24.新しい武器
「緊張するな。」
沈黙を破ったのはやはりカルドだった。
俺は人とまともに会話する能力などないからな。
「ん?あぁ、明日の討伐の話か?」
「いや違う。まぁそっちも少しは緊張するが、こうして憧れのリオを目の前にするとな。
色々話したいのに、何も言葉が出てこない。」
「俺なんかに緊張することはない。憧れるならもっと相応しい者がたくさんいるだろう。」
俺は底辺の底辺、地を這って生きている虫、いや、虫に失礼か、それ以下の下等生物だ。憧れを抱かれるような存在ではない。
その後はカルドにゴブリンやオークの群の討伐について聞かれたので答えた。
アランシアを出てからのことは、ギルマスが言っていたリオとデリオーが同一人物の噂があるというのが気になったこともあり、騒がれたくなくて森を移動していたとだけ告げた。
「カルド、明日はワイバーン討伐なんだ、こんなところでゆっくり眠れるかは分からないが、もう寝た方がいい。森に慣れている俺が番をしておくから寝てくれ。」
「いや、リオだけに番をさせるなど・・・。」
「俺は昔、軍に所属していたし何日か寝ないことにも慣れている。
それよりカルドが寝不足で討伐に向かう方が問題だ。」
「分かった。野営に慣れていなくてすまない。」
「気にすることはない。」
「あぁ、ありがとう。」
カルドは疲れていたのか、その後直ぐに寝入ったようだった。
眠ったことを確認すると少し離れ、空の彼女に懺悔と祈りを捧げ、そして俺も木の根元にもたれて体を休めた。
次の日は夜明け前に起き上がり、空の彼女に懺悔と祈りを捧げると、川まで行って水を汲み、グリズリーの肉を取りに行った。
どうやら昨日は魔獣も来なかったようで、グリズリーは木に吊るされたままだった。
血抜きも終わっているし、このまま持っていくか。
俺はグリズリーを木から下ろすと、背負ってみたが体格差から、どうしても足は引き摺ってしまうようだ。
仕方なく足は引き摺ったままカルドの元に戻ると、カルドが剣を構えていた。
「どうした?何か来たか?」
「あぁ、リオか。起きたらリオはいないし、獣のような影が近づいてきたから警戒していた。」
「そうか。驚かせてすまない。」
「いや、リオだけに運ばせてすまない。俺が街まで運ぶ。そして街で朝食を取ろう。夜の番もしてもらって貴重な話もしてもらったから、お礼がしたい。俺のお勧めの店があるんだ。」
「分かった。」
カルドの厚意を無碍にはできないと、俺は了承の返事をした。
グリズリーをカルドが引き取ったが、カルドには運ぶのは無理そうだった。
「俺が背負っていこう。」
「すまん。俺も鍛えているつもりだったが、全然足りなかった。いつも数人で荷車に乗せていたから、1人で担ぐのは初めてだったんだ。
リオは戦いが素晴らしいだけではなく力も強いんだな。」
「いや、重い荷物を担いで行軍することに慣れているだけだ。」
「そうか。俺ももっと鍛えるよ。」
門番にギルドカードを見せて街に入ると、偽物ではないと周知されていたのか、左右を挟まれてギルドに連行されることはなかったが、門番が握手を求めてきた。
俺の手なんかに触れたら汚れるだけなのに。
居心地が悪くて、そして息苦しくなった。
ギルドに入ると、買取りカウンターに片腕の無いグリズリーを置いた。
「片腕は無いですが、傷口は喉だけですか?」
「あぁ。」
「ではギルドカードの提示を。」
ギルド内には人が何人かいるから、騒がれたくはなかったが、仕方なくカードを出した。
「え!?・・・すみません。内緒でしたね。
さすがというか。少々お待ちください。」
「分かった。」
ギルドの買取りカウンターを使うのも初めてだな。いつも討伐した魔獣は燃やすか他の者が回収してくれていたからな。
少し待つとギルマスが出てきた。
「これが君が倒したレッドグリズリーか。確かにこれは綺麗だな。討伐依頼の達成ということで実績に残してランクをとりあえずAまで上げよう。」
「は?俺は依頼など受けていないし、ランクも別に上げる必要はない。」
「ギルド的にそういうわけにはいかないってことだ。すまんが了承してくれ。」
「ふぅ、分かった。組織というものが複雑で事情が色々あるのは理解している。」
こうして俺はAランクに上げられることになった。
「リオ、朝飯食いにいこうぜ。」
「おい!カルド。彼の名を呼ぶな。彼は騒がれたくないんだ。」
ギルマスがカルドにそう注意した。
「すまない。じゃあ、えっと・・・リ、リーさんでいいか?」
「あぁ、別に何でもいい。」
リーさん・・・
何とも言えない顔をするギルマスを横目に、俺はカルドがリーさんと呼ぶのを了承した。
カルドと共に街の中心に向かい、カルドお勧めの屋台でカルツォーネというパンを買って食べた。
屋台を見たことはあるが、寄ったのは初めてだった。
美味い。
しかし、カノン、あなたを死に追いやったような俺がこんな贅沢をしてすまない。
後で罰はしっかり受けるよ。このリオという名がこんなところにまで広がっていることも苦痛ではあるが、この後バレて大変なことになるんだろう。
その予感を感じ、背中に寒いものが走った。
「カルド、そろそろ門のところに行こう。」
「そうだな。リオ、俺さぁ、リオが英雄リオだということがバレる気がするんだが大丈夫か?」
「俺もそんな気がしている。
バレてもワイバーンの討伐には参加はする。
どうせ俺は旅の途中で寄っただけだから、討伐が終われば街を出るつもりだ。」
「そうか。」
「今は救世主伝説というのが流行っているのだろう?それならそう騒がれることもないと思うんだが。」
「そうかなぁ・・・」
門の前に着くと、ギルマスが真っ先に俺に近づいてきた。
「来てくれてありがとう。俺もあなたの戦いを見たくて、仕事をサブマスにぶん投げてこっちに来た。」
あ、そういえば俺の武器は、今はマチェットだった。
ワイバーンか・・・、ロングソードでも用意しておけばよかったな。
「なぁ、リ、リーさんはマチェットで大丈夫か?」
「俺も少しマチェットでは心許無いと気づいたところだ。今から武器屋に走って適当な剣でも買ってくるかな。」
「いいぞ。カルド案内してやれ。まだ来てない奴が多いし、出発までには時間がある。」
「分かった。案内するよ。行こう。」
「すまない。」
「気にすることはない。あんたのためなら何だってしたいんだ。
それにあんたが選ぶ剣を見てみたい」
「そうか。」
こんなギリギリまで気付かず、更にカルドに迷惑までかけて、俺は本当にダメな奴だな。頭が悪いのはもう死ぬまで治らないんだろう。いや、死んでも治らないか。
せめて、誰にも迷惑をかけないようにしないと。
カルドと武器屋に行くと、俺はロングソードをいくつか見せてもらった。
どれでもいいんだが、一番頑丈なやつをと言うと、武器屋の主人は自慢げに一本の剣を出してきた。
「何となくあんたにはこれが合いそうな気がする。」
「そうか。じゃあそれにしよう。」
主人が選んでくれたのは、鈍色で飾り彫りのないシンプルな見た目のロングソードだったが、持つと重心が安定しており、片手でも捌けそうな軽さだった。
「こいつはミスリルシルバーだ。」
「そうか。いくらだ?」
「金貨1枚と言いたいところだが、こいつは癖が強くてな、上手く使えないと全くの鈍らになっちまう。何度か売れたんだがすぐに戻ってくる。
だから小金貨5枚でいい。」
「分かった。」
俺はその剣を買うと、カルドと共に門の前へ戻った。
「その剣で大丈夫か?リオが上手く使えないとは思わないが、万が一鈍らだったらえらいことだぞ?」
「剣など大体どれでも同じだ。問題ない。切れなければマチェットがあるしな。」
「そうか。ならいいが。」
「おお~戻ってきたか。」
また戻るとすぐにギルマスが寄ってきた。
「ん?随分とシンプルな剣を選んだんだな。あなたらしいとも言える。」
「あぁ。武器屋の主人に勧められたのをそのまま買ったんだ。」
「そういえば、防具はないのか?」
「俺に防具は必要ない。」
「さすがだ。俺もそんなセリフを言ってみたい。」
防具は身を守るものだからな。身を守るものなど俺には必要ない。
今は目的があるから、まだ死ねないと思っているが、身を守るものなど着ける気は無い。
足を失っても、手を失っても、喉を切り裂かれても構わない。生きてさえいれば、地を這ってでも薬を見つけ出し、あなたに届ける。
「そろそろみんな揃ったか?受付をしていない者は早くしろよ~」
「俺も受付をするのか?」
「いや、あなたとカルドはもう勝手に受付しているから大丈夫だ。」
「そうか。」
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