26.出立を阻まれる


「リオ、姿が見えないと思ったら引いていたのか。」

「あぁ。皆の手柄を横取りするのはよくないからな。」


ギルマスも引いて俺のところまで下がってきた。



「ギルマス、リオさんは引いていますが、この位置から危ない箇所を見つけては風魔術を飛ばして皆を援護してくれています。」

「そうなのか。やはりリオは凄いな。戦いをもっとじっくり見たかったが、最初の爪を受けて翼を切り落とすところが見れただけで、ここにきた甲斐があった。」


「そうですね。リオさんは誰も相手していないワイバーンを一瞬で倒していましたから、しっかり目で追っていないとその瞬間を見るのは難しい。」

「俺も戦わずに見ておけばよかった。」


俺の戦いなど見たとしてどうなるんだ?

カルドも見たいと言ったから見せはしたが、最小限の動きで倒す俺の動きなど見ても、面白くはないだろう。


もっと綺麗な剣捌きをする者の動きを見たらいいと思う。



「それでリオが単体で倒した個体は5体か?」

「えぇ。Bランクの方々であれば3~4人で当たってもいけると思いますが、Cランクでは10人でも厳しいところもあるので。」


「まぁそうだろうな。パーティーでCに上がった奴らはCとは言ってもCの実力がない者も多いし。」

「そうですね。弓と魔術師が思った以上に実力がなかったのは誤算でした。リオさんがいなければ、下手したらワイバーンに皆殺しにされていたかもしれません。」


「あぁ。洞窟から出すだけで犠牲者が出て、しかも半日以上かかったかもしれん。」


「・・・。」


たぶんそんなことはないと思うが・・・。

受付の奴とギルマスが話しているのを少し聞きながら、俺は皆の戦いを見守った。



もうすぐ終わるか。

大怪我をした奴はいないが、すり傷や切り傷を受けた奴は何人もいる。

俺はその場を離れ薬草を摘みに行った。


あの程度の傷ならポーションを使うまでもない。しかし魔獣から受けた傷だ、放置していいものではない。


薬草をある程度摘んで戻ると、石で擦り潰した。



「リオ、それはもしかして傷口に塗るやつか?あのオークから救い出した奴や、商人の護衛を助けた時に使ったという!」

「あ、あぁ・・・。

あの程度の傷ならポーションを使うまでもないが、魔獣から受けた傷は放置するとよくない。」


「あぁ、やはりリオだ。」

「・・・。」


なんだ?薬草を擦り潰すぐらい誰でもするだろう?ギルマスの反応がよく分からず、俺は戸惑った。


ワイバーンとの戦闘が終わるとギルマスが怪我をした者を集めた。

そいつらは俺の前に一列に並んだため、俺は仕方なく、1人ずつ水で傷口を洗って、擦り潰した薬草を塗っていった。




これで俺の役目は終わった。


「それじゃあ。ワイバーンの討伐も終わったし、俺は先に進む。」


「ダメだ。報酬を払っていない。

せっかく会えたのに、そんな簡単に逃しはしない。」


俺が先に進むことを告げると、みんなに周りを固められた。


「いや、俺は目的があるから先を急ぎたい。

俺の分の報酬はここにいるみんなで分けてくれればいい。」

「ダメだ。リオを街に無理に引き留めようとは思ってはいない。報酬を渡したら旅立っても構わないから、ギルドまではきてくれ。」


囲まれているせいで、逃げられそうになかった。


「騒がれたくないのは知っている。街に入っても騒いだりしないから。」

「分かった。」


簡単には最南端に辿り着かせてもらえないということなんだな。それも罰の一つか。

それなら、受け入れるしかない。



またオーク討伐の時のように、回収チームが来るのを待つ。


「リオ、あの剣はどうだったんだ?」

「分からん。鈍らだとは思わなかった。普通の頑丈な剣に感じた。」


「そうなのか。やはりリオほどの腕になるとどんな剣も使いこなせるんだな。」

「そんなことはない。」


俺にあるのは腕力と忍耐だけだ。

情けないことだ。

ただ人よりも軍で戦った経験があるだけ。それだけなんだ。



ワイバーンとの闘いが長引いたため、かなり皆が疲労しており、みんなその辺に寝転んだり、木や岩に体を預けて休んでいる。

俺に構ってくる者はカルドとギルマスくらいだったのは、まだよかった。


いや、そうではないか。カルドとギルマスが特殊なだけで、俺なんかと話したい奴などいないということだ。

騒がれたくないなど、俺はどれだけ自意識過剰なんだ。本当に恥ずかしい。


自分の愚かさに居た堪れない気分になり、俺はその場を離れるために立ち上がった。


「リオ、どうした?まだ行くなよ?」

「あぁ。洞窟がしっかり埋まっているか見に行くだけだ。」


適当な理由をつけてその場を離れた。



「カルド、リオについていけるか?」

「いや、さすがに今から山を登るのは厳しい。」


「そうだよな。リオは体力もかなりあるんだな。」

「あぁ。今朝はグリズリーを1人で背負ってきたしな。俺の力では1人で背負うなど到底無理だった。」


「なに?荷車は使わなかったのか?なぜ早朝に森に行ったんだ?」

「早朝に行ったわけじゃない。昨日あの後、リオを追いかけたら街を出て森に行ったから、野営に付き合わせてもらったんだ。グリズリーは夕飯のためにリオが倒してくれた。」


「あぁ、だから片腕が無かったのか。それにしてもリオと野営か。贅沢だな。」

「あぁ。貴重な経験をさせてもらった。

リオは、何事にも動じないような感じに見えるが、信仰深い人物のようだ。

朝晩、膝をついて空に向かって祈りを捧げていた。これは俺の見間違いかもしれないが、泣いているようにも見えた。」


「そうか。きっとリオも色々なものを抱えているんだろうな。」

「そうかもしれん。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る