1人もお父さんに敵わなかった時までです」と言い、ロゼとジェードはうんうんと頷く。
ザップは頷いて「理由はわかるけど聞いてもいいかい?」と言うと、タシアは「お父さんはいつまでも僕達のお父さんだからです」と言う。
この返しにザップは「そうだね」と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます