第3話 ヴァンとコーラルの暮らし。
ヴァンはコーラルとヤミアールの自宅に帰ると、「コーラル?なんでそんなにヘトヘトなの?」と声をかける。
コーラルは風呂の支度をしながら、「おじ様がセレナに術や技を仕込むついでに、シャヘルやユーナとも模擬戦しろって言われて、ペトラさんまで駆り出されてきて、これでもかと戦わされたわ」と言う。
「楽しかった?」
「それはそうよ。ヘマタイトとペリドットも来たかっただろうけど、2人とも手が離せないから来れなかったわ」
本当に楽しそうなコーラルの声が、よくわかるようになったヴァンは、「良かったね」と言った後で、「んー…、なんか気になるんだよなぁ」と言う。
コーラルはバスタブに水の術で水を張ると、火の術で温めながら「何?どうしたの?」と聞く。
ヴァンは夕食の用意をしながら、「オルドス様って根回し派なんだけど、わざとバレバレな事をするし、初めは術人間になったセレナの為って雰囲気だったけど、今はコーラル達の為って感じだし、…んー…この流れは俺が聞きに行く事が求められているのかも」と言う。
コーラルはヴァンの先読みを信じているし、オルドスとの会話運びも認めている。だからこそ「なにそれ?」と質問をする。
ヴァンは「それなんだよね」と言ってから、「なんか嫌な予感はしてるけど、当たってほしくないから口にしたくないと言うか…」と言ってトーンダウンしてしまう。
コーラルが「言うか?」と拾うと、ヴァンが「このまま放っておいて大騒ぎになるのは嫌だし、まあ1番は俺が外れて「バカだなー」って、ペリドットとかシャヘルに笑われて、セレナに「そんな事ないよー」って言われるやつなんだよね」と言う。
嫌に具体的なヴァンのコメントに、コーラルが心配そうにしていると、「コーラル?温め過ぎじゃない?」とヴァンが聞く。
コーラルは慌ててバスタブを見ると、グラグラと煮えたぎってしまっているお湯。
コーラルは「え!?あ!」と慌ててバスタブから離れると、跳ねたお湯が頬に当たって「熱っ」と言っていた。
「コーラル!?火傷したの?」
ヴァンが慌ててコーラルに近づいて、「どこを火傷したの?」と言って、コーラルが頬を指さして「ここ、赤い?」と聞いてくる。
元々コーラルは男子とこんなに近づくタイプではないが、今は失敗した転生術五式の影響で、亡くなったヴァンの妹、リット・ガイマーデと少し混じってしまっていて、ヴァンを兄に近い感覚、家族として認識しまっていて、顔を近付けても照れる前に火傷を見せてしまっている。
「あーあ、赤いよ?コーラルの綺麗な肌が傷になるよ…。俺もヒールを使えたらいいのに」
ここまではきょうだいの会話。
だが、ヴァンの「綺麗な肌が」の言葉に、コーラルとしての意識が芽生えて、真っ赤になってヴァンを見てしまう。
ヴァン自身は伝説のスティエットの子孫で、見目麗しいコーラルが自分と何がある訳がないと思っているので何も考えていない。
それでも真っ赤に照れて見つめてくるコーラルを見れば、ヴァンも照れるし赤くなる。
ユーナ・スティエットの模真式であるセレナに、「ヴァンとコーラルは一緒に住んでるんだよね?なんかこうロマンスはないの?」と聞かれて、「何言ってんの?綺麗なコーラルと俺に何かあるわけないじゃん。目覚めたコーラルと居たから一緒にいるだけだよ」と返しながら、ロマンスについて考えてしまったこともある。
それを思い出したヴァンは、照れながらコーラルの頬を指さして、「ここ、コーラルなら術で見えるよね?ヒール使える?」と言って治させると、「コーラル、明日はラージポットに行こう。やっぱり気になるよ」と言った。
コーラル自身、自分の変化に気付いていて未知の自分に驚いている。
ユーナの所で今日みたいに訓練をしている時の休憩なんかでは、女性同士としてセレナと話す事が多い。
突然セレナから「コーラルとヴァンって恋人同士?」と聞かれた日は驚いたし、驚きながら「そんなのではないわ」とコーラルは返す。
「ふーん。平民は嫌なの?」
「私はサルバンでスティエットよ?そんな事は思わないわ」
コーラルの貴い者の顔に、セレナは「なら付き合っちゃいなよ。お似合いだよ」と言うと、真っ赤になったコーラルは平常心を装って、「もう、ミチトお爺様は慎重な方なのよ?そんな短慮はよくないわ」と言って誤魔化した。
そんな話の後でヤミアールの家に帰ってきて、2人で料理や食事を楽しんで、ヴァンはかならずコーラルに、「女の子なんだから先入りなよ」とお風呂を勧めてくれる。
そもそも父母が生きていたら怒られただろう。
だがヴァンは貴族と平民を別にしても紳士的で、決して変な真似はしない。きっとグラスなら「姉様にもいい人がいて良かったわ」と言い、オブシダンも「まさかアクィお婆様に似た姉様とうまく行くなんて、ミチトお爺様みたいな人だね」とヴァンを褒めるかも知れない。
最近は気を抜くとこんな事ばかり考えてしまう。
ミチトは平民でアクィは貴族。
ヴァンも平民で自身は貴族。
仮にそうなってもおかしな事はない。
自身が転生術の失敗でリットと混ざった事は自覚している。オルドス達の前では気丈に振る舞うが、食の好みが若干変わり、中部の味付けで育ったのに、北部の味付けを急に食べたくなって、ヴァンとオウフまで食事に出かけた事もある。
気を抜くと一歳下のヴァンを兄に見てしまう時もある。
だがリットの気持ちの他に別の気持ちがある気もする。
ヴァンには戦闘力はない。
それなのに、転生術でかりそめに蘇ったミチト相手にも引く事なく前に出て、最良へと導いた。
今、自身の周りにスティエットが集まっているのもヴァンのお陰だ。自分1人ならヘマタイトとこんなに早く打ち解けるなんて無理だし、ペリドットとも顔を合わせて終わりだった。シャヘルに関して言えば、話も聞かずに捕らえようとして二度と会えなかった。そしてユーナもセレナを救えないと早々に諦めてしまった。
コーラルは1人の男としてヴァンを認めていた。
そのヴァンがオルドスの行為に疑問を持った。
これは何かあるのかも知れない。
だがまあいい。ヴァンと自身と現世のスティエット達が力を合わせれば、勝てない敵は居ない。
コーラルはゆったりと浴槽の中でそんな事を考えていると、「コーラル?寝てる?いつも以上に長湯してるよ?俺も早く入りたい」と聞こえてきて、慌てて浴槽から出て姿見を見てため息をつく。
「アクィお婆様のような戦いやすい体つきがいいのに、イブお婆様譲りだなんて…、また胸が重くなったわ」
それは愛の証の中のアクィにも聞こえていて、「憎い!何年経ってもイブの胸が憎い!」とアクィは怒っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます