06.救助しただけなのに

10日走ると、もうそろそろ国境付近だろうと思い、一旦街道まで出て街を探した。

半日ほど歩くと街が遠くに見えた。



「助けて!」


森の中から助けを呼ぶ声が聞こえた。

俺は人助けをするような人間ではないが、何となく放っておくことも出来ないと思い、走って声の元へ向かった。



そこには逃げ惑う若い男女数名と、怪我を負って動けない男が倒れていた。

そして襲っているのはオーク5体。



「助けはいるか?」


「いる!お願い!助けて!」



俺はその言葉を聞くと、ショートソードを抜いてオークを一体ずつ心臓目掛けて突き刺して倒していった。



「お前、大丈夫か?」

「うぅ・・・」


かなり血が流れたのか、意識を朦朧とさせた男に声をかけるが、まともな返答もできない状態だった。


辺りを見渡すと、怪我の治療に使う薬草が生えていた。それを掴み取ると、石の上に乗せ、石で擦り潰して水で洗った傷口に当てた。

そして上半身を起こすと、ポーションを飲ませた。



別に自分が助かりたいからポーションを持っていたわけじゃない。癖なだけだ。

俺は軍学校の学生の頃からポーションをいつも持ち歩いていたが、自分に使ったことは一度もない。


あの時もポーションを持っていたら・・・

すぐに彼女にポーションを飲ませることができたら・・・

助かったかもしれない。

そう思うと、ポーションを持ち歩かずにはいられなくなっただけだ。



「ありがとう。助かりました。」


さっき逃げ惑っていた男1名と女2名が近づいてきた。


「いや、別に感謝されるほどのことはしていない。」

「それでも、私たちが助かったのはあなたのおかげです。」

「俺たちはパーティーを組んでいて。でもまだ駆け出しだから薬草採集をしていたんです。それほど森の奥に入らなければ、魔獣も出ないって聞いてたのに、オークが出てきて・・・。

それでこいつが囮になって俺たちを逃がしてくれた。」


「そうか。ではお礼はこの男に言うといい。

もう薬草採集というのは終わったのか?街に戻ろう。」

「はい。」



まだ体つきも子供のような彼らに、動けないこの男を背負っていけるとは思えなかったため、俺が背負っていくことになった。


「すいません。仲間を担いでもらって。」

「あぁ。別に構わない。」


「あなたも冒険者ですよね?」

「あぁ。一応登録はしている。」


冒険者だと名乗れるほど、活動をしたことはない。クエストだったか?依頼もこの前のゴブリン討伐しかしていないしな。



「凄く強いように見えましたが、ランクを聞いてもいいですか?」

「あぁ。俺はBランクだ。」


「凄い。」

「やっぱり高ランクだったんだ。」


街に着くと、カードを見せて入る。



「どうするんだ?このまま冒険者ギルドに向かうか?」

「はい。ギルドにクエストの報告をして、彼を医務室で診てもらいます。」


ギルドには医務室なんてものがあるのか。知らなかった。



「分かった。では彼をギルドの医務室まで連れて行こう。」

「あの、ポーション代・・・、必ず支払いますから少し待ってもらえませんか?

まだ登録して間も無いので、すぐにポーション代を用意することは難しくて・・・。」


「ポーション代など別に要らない。俺が勝手に使っただけだ。」

「でも・・・。」


「俺は旅の途中だから、街に長くいるわけじゃない。ポーション代など気にすることはない。」

「そ、そうですか。」


「もし、次に会うことがあれば、その時は何かお礼をさせてください。」

「分かった。」


きっと、もう会うことなどないだろう。

しかし彼らの気が済むのなら、そう思って了承の返事をした。




人を1人背負ってギルドに入ると、やはり注目を集めてしまった。


「どうしたんですか?希望の翼の皆さん。」


受付の奥から女が走ってこちらに向かってきた。

確かに彼らの服は枝などに引っ掛けたのか、草で切ったのか、腕や足に傷があったり服も破れた箇所があった。


「森で薬草採集をしていたら、オークの群に襲われて、マルコが俺たちを逃がそうと囮になって怪我をして・・・

そんな時にこの方が助けに来てくれて。」

「そう。大変だったわね。オークの群ね、ちょっと話を聞かせてもらえるかしら?」


「俺は彼を医務室に連れて行かなければならない。」

「それは職員が代わるわ。」


そう言うと、すぐに職員と思われる男が2名走ってきて、背負っていた彼を連れて行った。


「そうか。俺も話をする必要があるのか?」

「えぇ、当たり前でしょ。」


「分かった。」


ただ彼らが襲われていたからオークを倒しただけなんだけどな。

特に報告するようなこともないが・・・



奥の部屋に通されると、椅子に座るよう言われた。

椅子に座ると、さっきの女とは別に細身の男が入ってきた。


「それで希望の翼のみんなはどこまで森の奥に入ったの?」

「そんなに奥には入っていないつもりです。」


「街道からどれくらい入ったのか距離は分かる?」

「えっと・・・」


「じゃあ君、彼らを見つけたのは街道からどれくらいの距離か覚えているか?」

「だいたい100メートルほどだな。」


男に聞かれて、俺は彼らを見つけた場所の街道からの距離を答えた。


「そうか。ではそれほど奥に入ったわけではないんだな。

で、君は誰なんだ?見かけない顔だが冒険者か?」

「一応冒険者登録はしている。リオだ。」


「リオさんはBランクで凄い強かった。オークは5体もいたのに、一瞬で全部倒したんだ。」

「5体もいたのか!?お前らよく無事だったな。」


「マルコが囮になって倒れて、すぐリオさんが来てくれたから助かった。

それに、薬草を擦り潰してマルコの傷に当ててくれて、マルコにポーションまで飲ませてくれた。

俺たちじゃマルコを担いで来れなかったけど、リオさんが森からギルドまで背負ってくれて。だから俺たちが無事なのはリオさんのおかげなんだ。」

「そうか。リオ、俺からもお礼を言おう。彼らを助けてくれてありがとう。」


「いや、お礼なら身を挺して仲間を守ったマルコという彼に言うといい。」

「分かった。それで、オークは5体で全て討伐したということでいいのか?」


「あぁ、全て倒した。怪我をした彼を運ぶのが先だと思ってそのまま置いてきてしまったから、まだそこにあると思う。ここから北に500メートルほど進んで右の森に入って100メートルほどの場所だ。」

「分かった。もしかしたら他にもいるかもしれないから、オークの回収と偵察のために人を向かわせよう。手配を。」

「かしこまりました。」

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