22.カルドという男


「なぁ、知ってるか?また英雄リオの偽物が出たらしいぞ。」

「はぁ?もう登録はできないだろ?」

「そうだが、さっき街に入った奴がリオと名乗る冒険者を衛兵がギルドに連れて行ったと聞いた。」


そのような噂まで出ているのか。

地図を確認したらすぐに街を出て森に入るか。



「おい。」


やはりロンディネから国境を2つ越えていたか。ここはフロンテ、ここの国境を越えてフォンドを抜けると最南端のスドまではあと僅かだな。


「おい。」

急に肩に手を置かれた。


「なんだ?」

俺が振り向くと、髪を逆立てたガタイのいい男が立っていた。


「英雄リオの真似か?地図なんか眺めて。」

「は?」


地図など誰でも眺めるだろう。何なんだ?



「地図など誰でも見るだろう。俺は誰かの真似をした覚えはない。」

「そうか。見かけない顔だと思ってな。」


「あぁ、俺は旅の途中で現在地を確認するために地図を見にきただけだからな。」

「そうか。それでも明日の緊急クエストには参加するんだろ?」


「あぁ。仕方なくな。」

「何だ乗り気じゃないのか。ワイバーンを倒せばかなり金になるぞ?怖いのか?」


「いや、怖くはないし、俺は金などどうでもいい。先を急いでいたんだが足止めを食らったから、仕方なくだ。」

「そうか、それは災難だったな。一緒に飲もうぜ。」


「いや、俺はいい。」

「そう言うなよ。」


肩を組まれギルドの酒場に連れて行かれた。

軍に入ったばかりの頃の周りの先輩みたいだ。



「俺はBランクのカルドだ。お前は?」

「俺はBランクの・・・」


リオと名乗れば騒ぎになる。デリオーもダメだ。しかしディシデーリオとは名乗りたくない。それにギルドカードを見られたら嘘だとバレる。



「なんだ?どうした、自分の名前を忘れたか?」

「いや、り、リオだ。」


「は?冗談は言っちゃいけねぇよ。名乗りたくないってことか。まぁいいが、名前を名乗りたくないのならそれで良いが、リオという名は名乗らない方がいいぞ。安易に英雄リオの名を騙ると罰せられる可能性がある。」

「・・・。」




「カルド、ほかの奴に絡むのはいいが、その方に絡むのはやめろ。」


ギルマスがやってきてカルドに声をかけた。



「何だギルマス、旅の途中で寄っただけの奴を特別扱いか?」

「いや、ほれ、これを返し忘れていた。」

「あぁ。」


ギルマスは俺にギルドカードを返してよこした。



「見せてくれよ。」

「ダメだ。カルドやめろ。」


「なんだ?高位貴族とかなのか?」

「いや、違う。」


カルドには、かえって怪しまれて興味を引いてしまったようだ。

別に隠すことでもないが、俺のような人間が英雄などと言われることが申し訳なくて苦しいだけだ。



「カルドだからなぁ・・・

お前口軽いだろ?言えないな。」

「誰にも言わねぇから、教えてくれよー

気になって眠れなくて明日の討伐失敗したら困るだろー?」


ギルマスも困っているし、ここは立ち去るに限る。



「俺は帰る。また明朝にな。」


俺は席を立つとさっさと入り口に向かって歩いて行った。




「カルドのせいで機嫌を損ねたかもしれん。明日あの方が来なかったらどうするんだ。」

「なんだよ、俺のせいだってのか?そんなに重要な人物なのか?」


「俺も部屋に戻る。」

「何だよ。」


俺はギルドを出ると、そのまま街の外へ向かった。




「おーい、おーい、待ってくれよー」


誰かが誰かを呼ぶ声がした。

しかし俺は気にせず街を出て森に入った。


「おーい、」


街の外まで誰かを追いかけているのか。熱心なものだ。



朝には門に行かなければならないし、あまり離れるのもよくないか。

俺は、それほど奥には進まずに、大木の根元にあった岩に腰掛けた。


それにしてもなぜ国をいくつか跨いだのにリオの話が伝わっているのか。しかも本まで・・・

デリオーの話は犯罪組織を壊滅した話がこんな所まで届いているのも不思議だし、足跡を辿ると近くを通ると言う推測も気になる。

俺の足跡を誰かが辿っているということか?

何のために?

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