20.徳は全て彼女に捧ぐ
どれほど走ったのか、もう日数を数えるのをやめてどれほど経ったのかも分からない。
俺はとにかく太陽の位置から、ただひたすらに南を目指した。
直線距離で進むと、途中で何度か村を通った。
村というのは困窮していることが多いのか、見かける人がなぜか痩せ細った人ばかりだったのが気になって、森で倒した魔獣を村人に渡した。
「これは先ほど倒した魔獣だが、持ち運ぶのも大変なので受け取ってほしい。」
「よろしいのですか?しかし、我々には支払えるような金も麦なども余裕がなくて・・・。」
「支払いなど要らん。俺が勝手に村に押し付けているだけだからな。」
「そんな。それではあなた様が損をするだけでは?」
「俺は荷物が減る。あなた方が受け取ってくれれば損ではなく俺は得をする。」
「ありがとうございます。これで私たちは生き延びることができます。」
「そんなに困窮しているのか?なぜだ?」
「井戸が枯れ、作物が育たなくなったのです。飲み水は川に汲みに行きますが、畑に撒く水までは汲みに行けないので・・・。」
「そうか。その枯れた井戸を見てもいいか?」
「はい。構いませんが。ただの枯れた井戸ですよ?」
長老らしき人に井戸に案内してもらうと、確かに底まで火球を飛ばして照らして見ても水はないようだった。
魔獣を1体渡したとしても、その場しのぎでしかない。
水脈が何らかの事情で変わってしまったんだろうな。もっと深くまで掘ったらどうだろうか?
この井戸は15メートルほどしかない。30メートルほどまで掘ったら別の水脈があるかもしれん。
「ちょっと奥まで掘ってみてもいいか?」
「え?えぇ、どうせ枯れていますので何をしてもらっても構いませんが・・・。」
俺は長老に大型のスコップを借りると、井戸の中に飛び降りた。
どんどん底を掘っていく。
掘った土は風を使って外に出した。
どれほど掘っただろう?硬い層が出てきて、そこにスコップを突き立てると水が勢いよく溢れ出した。
俺はスコップを持って風を使って井戸の外に飛んで出た。
「無事水脈に当たったようだ。」
どんどん上がってくる水位、小さな火球を放って、長老にも井戸の中を見てもらった。
「おぉ、水じゃ・・・。
これで我らは救われた。本当にありがとうございます。あなた様のお名前を伺っても?」
「デリオーだ。」
「デリオー様、ありがとうございます。
すぐに村の者を集めます。」
「いや、俺は旅をしていて先を急ぐ。」
「それでは少ないですが、私の財産を受け取ってもらいたい。」
「それは受け取れない。見返りを求めてやったわけではないし、金もそれ以外の物も要らない。
では俺は急ぐので失礼する。」
また救世主だのと言われたらたまったものじゃない。俺は足早に村を出て南へ急いだ。
途中で立ち寄った村は、困窮していることが大半だったが、理由はそれぞれだった。
街のように衛兵もいないし、設備も完璧ではない村では、このようなことが起こるのだと知った。
そして彼らは何か不測の事態が起きたとき、自分で解決する術を持たないから、ただ耐えていることが多い。
魔獣が棲みついた村や、天候による不作の村には、サッと魔獣を狩って渡した。
森に入って薬草を摘んできて、村で育てて売るよう言ったり、木材で食器や工芸品を作って売るよう言ったり、村の周りに綿花があるところでは、育てて紡いで布を売り出すよう言った。
売り始めてしまえば、行商人や街の商人が買い付けに来るだろう。
いつか村が潤ってくれることを願った。
というのも、俺のような悪人は徳を積んでいかなければ、幻という薬を見つけることができないと思ったからだ。
俺のための徳ではない。彼女のための徳だ。
徳は全て彼女に捧げる。
それに、何も悪いことをしていないのに苦しい生活をする彼らを放置しておくのは、俺が罪を重ねていくような気になったからだ。
俺は苦しんで当然だが、善人が苦しむなどおかしいだろう。
もう国境は何度か越えたんだろうか?
どれほど進んだのか、あとどれほど進めばいいのかが気になり、仕方なく街に寄ることにした。
少し東に向かうと街道を見つけた。街道を南東に向かって進むと、やっと街を見つけた。
こんな所まで進んだんだ。さすがに吟遊詩人の歌もこんな所までは来ていないだろう。
俺は街の入り口で久しぶりに冒険者ギルドカードを提示して中に入ることにした。
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