23.カルドとの野営


「ハァハァハァ、やっと見つけたぜ。」

「あ?なんだ、カルドどうした?なぜ森にいるんだ?」


「いや、なんか機嫌を損ねたから、あんたが明日の討伐に参加してくれないかもしれねぇってギルマスに言われて。」

「別に機嫌など損ねていないし、明日は参加する。」


「街を出て森に入ったから、そのまま旅立っちまうのかと思って慌てて追いかけたんだ。あんた俺が何度呼んでも振り向かねぇし。」

「そうだったのか、それはすまない。」



「そんなに名前を隠したかったんだな。しつこく訪ねて悪かったよ。」

「別に隠してはいない。名乗ったしな。」


「それは偽名だろ?何だよ。それにしても明日討伐に参加するならなぜ森にいるんだ?」

「野営だ。」


「は?近くに街があるのにか?宿には泊まらねぇのか?」

「宿になど・・・、俺には野営で十分だ。」


「あんた変わってんな。」

「カルドは街に戻ればいい。」


「いや、なんかあんたが気になるから俺も今日は野営する。」

「そうか。」


俺のことなど気にせず善人は柔らかい布団で眠ればいいのに。



「あんた、旅をしてるんだろ?どこか目的地はあるのか?」

「あぁ、とりあえず場所としてはスドを目指している。」


「あの最南端のか?」

「そうだ。」


「面白そうだな。俺はずっとこの街で冒険者をやっているから、旅には出たことがないんだ。」

「そうなのか。」


「あんたはいつも野営なのか?」

「あぁ。いつも野営だ。」


「それじゃあ寝ていても気が抜け無いだろう。」

「別に気を抜く必要もないからな。」


「まさかとは思うが、街道ではなくずっと森を通り抜けて来たのか?」

「あぁ、そうだ。その方が何かと便利だからな。」


「そうか。じゃあ本当に貴族じゃないんだな。」

「あぁ、俺には身分などない。」


俺は身分など持っていい人間ではないからな。



「それなのに名前を隠すのか。」

「いや、名乗ったろ。」


「リオ、か。本名はリオだが、英雄リオがいるからリオという名前では登録できなかったということか。なるほどな。そういうこともあるのか。」

「そうではないが、まぁ何でもいい。」


「リオの武器はそのマチェットだけか?」

「あぁ、そうだ。」


「デリオーみたいだな。」

「・・・。」


「いやーマチェット1本とか珍しい。

だいたいダガーなどを持っていたり、細めの剣と合わせて2本で使う奴が多いからさー

そもそもマチェット自体使う奴が少ない。

俺はロングソード1本だ。」

「そうか。」



「リオ、夕飯はどうするんだ?」

「別に食べなくてもいいが、食べるなら何か狩ってこよう。」


「は?買ってくるではなく狩ってくる?」

「あぁ。そうだ。」


「野営って感じだな。それは面白そうだな。」

「何か食べたいなら俺が狩ってこよう。」


「いや、俺もリオと一緒に行く。」

「分かった。何がいい?」


「何でも食べられればいいが、近くにいるやつでいい。」

「分かった。」


索敵を広げると、ちょうどグリズリーの影が見えた。



「グリズリーでいいか?」

「マジか。大丈夫か?ってどこにいるんだ?」


「あっちだ。」


俺はマチェットで草や枝を払いながら直線距離で進んだ。



「なるほど。マチェットを選んだのは森を進みやすくするためか。枝や草を払いやすそうだな。」

「あぁ、それもある。」


「もしかしてリオは索敵を使えるのか?迷いなく進んでいるが。」

「あぁ。得意ではないが使える。あと少しでグリズリーが見える。カルドも戦うか?」


「そうだな。戦うかー」

「分かった。」


カルドに戦わせるために俺は足や手を狙うか。

協調性のない俺だ。よく考えて戦わないと一撃で倒してカルドの戦いたい気持ちを台無しにしてしまう。



「グリズリーと言えばさー

英雄リオが冒険者登録をした日にレッドグリズリー2体を1人で倒したとか。しかも瞬殺。

俺もそれに憧れて一時期グリズリーを探し歩いては練習したものだ。」

「そ、そうか。できるようになったのか?」


なぜそんな話までこんな離れた場所にまで伝わっているんだ?あんなのは全く誰を守ったわけでもなければクエストですらないのに。



「いや、まだできない。一度怪我をしてからは、無茶なことをするのはやめた。

リオはできるか?」

「たぶんできる。」


「おお~マジか。それなら今からやってみてくれないか?

イメージが掴めなくてな。一撃じゃなくてもいい強い奴がグリズリーを倒すのを見てみたい。」

「別にいいが、カルドは戦わなくていいのか?」


「明日ワイバーンと戦うから別に今日は戦わなくてもいい。」

「そうか。分かった。」


一撃かそれに近い方法で倒すなら、喉か、胸だな。

しかしマチェットでは胸を突き刺すのは無理か。喉を切り裂いてとどめに喉から脳天に突き上げるか。




いた。


暗くて見えないといけないと思い、辺りを照らすように火球を3つ浮かべた。

するとレッドグリズリーは当たり前だがこちらに気づいた。


「いくぞ。」


そうカルドに告げると、俺は一瞬にして距離を詰め、喉元を切り裂いて、その切り口から脳天に向かってマチェットを突き刺した。



「カルド、これでいいか?」

「・・・あ、あぁ。リオ、あの・・・。」


「何だ?」

「まさかとは思うが、本物か?」


「は?」

「魔獣が鳴く間も与えずに切り裂いた。」


「何の話だ?レッドグリズリーの鳴き声を聞きたかったのか?それはすまなかった。」

「いや、ギルマスの反応。旅、地図。」


「どうしたんだカルド、俺の倒し方が悪かったということか?」

「いや、素晴らしすぎた。感動した。あなたはリオなんだな。」


「そうだな。そう言った。」

「疑ってすまなかった。俺はあなたに会えて感動している。英雄リオ。」


「・・・。」



俺は英雄ではないんだがな。俺のような者が英雄なわけがない。俺は英雄とは真逆な人間だ。

使命ができたと浮かれていたのは事実で、本当に俺はくだらない人間だ。俺など地の底に落ちればいいんだ。


カノン、もっと俺に厳しい罰を与え続けて下さい。俺は苦しまなければならないんだ。



「カルド、夢を壊すようなことを言って申し訳無いが、ただ噂が一人歩きしただけで、本当に俺は英雄なんかじゃないんだ。」

「そうか。しかし、さっきのリオの戦いを見ると、それほど尾鰭がついたとも思えない。俺は本物だと思った。」


「そ、そうか。」

「戦いを見せてくれてありがとう。」


「あぁ。とりあえずグリズリーを捌こう。

時間があればもっとしっかり血抜きしたんだが、とりあえず逆さに吊るしておくか。夜は血生臭さは我慢してくれ。

朝には血抜きも終わってマシになっていると思う。夜中に他の魔獣などに取られてしまったらすまない。」


そう告げると、グリズリーの足を持って逆さにして木に吊るし、地面に血を貯める穴を掘った。

夕飯のために腕を1本切り落とすと、辺りを照らす火球を下ろして足で踏んで消した。



「さっきの場所まで戻ろう。」

「あぁ、って俺が持つよ。」


カルドはそう言ってグリズリーの腕を持った。

そして先ほどの場所まで戻ると、皮を剥いで骨と肉を切り分けた。


カルドがその間に枝を集めてくれたから、そこに小さな火球を放って火をつけ、肉を焼いて食べた。

誰かと一緒に食事をするなど久しぶりだな。

このような食事しか出してやれなくて申し訳ないが。


昨日、街に行くということで川で体を洗う時に汲んでおいた水を鍋で沸かし、薬草にもなる草を少し入れ、コップに注ぎカルドに渡した。


「ありがとう。リオの分は?」

「俺は鍋から直接飲むから大丈夫だ。」


「そうか。俺がコップを借りてすまない。」

「そんなこと気にするな。」


互いに何も話さず、黙々と肉を口に運んだ。

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