21.リオ再び


「リオか・・・。ちょっと付いてこい。」

「俺は左右を衛兵に挟まれ、問答無用で冒険者ギルドに連れて行かれた。」


なんだ?



「リオという登録名の者を連れてきた。」

「奥の部屋へ。」


もしかして彼女を死に追いやったことが何か影響しているのか?

それが冒険者ギルドにバレて、犯罪者ということで資格を剥奪されるとか。

あり得る。



まぁ、冒険者の資格を失ったとしても、別に問題はない。街に入る時は金を払えばいいだけだ。クエストだったか?を受けなくても帝国でもらった報奨金がまだまだあるしな。


部屋に通されると、奥の机にガタイのいい男が座っていたが、俺が部屋に入ると鋭い視線を向けてこちらに歩いてきた。



「そこに座れ。」

「分かった。」


俺が座ると、衛兵は俺を監視するように斜め後ろに2人立った。



「ギルドカードを出してもらえるか?」

「分かった。」


俺はギルドカードを出して渡した。


「ん?ちょっと待て。」

「何か?」


「ちょっと履歴を調べる。」

「分かった。」


履歴?あのカードには履歴というものが分かる仕組みが組み込まれているのか。それは凄いな。



「お前、本物か?」

「は?本物?どういうことだ?」


「登録した国は?」

「ヌーボラだ。」


「今までに受けたクエストは?」

「緊急のゴブリンの群の討伐と、緊急のオークの群の討伐だけだと思う。」


「そうか。なるほど、冒険者を助けたというオーク討伐はクエストと認識していないということだな。握手してくれるか?」

「は?」


手を出してくる男に、俺は仕方なく手を差し出した。

俺が差し出した手を、その男はギュッと力強く握った。



「いやーそうか。なるほど。それほど筋骨隆々ではないとは聞いていたが、まさか本物の英雄リオに会えるとは。」

「なっ・・・。」


嘘だろ?

ここはヌーボラからもアランシアからも離れているはずだ。なぜその名がこんなところにまで。



「本物?ギルマス、本当か?」

「あぁ。間違いない。」


「うわーマジか。俺も握手してくれ!」

「俺も!」


俺は何とも言えない気持ちのまま、衛兵2人に手を取られて両手でギュッと手を握られた。


「いやーアランシアを出たんじゃないかと噂されていたが、まさかこの街に来てくれるなんて。」

「噂・・・

ところで俺はなぜここに連れてこられたんだ?」


「あぁ、すまんな。英雄リオの名前を騙る偽物のリオが出てな。今、冒険者ギルドではリオという名前の登録は禁止されている。

そしてリオという名前のカードを持つ者は見つけ次第ギルドに連れてきて、悪いことをしていなければ登録名を変えるだけだが、リオという名前を悪用して悪いことをしていれば登録抹消の上、そのまま衛兵に引き渡すことになっている。」

「そ、そうか。」


だから衛兵が両脇を固めて冒険者ギルドに連れてこられたのか。

それにしても英雄リオの偽物・・・。

こんな悪人の名を騙ったとろでどうなるというんだ。



「もう残りの登録者は、英雄リオ本人の他に1人だ。その1人はだいぶ昔に登録した女らしいから、何か卑怯な手を使って登録したか、非合法な方法で捏造したカードを使ったのかと思って少し警戒していた。

本人だとは知らず申し訳ない。」

「あぁ。」


「それでなぜこの街に来たんだ?

アランシアの街で確認されたことを最後に、もう1年近く足跡が追えないと言われていたが。」



「地図を確認しに・・・。」


「おぉー地図!やっぱりそうか!」

「な、なんだ?」


「英雄リオはギルドに寄るといつも地図を確認すると言われていた。受付に寄ることもあれば、寄らずに掲示されている地図を確認することもあるとか。」

「・・・。」


「サッと地図だけ確認して立ち去られるのを防ぐために、地図の掲示をやめたギルドもあって、そのせいでリオはギルドに立ち寄らなくなったと言われていたが本当か?」

「いや、それは初めて聞いた話だ。」


「そうか。うちのギルドでは地図はクエスト掲示板の横に貼ってあるからいつでも見てくれていい。」

「分かった。」



「なぁリオ、クエストを受けてくれないか?」

「別にいいがなぜだ?この街にも冒険者はいるだろう?」


「まぁそうだが、ギルドとしてはリオをBランクに置いておきたくないんだ。」

「は?なぜだ。」


「できればさっさとSか、できればSSかSSSに上げたい。だから実績を積ませたい。」

「別に俺はランクなどどうでもいい。上げる必要性も感じない。俺には目的がある。

他の者ではどうにもならないような敵なら相手するが、それ以外を受ける気はない。」


「だよなー

あの歌や本が真実ならかなりの腕だ。ランクを上げる気があればクエストを受ければすぐに上がる。それをしてこなかったんだ。ランクを上げることに興味がないのは何となく気づいていた。」

「本?」


「あぁ、これだ。

これは人気でな。入手するのに苦労したんだ。」


ギルマスから差し出された本を手に取ると、タイトルを眺めた。



【英雄リオの冒険伝説~野盗討伐編~】



「野盗討伐編・・・」

「あぁ、まだこれしか入手できていない。

他にゴブリン討伐編、オーク討伐編は討伐と救助で2部ある。」


「・・・。」


まさか野盗討伐まで知れ渡っていたとは。



「英雄リオの前で言うことではないが、リオはしばらく行方知れずになっていたから、だんだん熱も冷めてきている。」

「そうか。それはよかった。安心した。」


「そうか。本人にとっては望まないことだったんだな。それに代わって今人気があるのは、救世主伝説だな~」

「そうか。素晴らしい人物が世の中にはいるんだな。」


「リオも街の中心で吟遊詩人の歌を聞いてみるといい。」

「分かった。」


「救世主デリオーは、ちょうどリオが行方知れずになった頃に出てきたんだ。

だからリオとデリオーが同一人物なんじゃないかって噂もあったな。」


「救世主デリオー・・・。」



「まさか知り合いか?」

「いや、知らない。」


俺に取って代わったのは、俺か・・・



「デリオーの足跡を辿るとこっちに向かってきている感じだったから、そろそろ近くを通りそうだと思っていたんだが、まさか英雄リオに会えるとはな。

まぁ、デリオーは街にはほとんど寄らないらしいから、この街に来ることはないだろう。」


「・・・俺のことは周りに言わないでほしい。騒がれたくない。」



「まぁ、そうだろうな。リオはこれからどこ行くんだ?」

「南だ。」


「そうか。」

「地図を見たら街を出る。」


「分かった。」



コンコン

「ギルマス!緊急案件だ!」

「入れ。」


「すまない来客中に。

ワイバーンの群が確認された。緊急クエストを発動したい。」

「いいだろう。緊急クエストの発動と、偵察クエストを許可する。」


入ってきた男はすぐに退室して行った。



「リオ、相手が相手だ。手を貸してくれると助かるのだが。」

「ふぅ。分かった。」


「助かる。地図は、今のうちに見ておくか?」

「あぁ、そうだな。討伐は明朝に門の前でいいのか?」


「それでいい。偵察が戻るまで待つか?数などの情報を先に教えることもできるぞ。」

「いや、別に数の情報など要らん。」


「そうか。」

「じゃあ俺は地図を見にいく。」


俺は部屋を退室し、クエスト掲示板の横にある地図を見に行った。

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