第23話 3人の真式。
トゥモはヴァンの「トゥモは最後ね」といった指示に頷いて、「わかってる。キレたパパがやらかす瞬間だ。確認を兼ねる。まだ呼ぶが耐えられるか?」と聞くと、ヴァンは「耐えるしかない。勝つために俺をここで壊してもいいんだ」と言って、真剣な表情で戦場を見渡した。
「馬鹿野郎、何度も言わせるな。この孤高がそんな真似させるかよ。召喚術の多重使用は消費が苦しいはずだ。ウシローノさん達を下げないと次は呼べないぞ?」
「増幅術を使うから平気。ユーナ達は再度アゲースを逃がさない為に使うよ」
増幅術と聞いたトゥモは、一瞬の間に問題点を思い出して「増幅術って俺は使えたけど、お前はなんで使えるんだ?」と聞く。トゥモが8割と認識していたのは自分にしか使えなかったからだった。
ヴァンは想像通りの会話に「あはは」と笑うと、「トゥモが天才だからわからないんだよ。総量を過剰に超えたり、術者が扱えない増幅量は身体が拒絶する。だから増幅の倍数を8倍なんかに設定しないで、術者にあわせた任意発動にするんだ」と説明をした。
それはトゥモもかつて思案をしたが、本能的に制限する事は自分の求めた結果にならなかったので放棄をしていた。
「だけどそれだと弱…」
「弱くないよ。俺みたいに弱い奴が使っても強いんだ。孤高の魔術は本当にどれも禁術レベルだよ。俺はそれもあって限界が邪魔をするから俺を壊した。今の俺に限界はないよ」
自分が思案した増幅術を完成させるために、この戦いを勝利に導くために自分を壊して、限界値を無視したヴァンの気持ちにトゥモは感動しながら、「コイツ…、なら見てやる。見ず知らずだが孤高の本気だ、子孫が相手だから血の流れから無理矢理見つけた。使って見せてくれ」と言った。
「うん!増幅術!召喚術!オブシダン・スティエット!グラス・スティエット!」
コーラルはアクィとタイマンを張る。
「あなた…この前のレイピア使い」
「はい。お婆様…アクィさん。真剣勝負です」
コーラルはアクィを見て、愛の証を思い出して、あのアクィとは喧嘩別れに近い感じで終わった事を悔いていた。
コーラルは真剣な顔で「我が名はコーラル・スティエット!アクィ・スティエットに真剣勝負を申し込みます!」と言うと、アクィも周りへの気配りをやめて、「その勝負、受けましょう。我が名はアクィ・スティエット!貴いものの1人としてコーラル・スティエットとの真剣勝負を受けます!」と言ってタイミングを伺うと、2人同時に切り掛かった。
実力はまだアクィには及ばない。
それは仕方ない。コーラルはまだ15歳。
アクィは全盛期、ミチトの手で究極の術人間になった時の姿で、経験値は死の間際までのものを持っている。
「ちっ、相手が真式でなければ、圧倒してミチトの元に行けるのに」
「真剣勝負中に他に気をやるなんて、貴い者のする事ですか?」
コーラルは必死にアクィに食いつくがそれでも届かない。
真式の才能対模真式の経験。
更に平和な世の中を生きる人間と激動の世の中を生きた人間の差。
正直コーラルが後2人は欲しい。
そう、3人。
ヴァンは既にそれを見抜いていてグラス達を呼んだ。
「いい加減引き離す!身体強化!軽身術!二刀剣術!」
「負けません!身体強化!軽身術!二刀剣術!」
コーラルとアクィが二刀剣術を打ち合うタイミングで「ウインドブラスト!」「アースランス!」と聞こえてくる。
突然の横やりにアクィが「え!?」と驚き、コーラルは「誰!?」と言って振り返ると「…グラス?オブシダン?」と言った。
「姉様、助けに来たよ」
「姉様、3人ならアクィお婆様にも負けません」
オブシダンはスカロの剣、グラスは自身のレイピアでコーラルの横に立つと、「嬉しいよ、姉様と真式として肩を並べて戦える」、「本当、姉様より私たちの方が年上だけど姉様は姉様。一緒に戦えて嬉しい」と言ってアクィを見る。
アクィは目を丸くして「くっ…真式が増えた」と言う。
「我が名はオブシダン・スティエット!我が姉コーラルの戦いに参加する!」
「私の名はグラス・スティエット!推して参ります!」
オブシダンとグラスが走り出すとコーラルが慌てて後を追う。
「姉様!姉様に僕達が合わせる!好きに動くんだ!」
「一緒に戦えて嬉しい!スティエットとしてもサルバンとしても、もちろんレスとしても嬉しいわ!」
コーラルは泣かないようにしながら、「私もよ!会いたかった!会えてよかったわ!」と言って前に出るとアクィに斬りかかる。
アクィは動きを止めるわけにはいかないので必死に剣を弾く。
「オブシダン!」
「言われなくても!」
オブシダンはアクィのレイピアを折るつもりで果敢に攻め込む。
「姉様!私が術をつかうわ!」
「任せるわグラス!」
「何このコンビネーション!?イブとサルバン騎士団を合わせたような…くっ!?」
アクィは一気に形成逆転で、禁じ手の拳や蹴りまで放ち、術も放つが真式達は見事に相殺していく。
「姉様!あのヴァン君はいい男だね!」
「姉様にお似合いよ!」
コーラルは2人の言葉に真っ赤になりながら、「当然よ!」と言って加速するとアクィに二刀剣術を叩き込んだ。
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