13.過ちを繰り返す奴
森を走って進む。人に会わないようにと願いながら進むが、森に隠れている野盗には何度か出会ってしまった。
野盗を倒したら街の衛兵に報告しなければならない。
でないと、討伐隊が組まれていたりしたら、倒しているのに延々と探さなければならなくなるからだ。
この前は商人が報告をしてくれたし、野盗が身に付けていた物も管理してくれていたが、俺1人の場合は俺が報告をしなければならない。
これ以上荷物を増やせないところまでくると、仕方なく一旦街に寄ることにした。
街には入らなくてもいい。門番に処理を任せたらいい。すぐに立ち去れば、目立つこともないだろう。
街道に出て1時間ほど走ると、街が見えた。今回は近くてよかった。
街に入る人の列に並ぶと、門番に街に入りたいわけではなく野盗を倒した報告をしにきたことを告げた。
「では事務所で確認しますのであちらのドアから部屋に入って下さい。」
「分かった。」
門番に指されたドアに向かい中に入ると、衛兵の詰所だった。
「先ほど門番に野盗討伐の報告はこちらに行くよう言われたんだが。」
「あぁ、どうぞ。そっちの椅子に座って。」
「それで野盗の持ち物は持ってきているか?」
「あぁ。
まずこれは、ここから北へ40キロほどのところで倒した野盗の物だ。
こっちは北へ35キロほどのところ。
これは北へ20キロのところ。
これは北へ18キロのところ。
これは北へ10キロのところ。
最後にこれは北へ7キロのことろ。
以上だ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、そんなにあるのか?確認する。
おーい何人か手伝ってくれ!」
俺の対応をしていた男が他に何人かを呼ぶと、なんだなんだと言いながら人が集まってきた。
「すまないが、メモを取るからもう一度説明をしてくれないか?覚えていれば野盗の数も教えてもらえると助かる。」
「分かった。」
俺は野盗を倒した場所と、野盗の規模を伝えていった。
「あんた冒険者に見えるがパーティーのメンバーは?」
「パーティー?それはなんだ?」
「冒険者はチームを組むことが多い。それをパーティーと呼ぶんだが、まさかソロか?」
「あぁ。俺は1人だ。」
「1人でこれ全て倒したのか?
もしかして冒険者ではなく賞金稼ぎか?」
「いや、賞金稼ぎではない。冒険者だ。」
冒険者だと名乗るほど冒険者の活動をしているわけではないが、俺が何者かと聞かれた時に、さすがにこれだけ野盗を倒していれば旅人では通用しないだろうと思い、冒険者だと答えた。
「そうか、それならギルドカードを見せてくれ。」
「分かった。」
本当は名前が入った物は見せたくはないんだが、衛兵に逆らうことで彼らに余計な仕事を増やしてもいけないと思いカードを出した。
先日の街から3日ほど離れているし、吟遊詩人の歌がここまで届いているとは限らない。
「Bランクか。なるほど、それならソロで野盗を相手できるのも納得だ。
ちなみにあんた、ゴブリンの群を倒したことはあるか?」
「あぁ、ある。」
「そうか。オークの群を倒したことは?」
「ある。それが何か野盗の討伐に関係あるのか?」
「いや、ただの興味だ。
ここへ来るまでの間に野盗に襲われた商人と護衛を助けて夜中に1人で魔獣を倒したか?」
「なぜそれを知っている?」
「やはり本物か。そうか。なるほど。さすが英雄リオ。」
「なっ・・・。」
まさか先ほどの質問は、俺が吟遊詩人が歌っているリオなのかを確かめるためだったのか?
「俺は先を急ぐ。報告は以上でいいか?」
「あぁ。」
詰所を出口まで進む間も、今まで感じたことのないおかしな視線を向けられ、なぜか詰所にいた全員に見送られることになった。
軽く頭を下げると、俺はすぐに走って森へ向かった。
あと1週間走ってギルドで地図を確認しようと思ったが、嫌な予感がする。
こうして俺を精神的に追い詰めていくということか。
苦しい・・・
俺がしたことへの報いだと分かっているが、それでも苦しいことに違いはない。
死ぬまで苦しむことを望んだのは自分だ。
神がいるのであれば、唯一そこだけは叶えてくれたのかもしれない。
南へどんどん進んでいくと、また何度か野盗を見つけてしまった。
見つけたらもう仕方がないから討伐する。
野盗は何の罪もない人を襲う。まるであの子を死に追いやった俺みたいなものだ。そんな取り返しのつかない過ちを犯し、さらにそれを繰り返すような奴らを野放しにしておくことはできない。
軍の上層部の誰が失踪したのかは知らないが、隣国に野盗が流れるなど迷惑な話だ。
将軍や皇帝は何を考えているんだ?実際にどうなっているのかが少し気になった。
次の街では酒場で情報を探ってみるか。
野盗の討伐を証明する品が、鞄を埋め尽くした。しかしまだ街に行きたくはない。
俺はその辺に生えている蔓や草で籠を編み、その中に入れていくことにした。
そしてようやく野盗の報告をした街から1週間走り続け、街に向かう覚悟もできた。
人がいる場所に行くのだから、せめて清潔にはしておこうと、川に入って体を洗って街道に出て街を目指す。
緊張しながら南に向かって歩いていくと、ようやく街が見えた。
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