25.3度目の緊急クエスト


その後すぐにギルマスからワイバーンの群の内訳と出発が告げられた。


今回討伐に参加するのはCランク以上の者で50名ほどになった。数は確認できたのは10体だそうだ。



いざ進み始めると、遠巻きに俺をジロジロを見る奴らの視線を感じた。

なんだ?俺のような者が一緒なのが気に入らないのだろうか。そうだとしたら申し訳ない。



「お前らなんだ?言いたいことがあるなら言え。」


どうやら気付いていたのは俺だけではなかったようだ。



「ギルマスが見かけない奴に一目置いているのが気になった。それにカルドが大人しいしあんたに従っているようにも見えた。あんた何者なんだ?ランクは?名前は?」


「どうする?ここなら騒ぎになったとしても討伐に参加する者たちだけだが。」

「・・・。」


「何だ?貴族か?偉い人か?」

「貴族などではない。俺の名前は、リオだ。ランクはさっきAになってしまった。」


「は?ちょっと待て、その名は冒険者ギルドで登録が禁止されているはずだ。」

「あれか?リオと名乗る冒険者がこの街に来てギルドに連れて行かれたと言うのはお前か?」


「まぁ、そうだな。確かにそれは俺だ。」

「お前ら、街で騒ぎになるようなことは絶対にするなよ。約束しろよ。

この方は英雄リオ本人だ。騒ぎになるようなことは望んでいないんだ。」


とうとうギルマスが俺に最も似つかわしくないその称号を言ってしまった。


俺は英雄などではない。そんなわけがないんだ。

みんなが俺に向ける目が、痛くて苦しい。そんな目で見ないでくれ。

蔑んだ目で見てくれた方がまだマシだ。



一瞬静まり返ったあと、ワアァァァアと歓声が上がった。


「俺、英雄リオに会ったなんて一生の自慢だ。」

「英雄リオの戦いが見れるのか?」

「この街に来てよかった。」

「意外と細いんだな。もっとゴツいのかと思っていた。」



居心地が悪すぎる・・・。

行方知れずになって長いから熱が冷めてきているという話はどこに行った?

これも試練。きっとまだ俺が生きていることへの罰なんだろう。


「すまんなリオ。巷では確かに今は救世主伝説が人気だが、やはり冒険者や戦いを生業とする者たちにとっては、英雄リオは特別なんだ。」

「・・・。」



街道を南に1時間ほど進み、山に向かって森を進んでいく。

3時間ほど進んだだろうか。ようやく山の麓に着くと、一旦休憩となった。

休憩が終われば、山の中腹にある洞窟に棲みついたワイバーンたちを開けた場所まで誘い込んで討伐するそうだ。


そして、俺の前には握手を求める行列ができた・・・。

無だ。何も考えまい。心を無にする。そうしてしばらく耐えると、やっと解放れたが、俺は輪の中心に座らされた。



「どうやってここまで誘き寄せるかが問題だな。」


そうギルマスが言う。

誰かが囮になるという案が出たが、それは却下された。

やはり近付いて洞窟に向かって焚き火の煙を向けるのがいいだろうという決断に至ったが、みんなが一斉に俺を見た。



「リオならどうする?」

「俺1人なら火球をいくつか洞窟に放り込んでワイバーンが出てくるのを待つ。」

「なるほどなー

よし、それにしよう。反対のやつは手を挙げろ。」


誰も手を挙げなかった。



「いいのか?他の人の仕事を取ってしまうんじゃないか?」

「そんなことリオが気にすることはない。戦う時には少しばかりみんなに譲ってもらえるとありがたいが。」


「分かった。やってみよう。」



俺は火球を3つほど出すと、ワイバーンが棲みついた洞窟に向かって風を使って勢いよく放り込んだ。


勢いをつけすぎたか?

ワイバーンだから火力も高め、風も久々に使ったら、洞窟の奥までいった火球が壁に当たって弾ける音がして、慌てたようにワイバーンが続々と出てきた。


そして、ワイバーンが飛び立って少しすると、音を立てて洞窟が崩れていくのが見えた。



「さすがリオ。ワイバーンを誘き寄せるだけでなく住処も同時に潰すとは。」


「「「スゲー!」」」


「・・・。」


別に意図したわけではないんだが。

迷惑をかけなかっただけまだマシか。


ワイバーンはかなり怒った様子で空を旋回している。

犯人を探しているんだろう。



「弓!魔術師!ワイバーンを撃ち落としてくれ!」


ギルマスが弓が使える者と魔術が使える者を呼んでワイバーンを落とすよう言った。


「俺もやるのか?」

「リオは地上に落ちた奴を倒してくれればいい。リオばかりに負担をかけるわけにはいかないからな。」


そうだな。他の者の手柄を横取りしてはいけない。軍にいた頃は割と好き勝手動くことを許され、そして好きなように動いていたが、きっと冒険者という職業は決まった給与など無い。

手柄を立てなければ、今日食う飯にも困るんだろう。俺は金など必要ないから他の者が危ない時だけ手を出せばいい。


ギルマスの指示に従って弓や魔術をワイバーンに飛ばす者たちを見守った。



しかし、弓や魔術を使える者がワイバーンを撃ち落とすことは難しそうだった。

やがて、俺たちを見つけたワイバーンが、俺たち目掛けて攻撃を仕掛けてくるようになった。


あいつらは魔術などが使えるわけではないが、急降下してその鋭い爪や嘴で、攻撃を仕掛けてくる。


弓や魔術を撃つ者は、剣を構えながら撃つわけではないから、近接戦はできない。



俺は弓を持った奴に攻撃を加えようと急降下してきた個体を、駆けつけてロングソードで受け止め、飛び上がる前に片方の翼を切り落とした。


ギャアァァァァァア


暴れ回るワイバーンのもう片方の翼も切り落とすと、カルドを呼んだ。


「カルド、こいつの相手を頼む。」

「分かった!」


「他の奴らもカルドを援護しろ!」

ギルマスが指示を飛ばした。


「ギルマス、今のは1体だから防げたが、空から一斉攻撃をされたら不味いぞ。全部地上に落として全員で当たるか?」

「だよな。今のは正直リオがいなかったらあいつは大怪我をしていた。俺も、他の誰も動けなかった。

リオ、すまないがもしできるのならワイバーンを落としてくれると助かる。」


「分かった。」


俺は空に向かって風の刃を飛ばした。

翼を根本から切断していくと、どんどん地上にワイバーンが落ちてくる。


冒険者の皆がワイバーンに向かって行くのを横目で見ながら、危なそうな箇所は風を放ってワイバーンを押し返したり、風の刃を飛ばして援護したりした。



全てのワイバーンの翼を切断して落とすと、誰も対応していないワイバーンを一気に片付けて回った。

使えなければ鈍らなまくらだと言われたこの剣は確かに丈夫だった。

さっきも急降下したワイバーンの爪を受け止めても大丈夫だったし、硬い足を切断することもできた。


鈍らなまくらかは分からないな。ただ俺の力押しで何とかなっているのか、使えているのかも分からない。



俺は戦わないで何やらメモを取っている受付の奴のところまで引いて、皆の戦いを見守った。

たまに危ないところにだけ風を飛ばしたが、それだけだった。

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