14.野盗討伐の報告と広まる噂
「野盗討伐の報告をしたい。」
門番にそう告げると、また詰所を案内された。
詰所に入り、野盗討伐の報告をしたいと告げると、ペンと紙を用意してもらった。
手作りと容易に想像がつく、歪んだ蔓と草で作った大きな買い物籠のようなものを下げた男など、怪しくて仕方ないだろう。
しかし彼らは特に怪しむ様子もなく俺に対応してくれた。
「紙とペンも用意したが、何に使うんだ?」
「討伐した場所と、野盗の規模をそれぞれ書いていく。」
「ん?それぞれ?まぁよく分からんが好きにしてくれ。」
数が増えると間違ったり混同したりしないよう、草で編んだもので包んでいったから間違いはないだろう。
俺は包みを開きながら、そこに場所と規模を書いた紙を置いて、説明していった。
「その籠の中身はまさか、全部野盗の物か?」
「あぁ、そうだ。」
「全員集まってくれ。俺1人では処理できん。」
対応してくれていた男が皆を呼んだ。
「なんだ?1人で処理でないのは分かるが、全員はいらんだろ。」
「いや、そいつの持っている籠の中身は全て野盗の討伐証明らしい。」
「はぁ?マジか。」
「お手数をかけて申し訳ない。」
「いや、仕事だから構わない。」
俺が溜め込んだ上に一気に持ってきたにも関わらず、彼らは嫌な顔せず対応してくれた。
どんどん討伐証明の品を出して紙を添えていくと、俺のせいで詰所が慌ただしくなってしまった。
全て出し終わり説明し終わると、念のため確認させてくれと冒険者カードの提示を求められた。
やはりそこは避けては通れないんだな。
俺は黙ってカードを出した。
「やはりな。ありがとう確認できた。街へは寄るか?」
「あぁ、冒険者ギルドに地図を確認するために寄りたいのと、酒場に少し情報を得るために寄りたい。」
「ん?なんの情報だ?俺たちに分かることなら今教えることもできるぞ。」
「助かる。もし分かるのであれば帝国の状況を知りたい。野盗が帝国から流れてきていると聞いたんだが。詳細は分かるか?」
「あぁ、帝国か。
野盗が帝国から流れてきているのは、そうなんだろう。帝国に近い街の辺りはかなり多くて、国のトップが帝国に抗議をしたと聞いた。」
「それほどか。」
「まぁ、あんたが気にすることはない。国境付近は軍が出向いているから、これからは減っていくだろう。」
「そうか。帝国の軍から主要戦力が抜けたという噂はどうだ?何か分かるか?」
「それは俺たちも商人どもの噂でしか知らんが、一騎当千と言われるような人物が突如として行方を眩ませたとか。
一騎当千というのは尾鰭がついたものかもしれんが、何やら重要な人物がいなくなったらしい。」
「それが野盗が流れてくるのと関わりがあるというのは?」
「あぁ、事実かは分からんが、皇帝がその人物を探すために軍を使ったそうだ。それで通常であれば対応できていた魔獣討伐や野盗討伐が疎かになって、治安が悪化したと聞いている。」
「そうか。」
「この国以外からも抗議があったようで、やっと皇帝がその人物を探すのを諦めて治安改善に動いたと聞いている。
だからじきに収まるだろう。」
「そうか。聞かせてくれてありがとう。助かった。」
「ギルドに地図を見にいくと言っていたな。」
「あぁ。」
「それは魔獣の分布など冒険者ギルドでしか見れないような地図を見にいくのか?」
「いや、旅をしていて森を進むことが多いから現在地を確認して、次に向かう方角を決めたいだけだ。」
「そうか。ただの地図でいいなら、ここにもあるが見るか?」
「俺は衛兵じゃないが見れるのか?」
「あぁ。あんたになら見せても誰も文句は言わんだろう。それにここの街長は横柄な奴だから、あんたが誰か知られないうちに街を去った方がいい。」
「俺が誰か知られないうちに?どういうことだ?」
こんなところにまで、俺があの子を死に追いやったことが知れているのか?
それとも・・・
「あんた、あの英雄リオだろ?」
「・・・。」
そっちか。
なるほど、権力者が好みそうな称号か。
悪魔が英雄と言われる苦痛にプラスして、権力者から狙われるという追われる恐怖という苦しみも味わわせてくれるというわけか。
「地図を持ってこよう。」
「あぁ。頼む。」
男は地図を持ってくると親切に、立ち寄ると危険そうな権力者がいる街まで教えてくれた。
俺はお礼を言って詰所を後にすると、また詰所のみんなで並んで見送ってくれた。
このような人の優しさに触れた後で地獄に突き落とすのかもしれないな。
いいよ。俺が自分ではできないような苦しみを味わわせてくれるのなら、俺はそれを黙って受け入れるだけだ。
苦しみ抜くことでしか、彼女に報えない自分が嫌で仕方ない。
そして彼女への懺悔を繰り返しながら森を走った。
もうここからは南へ向かわず西へ方向を変えた。
西へ向かい始めると急に野盗に
国境に軍が出向いたと言っていたし、一気に野盗の粛清を始めたのかも知れない。
1人の人物を追って国の治安を悪化させるような帝国と、この国は違うようだ。
さすが国民から選ばれたトップだな。
俺は野盗に出会さなくなったのをいいことに、そのままどんどん森を走っていった。
半月を過ぎた頃に、一旦街に向かうことにした。
というのも、もうそろそろ国境が近いのではないかと思ったからだ。
久しぶりに街道に出て街を目指す。
さすがにこんなところにまで噂は広まっていないだろうが、ギルドカードを門番に見せたくないと思った。
俺は街に入る列に並ぶと、カードを見せずに金を払って街の中に入った。
そして、冒険者ギルドに入り、クエスト掲示板に向かった。
あった。やはり地図はクエスト掲示板の付近に貼られていることが多いようだ。
地図を確認すると、あと2日も走れば国境に辿り着くことが分かった。
地図が確認できたらもうギルドに用はない。街にも用はない。
すぐにギルドを出て、街も出て森に入った。
そして2日森の中を走ると、街道に出て西を目指した。国境を越える列に並ぼうとすると、商人たちの噂が聞こえた。
「英雄リオを探しているらしい。」
「そりゃあ誰でも会ってみたいだろ。」
「いや、国に取り込みたいらしい。」
「は?ここは共和国だから取り込んでも意味ないんじゃないか?貴族階級も無いから爵位も与えられないし。」
「国の象徴として他国への牽制に使うんじゃないか?」
「あぁーなるほど。それじゃあ英雄の無駄遣いだな。」
「だろ?だから見付けたとしても国に報告しないでおこうという動きが国民の間で広がっているらしい。」
「へぇー」
正規ルートで国境を抜けることはやめた方がいいか。
俺はそっと出国者の列から外れ、入国してきた者に混じって後退し、すぐに森へ入った。
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