第13話 鳥になった少女の奇跡。
目を開けると見知らぬ天井があった。
「あれ?ここ?俺?」
何が起きたかを思い出そうとしても思い出せない。
起きあがろうとするが身体は動かない。
ひどい眠気に襲われて眠ると夢を見た。
目の前には穏やかな顔の少女がいて、呆れるように「もう、せっかちなんだから」と話しかけてくる。
知っているのに思い出せない顔。
思い出せずに居ると、「寝ぼけてるでしょ?キチンと目を覚ましてお兄ちゃん」と少女が言った。
「お兄ちゃん?」
「そうだよ。お兄ちゃんはヴァン!ヴァン・ガイマーデ、私はリット、リット・ガイマーデ!まだ思い出せない?」
リットの声が聞こえたヴァンは、すぐに頬を叩いて「リット!どうした?」と言って駆け寄る。
リットは呆れ顔のまま「どうしたじゃないよ!覚えてる?ミチト・スティエットに喧嘩売って、身体貫かれたんだよ!」と説明をすると、ヴァンはそこで何があったかを思い出して、自分の胸を見るが穴なんて空いてなかった。
「あれ?穴?夢だから?」
「違うよ。コーラルお姉さんが治してくれたからね。ちゃんと起きたらありがとうを言う事!後は私もズルをしたからよろしくね」
ヴァンが「え?おい!リット!」と言ったが、リットは「ほら行く!私は鳥になったよ!鳥だから、天からお兄ちゃんを見守る!安心して!約束通り守ったよ!」と言うと、リットは鳥のフォルムになって飛んで行ってしまった。
ヴァンはポツンと取り残されてしまい、「んー…、これって、ミチトの本にあった死の淵かな?」と余裕の顔で、「まあ起きるかな。コーラルなんて責任感じて泣いてそうだし」と言うとシレッと目を覚ました。
起きると今度は普通に動けそうだったが身体が動かない。訝しむヴァンは何故か普通に術を使う。
「遠視術……うわ、縛られてる。なんで?」
声を張ろうにも周囲に人の気配もない。
「仕方ない…広域伝心術。コーラルー、セレナー、ユーナー、ヘマタイトー、ペリドットー、シャヘルー、誰でもいいからこれ解いてよー」と言うと、直後に地響きのように部屋が揺れると、扉からコーラル達が駆け込んできて「ヴァン!」「起きたか!?」と皆が声をかけてくれる。
「にへへ、おはよう」と笑ったヴァンは、目に涙を浮かべるコーラルに「コーラル、あんがと」と声をかける。
「ヴァン?」
「俺は模式になったんだろ?セレナと同じ模真式だよね?」
コーラルは一瞬顔を暗くして、「ごめんなさい、助けるにはそれしかなかったの」と謝る。
「何謝ってんの?助けてくれてありがとう。オルドス様も酷いよね。ここまで先読みしてんだもんね」
ヴァンの言葉に、コーラルが「え?」と聞き返すと、ペリドットが「てかお前…、なんでスレイブになったのにマスターにタメ口?」と言い、ユーナがセレナを見ながら「そうだ。セレナだって支配力を最低にするまでは…」と疑問を口にする。
ヴァンは「ああ、リットだよね。コーラルの中に居たリットが、術人間化の時にズルをしてくれた。さっき死の淵で会ったから何となくわかるよ」と説明をすると、ヘマタイトが「ヴァン君?その…雰囲気が異様なのですが?」と言って心配そうにヴァンの顔を見ると、「ヘマタイト?そうかな?まあそうかもね。コーラルが俺を助けてくれた時、リットも命をくれた。リットはコーラルと混ざっていた。その命が俺に来た。だから俺は俺のままでいられている」と言う。
「それは妹に教わったのか?」
「違うよシャヘル。なんとなくわかる。わかるんだよ。ここはどこだろう?空気の感じだとドウコだよね?ラージポットに行くのはシャヘルが止めたよね?オルドス様は何も悪くないよ」
「お前、何がどこまでわかってるんだ?」
「ペリドット、心配してくれてありがとう。オルドス様はもうだいぶ無理をしてくれたんだ。可能な限り現世に介入してくれた。多分昔も真式未満が居たんだよ。多分オッハーかな?それでアゲースみたいにミチトさんを呼び出そうとした。でも失敗させる為にも、シャヘルのお爺さんや、プレナイトさんが召喚術で先にミチトさんを呼び出したんだ。今回もユーナを助ける為に俺がミチトさんを呼ぶように仕向けた。ペトラさんも言ってたよね?1日で消えるはずのミチトさんが愛の証に居たって話。あれもオルドス様が術供給をしたんだと思う。多分アゲースはあの日に炎命術を使ったんだ。でも失敗した。だから時間が稼げたんだ」
ヴァンは言うだけ言うと「そうですよねオルドス様。オルドス様、後はごめんなさい。コーラル達が誤解してごめんなさい」と天に向かって言う。
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