19.希望
俺は2日ほど西へ走ると、街道に出て街を目指した。
太陽が真上を過ぎた頃に街に到着すると、金を払って街に入る。
門番に図書館の場所を聞くと、真っ直ぐ図書館に向かった。
ん?吟遊詩人の歌か。吟遊詩人というのはどこにでもいるものなんだな。
『この世界に遣わされた救世主、その名はデリオー♪』
は?横を通り過ぎようとして聞こえてきた歌の内容に耳を疑った。
いや、まさかな。
・・・。怖いが聞いてみるか。
近くで歌を聞いていた老齢の男に聞くことにした。
「すまんが、今歌っていた歌の内容を教えてくれないか?」
「ん?お前さん最後しか聞けなかったんだな。」
その歌の内容は、少女を救うため立ち上がった男デリオーが、少女を守り、さらに暗躍する悪の組織を壊滅させ、その褒賞や名声を受け取らず、皆の幸せを見届けて旅立つという内容だった。
「世の中には凄いお人がおるんじゃな。」
「そうだな。」
なぜこうなった?
リオという名を名乗っていないのに、なぜ?
今度は救世主?バカな。
救世主どころか、俺は彼女を死に追いやった人間だ。
カノン、すまない。こんなことになるなど思ってもみなかったんだ。
そんな称号は俺に相応しくない。
世紀の大悪党と呼ばれた方がしっくりくる。
しかし、そろそろか。
そろそろ来るだろう。英雄だの救世主だの呼ばれた男はただの人殺しだったと。
少女を手にかけた大罪人なのだと。
それの名はディシデーリオ。
胸を貫かれるような苦しさの中、なんとか図書館にたどり着いた。
「身分証はお持ちですか?」
「いえ、無いです。」
「そうですか。お名前は?」
「・・・デリオー」
「あなた救世主と同じ名前なの?親にいい名前をつけてもらったのね。」
「あぁ、まぁ、そうだな。」
「身分証が無いと使用料として銅貨5枚かかりますがいいですか?」
「はい。」
俺は銅貨5枚をカウンターに置いた。
「閲覧したい本を仰っていただければ探してきますよ。」
「俺は旅をしていて、現在地や隣国が分かる地図があれば確認したいのだが。」
「あぁ、なるほど。旅人でしたか。すぐにお持ちしますのでお待ちください。」
図書館という存在は知っていたが、本などを探してくれるのか。確かにこの膨大な量の本の中から目的の本を探すのは難しい。
ん?これは!
本棚を眺めていると、気になるタイトルの本を見つけた。
【究極の薬の謎と蘇生】
蘇生?もしその方法が分かれば彼女を蘇生することができるのか?
今まで、人が一度亡くなると、もう戻らないと思っていたがそのこと自体が間違いだったのか?
なんてことだ。
俺は死ぬより先にすることがあったようだ。
俺が今まで死地と呼べる戦場や危険な魔獣討伐に何度参加しても死ねなかったのは、成すべきことがあったからかもしれない。
初めて生きる目的ができた。
カノン、待っていてくれ。必ず、俺が必ずあなたを救い出してみせる。
俺が死ぬのは、彼女を生き返らせてからでいい。
彼女を死に追いやったんだ。俺が死ぬことは変わらないとしても、彼女を蘇生する方法があるのなら、俺はそれを何としてでも見つけなければならない。
受付の女が地図を持って戻ってくると、それを受け取り、あの本を読みたいと告げた。
「どうぞ。本や地図の持ち出しはできませんので、あちらの席で読んでくださいね。
帰りはこのカウンターに返して下さい。」
「分かった。」
俺は本と地図を持って席についた。
先に広げたのは本だ。
究極の薬と呼ばれるエリクサーという薬の考察について大半のページが割かれており、蘇生薬と呼ばれる女神の祝福という薬については情報が少なかった。
どちらも、その存在は確かなものではないらしいが、作者は使われた痕跡を辿り、どちらも存在するという考えに至ったそうだ。
どこで作られているのか、製造者は誰なのか、それは作者も分からなかったようだ。
しかし、使われた痕跡は南に集中しており、最南端を目指したが、老齢になり旅を続けることができず、最後にこの本を残したのだと書かれていた。
そうか。南か。行こう。
俺は行かなければならない。
そう思い、地図を広げた。
最南端の国はスドか。
聞いたことのない国だ。本の作者が死ぬまでに辿り着けなかったくらいの場所だ、行くことが難しい場所なんだろう。
しかし、俺は行かなければならない。
俺は受付に本と地図を返すと、すぐに街を出て森に入り、南を目指した。
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