36.俺の顛末2/2

「それと、ロンディネ公国の辺りで犯罪組織を壊滅して、村を救いながら南へ移動を続けた救世主デリオーって、リオさんのことじゃないかと俺たちは考えてるんだけど。」

「・・・。」


「リオとデリオーは同一人物じゃないかって一時期話題になってて、足跡そくせきを追えば追うほどリオさんだと思ったんだよね。

アランシアが英雄リオを探し始めた途端に足跡そくせきが消えた。その直後にロンディネに救世主が現れた。武器はマチェット。

ロンディネの国境近くの街に、英雄リオがショートソードからマチェットに買い替えたって店が観光スポットになってたよ。

俺たちはそこに行ってみたんだけど、その時に引き取ったショートソードは間違いなくリオさんのものだった。」

「なんてことだ・・・。」


「その後、リオさんの偽物が出たとかで、リオさん以外のリオという登録名の冒険者は全て見つけ出して登録名を変えさせられてる。」

「・・・。」



「ヌーボラで冒険者ギルドに登録した時、リーベルタが故郷で故郷に行きたいと言っていたって聞いて、俺たちはリーベルタを目指して、やっとだよ。やっと見つけた。」


「ディシデーリオ、お前の冒険者ギルドカードを見せろ。」

カノンの兄に言われて、俺は鞄からギルドカードを取り出して渡した。



「リオ・・・。

私もリオ本人以外のリオという名前は冒険者ギルドに登録できず、登録した者は全員名前を変えさせられたという話は知っている。しかもSSランクか・・・。」


「ディシデーリオ、あなたが英雄リオなの?」

「いや、俺は過去にリオと名乗っていたが、英雄ではない。」


「救世主デリオーもあなたなの?」

「いや、デリオーと名乗っていたこともあるが、救世主などではない。

本当にやめてほしい。俺はそんな人間じゃないんだ。生きていることですら罪なことなんだ。例え誰の役に立ったとしても、あなたへしたことを消せはしない。」


「もう一つだけ聞かせて。勇者オリーデもまさかディシデーリオ、あなただったりしないわよね?」

「・・・やめてくれ、本当に勇者なんかじゃないんだ。」


「やっぱりそうだったんだ。そこはさすがに信憑性のない噂だとも思ったけど、そっか。」



「ふぅ、世界各国からその存在を知られていながら、本人には自覚がない。更に本人を知るものも僅かだから噂が一人歩きしやすい。ということか。

ん?だとすると、朝晩、空に向かって涙を流しながら祈りを捧げているという美徳とも取れる噂の真相は、まさかさっきカノンが言っていた毎日カノンへの懺悔を欠かさなかったというアレか?」

「それは・・・そうです。

誰にも見られていないと思っていたのに、誰かに見られていたなんて・・・」



「そうか。それならそのエリクサーも本物ということだな。カノン、飲んでみるか?怖いか?」

「ディシデーリオが私のために用意してくれたエリクサー。飲むわ。」


彼女は白い箱を開けて瓶を取り出すと、蓋を開けて一気に飲み干した。

すると彼女の身体から眩い光が発せられ、やがて収まった。


「ど、どうだ?エリクサーと言えど、さすがに速効性は無いか。」


彼女は恐る恐る足を一歩踏み出した。

そして二歩、三歩と歩みを進める。


俺は彼女の足取りが不安で立ち上がった。



「嘘。凄い。」


そう言うと、彼女は走り出した。

そして、何かに躓いて転びそうに。


俺は一瞬で彼女の元に駆けると、倒れる彼女を抱き止めた。



「ディシデーリオ・・・ありがとう。」

「いや、俺は・・・あなたに感謝されるような人間じゃないんだ。俺はあなたを苦しめた。」


「もう、そんなこと言ってはダメよ。あなたはもう十分罪を償った。

ずっと私のために、人のために頑張ってきたの。

これからは、あなたが幸せになる番よ。」

「しかし俺は・・・。」


そう言おうとする俺の口に、彼女は人差し指を当てた。


「その先を言うのは禁止よ。」

「う・・・、俺はどうすれば・・・。」



「これまで、私のために死のうとしたんでしょう?

それなら、これからは私のために生きて。」

「分かった。俺はあなたのために生きよう。あなたに生涯を捧げる。」


「ふふふ、何だかプロポーズのセリフみたいね。」

「いや、俺は。あ・・・。

すまない。そのような恐れ多いことを言ったつもりはなかった。それに、あなたのような素敵な人は、既に素晴らしい誰かの元へ嫁いでいるだろう。」


「いいえ、私は誰の元へも嫁いだことはないわ。」

「そうか。やはり俺のせいで・・・。」


「いいえ、違うわ。きっとこの日のために、私は誰の元へも嫁がなかったのよ。

ディシデーリオ、あなたに会うために。」

「そんな・・・。」



「お兄様、私、ディシデーリオの元へ嫁ぐわ。いいでしょ?」

「はぁ。まぁ昔のディシデーリオでないことは分かった。各地でこれほどの功績を重ねてきたんだからな。」

「いえ、ダメです。俺ではあなたを幸せにできない。もっとあなたには相応しい人がいるはずだ。」



「そう・・・。ディシデーリオ、あなたは私の求婚を断るのね。」

「そんなことは・・・。」


「あなたはもう、私のことは好きじゃないのね。」

「いえ、好きです。」


「私に生涯を捧げると言った言葉は嘘なの?」

「嘘じゃない。

俺はあなたの下僕か奴隷になろうと・・・。」


「そんなのダメよ。

ディシデーリオ、私の夫になって。そしてこれからずっと私のことだけを愛して。お願い。」

「わ、分かった。あなたの願いを叶える。

俺は、永遠にあなたのことだけを愛し続けます。」



「ディシデーリオ、あなたは本当に・・・。

心配しないで。私のことを幸せにしようなんて気負うことはないわ。

2人で一緒に幸せになりましょう。」

「こんな俺でも・・・幸せになっていいのか?」


涙が頬を伝った。

彼女を見ると、汚い男の泣き顔を見て微笑んで頷いてくれた。


こんな俺に、あなたは微笑んでくれるのか?

こんな俺が、彼女と結婚?

いいんだろうか。


でも、彼女の願いだ。彼女の願いはなんとしてでも叶えたい。

一緒に幸せになろうと言ってくれた彼女を、今度こそ必ず守り抜くと誓おう。

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死にたがりの英雄 〜俺の間違いだらけの人生〜 たけ てん @take_ten

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