第2話 ミチトと子供達の本気の戦い。

ザップの話を聞いたヴァンが、「ザップ様、それって…」と言うと、ザップは「ああ、スティエットが最後に全力で動いた日、その日を境に加速度的に下り調子になった。そんなスティエットの話は誰1人残したく無かったんだ」と言った。


そのまま穏やかな顔のザップは、「勿論、誰1人衰えたスティエットが嫌いな訳ではない。それこそ、その先を大事にしていて、家族だけの話、人目に晒したく無かったのさ」と続ける。

ヴァンは本を見たが、子供達が全力で挑んだ日についてはどこにも書かれて居なかった。


「それはリナさんとイブさんが書かないで欲しいと言ったからさ。無理な身体強化の反動が出始めて、隠れて辛そうにするスティエットが、子供たちに贈った最後の本気。それなのに善戦出来たのはタシア君とジェード君だけ、まあメロさんはその前にスティエットに善戦していたけどね。それこそ無限術人間真式だったラミィさん、トゥモ君、ロゼ君は不甲斐ない結果に心の底から悔しがったんだ。不思議なのはさ、ロゼ君はジェード君に勝てるのに、スティエットの余裕を剥がしたのはジェード君なんだよね」


ヴァンは不思議そうに話を聞いて、「ありがとうザップ様」とお礼を言う。

師匠の顔で「いや」と言ったザップは、「でも僕も見てみたいと思う時があるよ」と言う。


ヴァンが不思議そうに「何をですか?」と聞くと、ザップは先日転生術で蘇ったミチトが見つけた、トゥモ・スティエットがミチトに宛てて書いた古代語の手紙を取り出して、「あの見ているだけで涙が出てくるような尊い戦いを、古代語で書いてある書物さ。僕はね、あの日を思い出す度に、「後1人居れば」と思うんだ」と言う。


「後1人?」

「そうさ。スティエットの子供達は皆、各々の別々の道に進んだ。だから後1人、あの日の戦いにキーマンになる誰かが…、それこそスティエットのような器用貧乏が居てくれたら、結果は全く違ったと思う。そうしたらスティエットは無理な戦いをせずにキチンと引退をして、奥さん達と平和に過ごしたはずさ、誰も勝てなかったからスティエットは皆の目を盗んで戦いをやめなかったからね。スティエットを見送るイブさん達の、悲痛な顔は今も忘れられないよ」


ヴァンは本をめくり返しながら「それはシヤ・トウテや、ナハト・レイカーですか?」と質問をする。ヴァンは2番弟子や最恐に登り詰めた弟の名を出したが、ザップは「いや、1番弟子のクラシ君でも無理だね。まだタシア君なら、ナハト君やイイヒート君と組めばマシかも知れないけど、それでは2人だよね?1人ずつだとその2人ではダメさ」と言った。


「誰なら?」

「術人間同士の戦いに参加できて、広い視野で周りを見渡し、それぞれの領域に入り込んで、心を動かせる存在、そんな子は居ないね。それこそ本当にスティエットのような器用貧乏さ、一度スティエットに聞いたんだ。ロゼ君達の敗因についてね。どうしてジェード君に勝てるロゼ君ではスティエットに敵わなかったのかをね」


ロゼ・スティエットは、アルマ・カラーガとマアル・カラーガを加えた戦いではジェードにかなわなかったが、12歳の時には勝利していた。そのロゼが何故ミチトに及ばなかったのか。ヴァンも不思議に思って「ミチトさんはなんて?」と聞く。


ザップが「ふふ」と笑うと、「「簡単ですよ。トゥモで言えばサンダーデストラクションにこだわり過ぎていて、勝手に選択肢を捨てる。ロゼもです。ロゼは逆に手数…手札と言ってもいいですね。多彩な攻撃に拘って攻めきれません。ラミィはトゥモに近いですね。遅くにアクィに懐いてしまったからか、イブに近いバトルスタイルなら良かったのに、アクィを真似て不利になりました。その点、タシアとジェードは俺の理想に近い育ち方をしてくれました。自身のスタイルを見つけたジェードは、徹底して滑走連斬を極めたし、アルマと組んで特訓をして、アルマに道を示す中で正解を見つけたから、対術人間戦闘が上手いんです。タシアは術が嫌いでもキチンと使い分けた。だから無限斬にサンダーインパクトを重ねて、俺のサンダーデストラクションを全て受け流した。あれは背筋が凍りましたよ」と言っていたよ」


「トゥモ・スティエットは、確かにサンダーデストラクションに拘ってますよね。その手紙にもありましたよね」

「ああ。本当、スティエットの子供達は、皆スティエットに似たのか頑固だったからね。コード君は無限機関で勝ちたくて、スティエットのリズムを奪い取って無限機関に持ち込もうとして逆にやられてたね」


「シア・スティエットは?」

「タシア君を真似て術も使えば良かったのに、最低限しか使わずに手数で負けたよ」


「他の子供達も聞いていいですか?」

「うん。ベリルさんはオールラウンダーだから術攻撃と体術で攻め込んだけど、全てを相殺されて手も足も出なかったね。フユィさんはメロさんを真似たスタイルにしてやられていたよ」


ヴァンは楽しげに聞きながら、古代語でメモを取ってザップに提出する。ザップは「ウヒョー」と喜びながらヴァンのメモを取って、「憎いね。ヴァンは僕の喜ぶ事を欠かさない。まるでスティエットだね」と笑う。


そこにヘトヘトになったコーラルが戻ってきて、「まだやってる。帰りましょう?」と声をかけてきた。


ヴァンは「うん」と言って立ち上がると、「ザップ様、また」と言って手を振って帰る。


転移術で消えながらコーラルが「え!?ミチトお爺様と子供達の戦い?ずるいわ!聞かせて!」と言っていて、それが聞こえたザップは嬉しい気持ちで見送りながら、「スティエット、君の生きた道はとても素晴らしいよ」と言っていた。

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