08.俺の歌

「お前、大丈夫か?」


急に誰かに声をかけられた。

じっと地図を眺め、そして息苦しさに顔を歪める俺が怪しかったんだろう。


「あぁ。大丈夫だ。少し、過去を思い出しただけだ。」

「そうか。顔色が悪いぞ、無理するなよ。」


「あぁ。」



やめてくれ。俺に優しい言葉なんかかけないでくれ。

苦しくてたまらない。


「話くらい聞いてやるよ。ちょっと付き合え。」

「あ、いや・・・」


俺はその男に腕を掴まれ酒場まで連行された。



「リオさん、どうしたの?顔色が悪い。ニコロ、リオさんに何かしたのか?」

「なんだ希望の翼の知り合いか?お前リオっていうのか。俺はニコロだ。」


「俺はリオだ。」

「俺たちはリオさんに助けられたんだ。オークに襲われたところをリオさんに助けてもらって。マルコを背負ってギルドまで運んでもらった。」

「へぇ、リオはいい奴だな。」

「いや・・・俺は大したことはしていない。」


いい奴だなんて言わないでほしい。俺は悪い奴なんだ。

軽蔑してくれた方がまだ気が楽だ。



「リオはAランクなのか?」

「いや違う。」


「Aランクの掲示板を見てなかったか?」

「いや、掲示板ではなく、その横の地図を見ていたんだ。」


「あぁ、なるほど。でもオークを倒すんだから強いんだろ?」

「そうだよ。リオさんはオーク5体を一瞬で倒したんだ。俺はあんなに強い人は他に見たことない。」


「そんなにか。俺も見たかったな。」




そんな話をしていると、ギルドの中が慌ただしくなった。


「なんだ?」



『緊急クエストを発表します。オークの群が確認されました。明日、討伐に向かいます。Dランク以上の方は強制参加になります。急ぎのクエストを受けている人はギルドが依頼主に交渉するので受付まで相談に来てください。』



またか。しかも今回は強制参加だと・・・。

俺も受けなければならないんだろうな。


「ハァ・・・。」

「どうしたリオ。」


「また緊急クエストかと思ってな。」

「何だ?前にも緊急クエストに当たったのか?」


「あぁ。つい10日ほど前にな。その時はゴブリン230だったか。」

「230・・・上位種は?」


「キング、ナイト、メイジだったな。」

「もしかして、キングを倒したのか?」


「あぁ。その街の高ランクが護衛か何かでたまたま不在にしていて、他に倒せる者がいなかったんだ。」

「そうか。ってことはキングを1人で倒したってことか?」


「そうだな。」

「ん?なんかその話、聞いたことがある気がする。

酒場で商人が話しているのを聞いた。つい最近、廃村に棲みついた大規模なゴブリンの群をほとんど1人で倒した冒険者がいるって。

上位種25体とキングを1人で倒して、他のゴブリンも8割を1人で倒して、更に後処理も1人でやったとか。」

「私も聞いたわ。それ吟遊詩人が歌にしているから、この街の中では知っている人も多いと思うわ。そのリオって、リオさんだったの?」


「それ、お前なのか?」

「・・・。」



なぜこうなった・・・?

なぜ吟遊詩人が俺のことを歌にするんだ?意味が分からない。


「リオがいるならオーク討伐も楽勝だな。」

「・・・。」




「リオさん、ギルマスがお呼びです。」

「分かった。」


さっき別室で話をした時にいた女が俺を呼びに来た。

またギルマスか。また森にグリズリーを倒しに行かされるんじゃないよな?


部屋に入ると、さっき別室で話をした細身の男が机の前に座っていた。

この男がギルマスだったのか。


「あぁ。すまんな呼び出して。急いでいると言っていたところ悪いんだが、明日のオーク討伐に参加してほしい。」

「分かった。」


「おぁ、ありがたい。ダメもとで頼んでみるもんだ。」

「・・・。」


もしかして急いでいると言えば断れたのか?

失敗したな。もう了承の返事をしてしまったから、今更無理だとは言えなくなった。



「明日の朝、門の外に来ればいいのか?」

「あぁ。群の内訳は聞かなくていいのか?」


「別にいい。」

「そうか。詳しくは朝に伝える。

あぁ、そうだ。帰る時に受付に寄ってくれ。リオが倒したオーク5体が確認された。持ち帰って来ているから、討伐の報酬だけでなく買取報酬も出す。」


「分かった。」


俺は部屋を出ると、受付に寄って報酬を受け取ると、そのままギルドを出て街も出た。





今日は曇りだったが、雲の切れ間から星が1つだけ見えた。


カノン・・・俺の人生は全て間違っていた。今もきっと間違い続けている。

ごめん。カノン。君の一生を奪った俺がのうのうと生きていてごめん。

死ぬ勇気がない俺でごめん。

今日も星に彼女への懺悔と祈りを捧げた。

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